時代のニーズに密着して進化する表面処理技術のプロフェッショナル(大森クローム工業株式会社 宮川 岳大 氏インタビュー③)

社員のモチベーションが競争力の源泉
昭和26年創業の大森クローム工業株式会社。周囲をマンションに囲まれた本社の外観は昭和の香りが漂う。しかし、その外観とは裏腹に、同社が取り組む人事評価制度や委員会制度は工夫が凝らされていて実に先進的だ。最終回となる今回は、同社が取り組むユニークな人材育成制度と、将来へ向けた取り組みについて、取締役埼玉工場次長兼社長室長を務める宮川岳大氏にうかがった。

大森クローム工業株式会社 取締役埼玉工場次長兼社長室長 宮川岳大氏

 

全員参加の委員会活動

 

第2回で少し触れた委員会活動について詳しく教えてください。

宮川氏:当社では、社員全員参加の委員会活動という取り組みをしています。IT推進委員会、環境整備・SDGs委員会、NEXT10パクリ委員会、イベント委員会という4つ委員会があり、社員全員が自分の好きな委員会を選び必ずどれか1つは参加することになっています。

 

NEXT10パクリ委員会というのは面白いネーミングですが、どのような活動をしているのですか。

宮川氏:当社の次の10年を見据えて、全国の製造業のお客様に当社を知っていただくための活動と、それに加えて、どこかの拠点が行っている良い取り組みがあれば他の拠点にもどんどん展開していこう、という改善活動を行っています。メンバーの主体性を重視していて、例えば展示会の企画やカタログ制作もこの委員会のメンバーで採決する形をとっています。ですから、私や専務の意見が通らないこともあるのですが、上司から「やれ」と言われてやるのではなく、自分たちで決めてやるので本人たちも気持ちよく取り組んでいるようです。以前、入社数年目の製造部門の若手の社員が「カタログ作って楽しかったです」と言ってくれたのはうれしかったですね。普段はお客様と接する機会のない社員が、こういう活動をすることによって新たなことを学んだり気づきを得たりして、本人の成長につながっていくと良いなと思っています。

 

<NEXT10パクリ委員会の活動を紹介する掲示板>

 

自ら目標を立て、自ら評価する評価制度

 

人事評価制度についても、どのような取り組みをしているか教えてください。

宮川氏:当社では「キャリア・チャレンジシート」と「巨匠への道」という2つの評価制度を導入しています。キャリア・チャレンジシートは、期初に社員が自分で目標を設定し、それに向けてどのような活動をしていくか、そしてどれくらいできたら何点ということを評価シートに記入します。それをもとに、期初、期中、期末の3回、管理職と面談を行って目標に対する達成度を確認する振り返りを実施しています。もう一つの「巨匠への道」は、簡単に言うと「職人認定制度」です。これは社長が各工場の社員たちと議論を重ね、当社で求められるスキルを2年がかりで100項目に絞り込み一覧表にしたものです。こちらは年1回自己評価を行い、その後管理職と面談を行っています。

 

社員の主体性を重んじて、やる気を引き出していこうとされているのですね。

宮川氏:はい、それは社長が今までずっと力を入れていて、感心しています。「キャリア・チャレンジシート」は、自分自身の目標を持ってもらうことでやりがいを持ってやってもらえるというのと、年3回の面談で会社の目標と社員の目標をすり合わせることで、一体感を持って仕事に取り組んでもらえていると思います。また「巨匠への道」は、当社は機械よりも職人技の会社ですから、職人をしっかり評価して大事にしていることの表れです。各人が120%の力を出せれば10人でも12人分の生産能力になるので、職人のモチベーションがすごく大事だと思っています。他にもいろいろな施策を行っています。

 

他にはどのようなことをされているのですか。

宮川氏:ひとつは「ゲッポウ」という「目安箱」のような仕組みを導入しています。これは社員が匿名で、困っていることや不満に思うことを申告できるシステムです。ここで上がって来た生の声に一つ一つしっかり対応していくことで、社員が楽しく働けるようになり、長く働いて技術を高めてくれたら生産性向上にもつながると思っています。

もう一つは、実は来月から社員全員にスマートフォンを配布して、そのスマートフォンに資材管理や勤怠管理ができるアプリを入れ、資材発注や勤怠管理をオンライン化することを予定しています。最終的には、「キャリア・チャレンジシート」や「巨匠への道」もオンラインから実施できるようにすることで紙の使用量やデータ入力・集計等の作業工数削減にもつながると考えています。

 

将来へ向けた取り組み

最後に将来へ向けた取り組みについて教えてください。

宮川氏:まず、未来のあらゆるリスクを想定した準備をしていきたいと考えています。当社はこれまで研磨など外注先に依存し過ぎていた部分がありますので、今後はなるべく社内で加工ができるように進めていければと思います。  

人材育成の観点では、当社は機械化がなかなか難しい職人技の仕事が中心になるので、その職人たちの成長をサポートしていけるツール(キャリア・チャレンジシートや巨匠への道)を大切にしつつ、より職人たちがやりたいことを思う存分楽しく仕事が出来るような仕組みを増やしていきたいです。将来的には5Gを使って、どの拠点であっても遠隔操作でベテランの職人が若手職人に対して、めっきのセッティング確認などを直接指導できるようにしたいと考えています。

一方、技術的な観点では、弊社は平成26年から技術開発室を立ち上げており、現在も複数の研究開発を進めています。中でも、現在、某大手企業と協力しながら進めている研究は、当社でしかできないめっき技術の開発を進めています。このようなオンリーワンの仕事を創造していく事にも取り組んで行きたいです。

また、当社の扱っている工業用クロムめっきは、めっき液に六価クロムを使用していますが、この六価クロムはヨーロッパのRoHS規制などで規制対象になっています。めっきを施した製品は六価クロムを含有せず規制対象ではありませんが、今後の規制や法律変更等のリスクも想定して準備を進めていく必要があると考えています。


業種   表面処理事業、ロール製作/機械加工事業、設備メンテナンス事業

設立年月          1951年3月19日

資本金              3,000万円

従業員数          75人

代表者              代表取締役社長 宮川 容子 氏

本社所在地      東京都大田区大森西1-1-3

電話番号          03-3761-3101

公式HP           https://www.ohmori-cr.co.jp/

 

この記事の著者

吉田樹生

吉田樹生中小企業診断士

1975年愛知県豊田市出身。東京都在住。神戸大学経営学部国際経営環境学科修了。日系ITベンダーにて海外営業を担当した後,米IT調査会社を経て,現在は米ITベンダーの日本法人に勤務。インド駐在経験をもつ。2021年中小企業診断士登録。ITとファイナンスを武器に中小企業のグローバル戦略を支援することが目標。

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