- 2024-7-16
- 取材・インタビュー
工場から会社へ
金沢シーサイドライン南部市場駅から歩いて10分、巨大な工場や倉庫が立ち並ぶ工業団地にたどり着きます。団地の一画に小さいながらも存在感を示すのが、有限会社本間製作所です。1988年の創業以来、旋盤加工・フライス加工・複合加工に特化した事業を展開。多品種中量、あらゆる金属加工品を提供できる同社ですが、多くの苦難を乗り越えたからこその今であり、技術屋の新たな地平を見るべく、その歩みを止めることなく挑戦を続けています。
第二回目の今回は、本間製作所の過去の苦難、その苦難に対しどのようなアクションを起こしたのか、二代目代表取締役の本間政貴氏(以下、本間氏)に話をうかがいました。

有限会社本間製作所 代表取締役 本間政貴氏
組織を動かす哲学
前回、入社時の空気に戻らないようにしたいとのお話がありました。入社時の空気とは一体どういったものだったのでしょうか。
本間氏:私が入社したのは2002年頃、現在の拠点に引っ越す少し前でした。そのころは、大量生産の製品中心の考え方に立つ、昭和のモノづくりがまだまだ続いていました。先代もそういった製品を中心としたやり方をしていましたから、技術面でも品質面でも周りを見渡すと物足りないと感じました。また、祖父の会社から仕事をもらい、もらった仕事を生産する、それを繰り返していました。「これでは会社ではなく、いち工場だな」と感じました。そこで働く社員も、指示待ちの空気が漂っていました。考えずとも社長の指示に従えばいい、そんな空気でした。
「会社ではなく、いち工場」ですか。会社にするために本間氏はどうしましたか。
本間氏:2013年に先代から私に会社を引き継いだのですが、それは突然のことで、ある日先代が会社に来ることができなくなったのです。若年性アルツハイマーでした。急なバトンタッチだったため、先代が持つノウハウや技術など一切のバックボーンがない状態でのスタートなうえに、2013年当時の業況は悪く、厳しい環境でいきなり代表取締役に就任することとなりました。不安でしたが、逆に自分が思ったようにトライアルできると思い奮起しました。
会社のこの空気をどうしたら解消できるのか、工業会の仲間や先輩から「まずは理念を掲げて、みんなで同じ方向を向いて、足並みをそろえることが必要だよ」とアドバイスいただき、企業理念を作りました。「技術をもって社会に貢献し、その対価をもって会社の発展と従業員の幸福を永続的に実現する」を企業理念として、現在もみんなで読み上げています。社員にはせっかく人生の一部をささげる仕事ですので、モノを創造することに誇りを感じてもらいたいと考えています。幸福の定義は人それぞれですが、自分たちのつくったモノが世界中で役に立っていること、お金を出して買う価値があるモノをつくっていること、そのことに喜びを感じてもらいたいという思いを詰め込んでいます。ひとつの方向性を決めるのは、やっぱり意識改革につながると感じます。
ほかにどのようなアクションを取っていたのでしょうか。
本間氏:ミーティングを始めました。もともと私は公式な場でコミュニケーションを取ることは不要だと思っていました。わざわざ社内ミーティングを設けなくても、いつもお互い話をしていたからです。ですが考えを改めて、定例会、5S活動、技術講習といった3種類のミーティングを月に1回ずつ、月に3回みんなで集まる場をつくりました。最初はお通夜のような会議でしたので、順番に指名したり、出席者に「今月何があった?」「こういう課題があるよね」など、私が全部下準備して何とか回答できるように工夫しました。
「ミーティング」と名が付くだけで、普段の会話とは違いますね。
本間氏:そうですね。「ここで発言して決まると、それに従って動く」、こうしたことを大事にして実際に示すことによって、ちゃんと考えて意見を言ってくれるようになります。発言一つ一つがゴールです。先日も5Sのミーティングで、「ねずみが出た」というお題が挙がりました。私はネバネバのネズミ捕りを設置したのですが、工場長から「カゴの方がいいから仕掛けてみる」と提案を受け、実際にカゴを仕掛けてみると捕まえることができました。このように大なり小なりの問題に対して社員自ら考えるようになり、今では当初のような私の工夫が無くても、社員が自発的に発言できるようになっています。
そうした取り組みを重ねて、社員の意識は変わっていったのですね。
本間氏:最高責任者は私ですが、会社=私ではないと思っています。各々の知恵と行動が会社を良くする、そんな風に組織づくりをして、なるべく社員に任せられるところは任せるようにしました。私はそもそもモノづくりが好きで入社しました。だから、就任当初は現場で担当機を回しながら経営をやっていました。しかし、多少無理やりでしたが、思い切って自分の担当機を社員に任せたのです。当時は(今は違いますが)加工の腕は私の方があったと思いますが、社員に任せた方が結果的に売上は上がりました。私が現場を兼任していた時は、お客様対応を優先して機械を止めるようなことがよくありましたが、任せることで、私はお客様対応や仕事を取りに行くことに専念でき、その方がいいとわかりました。いかに自分の驕りと自己満足があったかとすごく反省しましたし、組織で人に任せることの重要性を痛感しました。

担当機を真剣に操作する社員
就任当時と今では売上はどうなっているのでしょうか。
本間氏:引き継いだ当初に比べると、売上は倍になっています。これまでの組織づくりが間違っていなかったことの現れだと思っています。すべてには浮き沈みの波がありますので、手を止めることなく、いろいろな取り組みに挑戦しています。
どのような取り組みをされているのか、次回お聞かせください。
業種 金属製品製造業(旋盤加工・フライス加工・複合加工の機械加工業)
設立年月 昭和63年4月2日
資本金 5,000,000円
従業員数 7人
代表者 本間政貴
本社所在地 神奈川県横浜市金沢区鳥浜町2-62
電話番号 045-778-6674