無電解ニッケルと工業用クロムめっきの2層めっき技術(大森クローム工業株式会社)

無電解ニッケルと工業用クロムめっきの2層めっき技術(大森クローム工業株式会社)

<写真:ニッケルクロムめっきを施したアルミのローラー>

 

ニッケル+クロムの2層めっき技術

大森クローム工業株式会社は、1951年の創業以来、工業用クロムめっきを主軸に事業展開し、日本の製造業を支えてきた。同社の誇る匠の一品は、アルミ素材の表面に無電解ニッケルめっきを被覆しさらに工業用クロムめっきを被覆するという2層めっき技術だ。

工業用クロムめっきは単層でも高い耐食性を有するものの、港湾地帯の工場や輸出のため製品を海上輸送する際など潮風を受ける環境下では腐食してしまう可能性がある。なぜならば、工業用クロムは皮膜に微細なクラック(割れ)が発生することが知られており、工業用クロム単層めっきの場合、そのクラックの隙間から塩分が侵入し素材の金属に達してしまうからだ。その対策として開発された技術が、ニッケルめっきを下地に敷きその上に工業用クロムめっきを被覆する2層めっきの技術だ。ニッケルめっきはクラックが発生せず被覆性が高いため、工業用クロムめっきのクラックから侵入した塩分が素材まで達することを防ぐ。これにより、耐食性を高度に高めながら工業用クロムめっきの特性である耐摩耗性や離型性も得られ、まさにニッケルめっきと工業用クロムめっきのいいとこ取りができるというわけだ。

 

金型へのニッケルクロムめっきを可能にする無電解ニッケルめっき技術

下地として使用するニッケルめっきを被覆する方法には「電気ニッケルめっき」と「無電解ニッケルめっき」という2通りの方法がある。電気ニッケルめっきの原理は次のとおりだ。ニッケル金属を陽極とし、めっき対象の素材を陰極としてその両極をめっき液に浸した状態で直流電流を流す。すると、陽極ではニッケル金属が電子を電極に残してニッケルイオンになる反応が生じ、陰極では液中のニッケルイオンが電極から電子を得て金属になる反応が生じてニッケルめっき皮膜を形成する。この原理では電流分布がめっきの厚みに影響を与えることから、電気ニッケルめっきの対象はローラーやシャフトなどの単純な形状のものに限られるという。

一方、無電解ニッケルは、電気を使わず化学的還元反応でめっきをするため、金型などの複雑な形状のものでも均等に被覆することができる。そのため、同社は「無電解ニッケルめっき」に注力している。創業より70余年にわたり金型へのめっきに取り組んできた同社は、金型に無電解ニッケルめっきを施した上で、独自の治具を用いて電気めっきにより複雑な形状の金型に均一に工業用クロムめっきを施すことができる。このように無電解ニッケルと工業用クロムめっきによる2層めっきを複雑な形状の金型に対して施せる企業は日本に数社しかないという。

 

<無電解ニッケル+工業用クロムめっきの2層めっき>

 

難めっき素材であるアルミへのニッケルクロムめっき

最近は、このニッケルクロムめっきをアルミに対して行う需要が高まっているという。その理由は、アルミは重量が鉄の約3分の1と軽量であることと、アルミは軟らかいため鉄に比べ加工性が高いことだ。例えば、大規模な工場では1,000本を超えるローラーを使用するケースもあるため、ローラーを鉄からアルミに置き換えることで大幅な省電力化を実現できる。また、例えば金属をプレスして製品を製造する際、鉄をアルミに置き換えることで加工時間を短縮できるため生産性が向上するのだ。ただ、難点もある。アルミはその軟らかさゆえに、硬度が求められる場合はそのままでは鉄の代替として使用できない。そこで、工業用クロムめっきの出番となるのだが、アルミは密着性が弱いため従来はめっきをすることが難しい「難めっき材」として知られてきた。しかし同社では、前処理工程を工夫することなどにより、アルミ素材に対してもニッケルクロムめっきを施す技術を確立している。そのため、鉄をアルミに置き換えたいが表面の硬度を高めたいという顧客から、同社への問い合わせが増加しているという。

創業当時から「なんでもやる」挑戦の姿勢で培ってきた技術力で、顧客のニーズに向き合ってきた同社の匠の技術は、時代のニーズに密着してさらにその重要度を増している。

 

この記事の著者

吉田樹生

吉田樹生中小企業診断士

1975年愛知県豊田市出身。東京都在住。神戸大学経営学部国際経営環境学科修了。日系ITベンダーにて海外営業を担当した後,米IT調査会社を経て,現在は米ITベンダーの日本法人に勤務。インド駐在経験をもつ。2021年中小企業診断士登録。ITとファイナンスを武器に中小企業のグローバル戦略を支援することが目標。

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