独自のものづくり技術を軸に、地域とともに未来を創る(株式会社玉川パイプ 玉川大輔社長インタビュー②)

「仲間まわし」を活かすためにも新たな挑戦

大田区といえばものづくりの町。大田区に来れば「こういうものを作りたい」が可能になるという期待がある。そこに登場するのが「仲間まわし」というキーワードだ。しかし、玉川社長は自社技術の付加価値を高め、内製も大事にすることを強調する。待ちの姿勢ではなく、より幅広くニーズをつかむ視点は、コロナ禍で生まれた画期的な新製品にも結実した。3回シリーズの第2回では、マーケティングのヒントを多く聞くことができた。

株式会社玉川パイプ 代表取締役 玉川大輔氏

 

付加価値を高めて仲間も広げる

「仲間まわし」に頼り過ぎないという点についてお聞かせください。

玉川氏:仲間まわしは、自分たちがそれぞれにもっている得意分野を生かすネットワークなので、技術をもった町工場が集積した大田区ならではの強みです。一方で、外注に多く頼れば自社が得られる利益は低くならざるを得ません。

また、大田区の町工場が減少している状況にあって、5年後、10年後には仲間まわしが組めない案件も増えてくると思われます。そのため、協業先も大田区だけでなく、神奈川、埼玉、千葉などに仲間まわしの範囲を広げることを併せて考えています。

武器としての仲間まわしを今後も生かしていくためにも、自社の技術をより幅広く知ってもらうことが必要ですし、内製できる仕事を増やして利益率を高めることも求められます。

 

足踏み式の消毒液スタンド「STEPON@」がヒット商品になりました。

玉川氏:昨年度の売上高のうち、BtoCの商材が2割弱まで増えました。柱となったのが2020年に販売開始した足踏み式の消毒液スタンド「STEPON@(ステップオン・アット)」です。新型コロナウイルス感染症による最初の緊急事態宣言が出された2020年4月、「スーパーマーケットで消毒液を手で押すのが嫌だ。ネットを見たら足踏み式があるようだ」という家族の声を受けた社員の発案でした。「うちで作ってみよう」と、すぐに図面を書き、自社でできない部分は協力会社に依頼して試作をしました。

足踏み式のスタンドは、コロナ前から既存製品が医療機関などで使われていたのですが、コロナ禍の当初は欠品しており、海外から部材が入ってこない状態でした。作ったのはパイプの加工技術を生かした構造で、16社が絡む仲間まわしです。

初めは地域貢献として、大田区役所や近隣の病院や学校に寄贈しようと始めたのですが、「商品化したらどうだ」という声を多くもらい、BtoC商品に挑戦することになりました。ところが、仲間まわしで各社の取り分を積み上げ式に値付けをすると、買ってもらえるような価格にならない。市場価格がこれぐらいになるには、原価をどこまで抑えないといけないか、といった経験値を得ることができました。

 

よりコンパクトになった新製品STEPONpitto(ステップオン・ピット) (写真提供=株式会社玉川パイプ)

 

自分たちから発信していくということ

STEPONシリーズは大田区の新たなアピールになりました。

玉川氏:STEPON@は、メイドイン大田にこだわって、大田区の会社を中心に16社で部品作りと表面処理を行い、弊社の第2工場で組み立てて出荷しています。また、社員皆で話し合って、SNSだけを使って発信し、ネットの口コミで広がっていきました。

私は、大田区の工場は製造業ではなく加工業だと思っています。加工業というのは、加工だけでは商品として成り立たないものです。大量生産大量消費の時代なら、待っていれば大手メーカーから仕事が降ってきたと思いますが、今は、一つひとつがこだわりのある小ロットの市場になってきました。

そのため、柔軟性を養い、一歩進んで自分からこういうものを作りたいと発信することが必要だと思います。ただ待っているだけでは食っていけない。仲間まわしも何かニーズがあって成立するものであって、その何かを自分たちで作らないと次第に無くなってしまう。それは避けたい。

 

展示会への出展など、発信についてお聞かせください。

玉川氏:今年(2022年)は3月上旬に「試作市場」という催事に、(公財)大田区産業振興協会が取りまとめた5社のうちの1社として出展しました。6月にも、東京ビッグサイトで行われる「機械要素技術展」に東京都のブースで出展予定です。弊社は10月決算ですが、11月に始まる新年度からは四半期に少なくとも1回は展示会に出るという計画を立てています。

自社の技術をまず知ってもらうことが狙いです。それに展示会ではいろいろな人との出会いが広がる可能性があります。省スペースのフィットネス器具を開発する株式会社TEDDY WORKSの小熊將太社長と出会ったのも3年前の展示会でした。偶然の出会いから、天井と床を突っ張って設置する懸垂器具「KENSUI」の開発が実現し、クラウドファンディングが成功して2021年3月から一般販売が開始されました。弊社のパイプ加工技術を活用した製品だと多くのメディアで話題になりました。

 

パイプのレーザー加工 (株式会社玉川パイプFacebookページより)

 

仮説を立てて新規開拓

営業活動のポイントをどう考えられますか。

玉川氏:弊社の人員構成は、全11人のうち営業担当が私を含めて3人です。営業担当の1人は既存のお客様をルートで回るのが中心で、もう1人は新規案件の開拓を担当しています。私は、お客様が玉川パイプの製品を選んでくれるのなら、パイプでなくてもよい。基本は金属加工とパイプですが、波及するものは何でもOKだと考えて社員に任せています。

大田区の町工場は皆さん技術をもっているのですが、どこにその技術の市場があるのか意外と分かっていないのではないかと思います。私たちも分かっていないところがある。多くの町工場が、マーケティングできないまま技術だけ磨いているのではないでしょうか。それでも、待っているだけではなくて、新市場の仮説を立てながら新規開拓をやっていくしかないのです。

実は、弊社が試作を重ねて独自の技術をもっている「多重構造管」というパイプがあります。鉄と銅など異なる金属が重なった構造で、それぞれの金属のメリットをいいとこ取りしたようなパイプです。発注元の用途は分かっていますが、きっとさらに需要があると考えて、土木系などこれまでと違う分野の展示会にも情報収集に行こうと思っています。


<会社概要>

業務内容  引抜鋼管製造および各種鋼管販売・金属加工

設立年月  1959年11月

資本金   1000万円

従業員数  10人

代表者      代表取締役 玉川 大輔

本社所在地  東京都大田区南六郷2-21-11

電話番号    03-3738-3538

公式HP     http://tamagawa-pipe.com/

この記事の著者

宮田昌尚

宮田昌尚中小企業診断士

熊本県出身。早稲田大学政経学部卒業後、メディア企業に入社。出版部門の広告営業や企画運営等を長年担当し、CSR推進部門で各種事業の推進に携わった。現在はグループ会社に勤務。中小企業診断士として、信念をもった経営者の取材・執筆を多く行っている。

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