すべては生産性向上のため ~若き取締役の改革( 株式会社マテリアル 細貝 龍之介 取締役インタビュー③)

今あるものを大事にしたい。2代目社長就任に向けた抱負

現社長の細貝淳一氏は、近い将来引退することを表明しているため、次期社長就任が内定している細貝龍之介氏。実は、以前はものづくり産業が好きではなく、家業に入る気も、社長になる気も無かったという。最終回となる今回は、そんな龍之介氏がマテリアルに入社した経緯から、2代目社長ならではの悩み、さらに社長就任後の将来の抱負についてうかがった。

株式会社マテリアル 取締役 細貝龍之介氏


家業に入る気も、後を継ぐ気も無かった

マテリアル入社の経緯を教えてください。

細貝氏:大学卒業後、不動産会社に就職し、新築マンションの販売をしていました。当時は将来マテリアルに入社することも、後を継ぐことも考えていませんでしたし、両親からも特に言われたことはありませんでした。マテリアル入社のきっかけは、実は、妻の妊娠でした。当時、私は宇都宮に単身赴任しており、上司と2人で新築マンションの販売をしていました。もともと、そのマンションを完売すれば帰任できると聞いていたのですが、いざ完売してみると、もう一棟、新築マンション販売を担当するよう指示を受けました。それは、完売まで数年はかかると見込まれるタワーマンションでした。私は、出産を控えた妻や生まれてくる子供のことを考えると、単身赴任を続けることに気が進まず、悩んでいました。その時に、妻が私の母親に相談し、最終的に母親のすすめを受けて、マテリアルに入社することになりました。2017年のことです。ただ、入社当初は後を継ぐことまでは考えていませんでした。しかし、その後、入社3年目に家族の中で話し合いがあり、私が後を継ぐことが決まりました。そして取締役に就任し、現在に至ります。

 

支えとなった「下町ボブスレー」のつながり

お父様が「下町ボブスレー」プロジェクトのリーダーを務められていましたね。

細貝氏:父がリーダーとしてプロジェクトに関わっていたのは約10年前ですから、私自身は全く関わっていません。ですが、私は、あのプロジェクトの人のつながりにすごく助けられています。我々の業界は、同じ大田区の町工場といっても、実は得意分野が細分化されているのですが、「下町ボブスレー」のつながりのおかげで、それぞれの会社が何をやっているのか教えていただくことができました。また、当時父を慕って一緒にプロジェクトに取り組んでくれていたメンバーの多くが、今、2代目、3代目の社長になっていて、皆さん「恩返し」だと言って私に声をかけてくれるのです。本当にありがたいです。

 

「下町ボブスレー」の仲間に助けられた、具体的なエピソードはありますか。

細貝氏:ちょうど、役員になった頃のことです。中堅社員の方たちと人間関係がうまくいかない時期があり、恥ずかしながら会社を休んだ時期がありました。会社に来ると発熱し翌日は寝込んでしまう、ということを繰り返していたのです。それまでの人生では、ストレスを抱えたことなどありませんでしたが、初めて「頭に血が上る」という感覚を味わいました。その時に、ボブスレーの仲間で、2代目、3代目社長の方たちに相談に乗ってもらいました。皆さん、当時の私と同じような経験をされていて、その方たちから、うまくいかない人との付き合い方など、いろいろなことを教えてもらいました。おかげで今では人間関係の悩みはすっかりなくなりました。

 

社長就任後を見据えて

これから事業承継の準備を進めていく時期かと思いますが、そちらの悩みはありますか。

細貝氏:一つは、知識がないのが悩みです。特に相続関連の知識が不足していると感じています。もう一つは、これが最大の悩みですが、工場の建て替えです。建屋が築70年という工場がありまして、その工場で10台以上の設備が稼働しています。工場を建て替えるとしたら、その間それらの設備をどこに移設するか、その間の設備稼働をどうするか、投資費用をどのようにして工面するかなど、少し先のことではありますが大きな悩みです。

 

最後に、社長就任後の目標を教えていただけますでしょうか。

細貝氏:実は、あまり「何かを変えよう」とは思っていません。今あるものを大事にしたい、今いる社員を大事にしたいと思っています。ですから、社長になるタイミングで私がやりたいことは、社員の給料水準を一段階引き上げることです。もちろん、そのためには売上も増やしていく必要がありますが。

それと、もう一つ考えていることは、どこかのブランドと協業して一般の方の目に触れる製品を作ることです。今、私が考えているのはアルミニウム婚式向けの記念品です。アルミニウム婚式というのは、金婚式、銀婚式のような形で結婚10年目に訪れるものです。我々はアルミ加工が強いので、その強みを生かして、アルミニウム婚式の記念になるような製品を作りたいと考えています。

そう考えたきっかけは、社員が自分の仕事の価値を伝える場を作りたい、と思ったからです。普段我々は、一般の方からは見えない部分ばかり作っているため、その価値が世の中には伝わりにくいのです。例えば、当社は風船の金型も作っていますが、一般の方の目に触れるのは風船です。このわかりにくさが、小学生がなりたい職業に選ばれない原因ではないか、と思いあたりました。ですから、何か「これ、私たちが作りました」と言えるものを作りたい、そういうことを、特に子供ができてから思うようになりました。

実は私自身も、正直言うとものづくり産業は好きではありませんでしたが、衰退しつつあると言われているものづくりの現場に身を置いてみて、「無くしたくない」と強く思うようになりました。そうして考えた結果、人の目に触れるものが良いと思ったのです。社長がボブスレーに取り組んだのもきっとそういう思いがあったのだと思います。その思いは同じですが、私は一般の方の目に触れるもので、しかも購入できるものを作りたいと思っています。


業種   金属の精密加工、材料販売、CAD設計、ITソリューションサービスなど

設立年月          1992年7月

資本金              2001万円

従業員数          30人

代表者              細貝 淳一 氏

本社所在地      東京都大田区南六郷3-22-11

電話番号          03-3733-3915

公式HP           https://www.material-web.net/

この記事の著者

吉田樹生

吉田樹生中小企業診断士

1975年愛知県豊田市出身。東京都在住。神戸大学経営学部国際経営環境学科修了。日系ITベンダーにて海外営業を担当した後,米IT調査会社を経て,現在は米ITベンダーの日本法人に勤務。インド駐在経験をもつ。2021年中小企業診断士登録。ITとファイナンスを武器に中小企業のグローバル戦略を支援することが目標。

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