時代のニーズに密着して進化する表面処理技術のプロフェッショナル(大森クローム工業株式会社 宮川 岳大 氏インタビュー②)

チーム力で新規顧客開拓
創業から70余年にわたり、「何でもやろう」という精神で、顧客のニーズに向き合ってきたことで技術力を高めてきた大森クローム工業株式会社。コロナ禍による業績の落ち込みを経験しながらも、ピンチをチャンスに変えるべく、社員とアイデアを出し合って営業活動を行っているという。第2回は、取締役埼玉工場次長兼社長室長を務める宮川岳大氏に、ご自身のエピソードも交え、営業活動を中心にお話をうかがった。

大森クローム工業株式会社 宮川岳大氏

 

新規顧客開拓への取り組み

営業体制について教えてください。

宮川氏:当社は、本社・東京工場と埼玉工場、東北工場という3拠点ありますが、既存顧客からの繰り返し受注は主に各拠点の生産管理課が対応しています。新規顧客開拓は本社の営業開発部が担当していますが、それに加えて当社では全員参加の委員会活動を行っていて、その中から興味がある人には営業活動に参加してもらっています。委員会活動では、メールマガジンやダイレクトメールの配信、展示会の企画、ホームページ更新やカタログ制作のアイデア出しなどを行っています。

 

コロナ禍の影響はありましたか。

宮川氏:影響は受けました。徐々に売上が下がって、一時はリーマンショックの時と同程度まで落ち込みました。当社の場合、お客様から製品をいただいて初めてめっきをすることができますので、それがないと仕事になりません。今までそれほど積極的に営業しなくても受注が入ってきていた部分もあったため、これを機会に「我々も変わっていかなきゃいけないよね」と意識改革を行い、オンラインの営業支援ツールの活用を進めたり、ホームページからオンライン相談を予約できる仕組みを整備したりと、新しい取り組みを始めました。

<ホームページ上からオンライン相談を予約できる仕組みを整備した>

 

 

新規顧客の獲得はどのような経路が多いですか。

宮川氏:当社の場合、お客様からのお問い合わせが最も多いです。特に最近はこれまで取引されていたところが廃業してしまったため、他のめっき業者を探しているというお客様からの相談が多いです。それに加えて、5、6年前から展示会への出展に力を入れており、徐々に展示会からの新規顧客開拓が増えてきています。当社が得意とする「工業用クロムめっき」というのはすごくニッチですから、ターゲットを絞った展示会への出展は新規顧客と出会う可能性が高い取り組みであると考えています。今年はすでに4回出展していて今後も出展を計画しています。

 

展示会に出展される時に工夫していることはありますか。

宮川氏:オンラインのビジネスマッチングウェブサイトがあり、当社はそのウェブサイトに登録しています。お客様がウェブサイト上から当社のカタログをダウンロードする際、ユーザー情報を登録していただいています。当社では、展示会の開催前にこうした登録ユーザーやこれまでの営業活動の中でいただいたお客様の名刺情報をシステムに顧客登録していて、展示会出展のお知らせを配信できるようにしています。お知らせをした上で出展することで集客率をあげられていると思います。

 

チームワークで勝ち取った10年越しの大型受注

ご自身について教えてください。

宮川氏:私はアメリカの大学で経営学を専攻してMBAを取得しました。帰国後、別の会社で少し働いた後、山形県で同じめっき業を営んでいるスズキハイテック株式会社で半年ほど勉強させていただきました。スズキハイテックさんは、会長さんが若い頃当社に来て勉強していたご縁があり、社長と祖父から「あの人のところで勉強してきなさい」と強く勧められてお願いした、という経緯です。その後、2011年1月から当社に入りました。東京と岩手の拠点で2、3年ずつ製造と営業の勉強をして、現在は埼玉工場で工場次長を務めています。

 

スズキハイテックで一番勉強になったのはどんなことですか。

宮川氏:スズキハイテックさんは会長さんも社長さんもすごく素敵な方で、本当に人生の師匠と思っています。会長さんは中学2年から剣道をはじめられ七段の剣士でいらっしゃいます。社屋内に開設された道場で毎朝欠かさず心身鍛錬に励まれています。稽古前には仏壇、神棚にお参りし、150本の素振りをした上で稽古を行い、稽古後には剣道仲間と「剣道修練の心構え」を唱和する、という事を毎日されていました。そう聞くとすごく厳しい方と思われるかもしれませんが、常に穏やかで社員への対応も寛容で、決してどなったり怒ったりしない優しい方です。私は会長さんからそういった寛容な心構えや、道徳的規範を学びました。社長さんからは、品質管理や原価計算など実務のいろはを学びました。そしてお二人の阿吽の呼吸です。お二人がどのように経営をされ、バトンを引き継がれて来たか、半年という短い期間でしたが勉強をさせて頂きました。

また、経営をしていく上で、相談できる、そして刺激をもらえる次世代社長さんも大勢紹介して下さいました。お二人とも、人と人との繋がりをとても大事にされていて、仕事を増やしていくにも、新しい事業展開をしていくにも、大事なのは人との繋がりで、それが新しい挑戦を支えてくれるとおっしゃっていました。

そのことを念頭に置き、日々の業務にあたる中で、一番うれしかったのはお客様との関係を継続してきたことによって、10年越しで大きな仕事をいただいたことです。

 

10年越しの受注とは、どのような案件だったのですか。

宮川氏:私が入社当時東京にいた頃から担当していたお客様で、金型関係のお仕事は多少やらせていただいていたのですが、ロールは競合他社がいてなかなか入り込めなかったのです。それでも毎年どこの拠点に行っても、年一回のゴルフコンペと賀詞交歓会には必ず参加して、そのお客様と関係が途切れないように10年間ずっと通い続けてきました。そうしたら、ある時その方から初めてロールへのめっきを当社に発注することを検討するというチャンスをいただけたのです。その時は、自社の職人にすごく助けてもらいました。今までやったことのない仕様のものを「急ぎで何とか一本加工してくれないか」と依頼することが何度もあったのですが、職人たちは嫌な顔一つせず一生懸命対応してくれて、そのおかげで顧客のニーズに対応でき最終的に受注できたのです。ですから、受注が決まったときは現場とのチームワークで勝ち取ったと感じてすごくうれしかったです。

 


業種   表面処理事業、ロール製作/機械加工事業、設備メンテナンス事業

設立年月          1951年3月19日

資本金              3,000万円

従業員数          75人

代表者              代表取締役社長 宮川 容子 氏

本社所在地      東京都大田区大森西1-1-3

電話番号          03-3761-3101

公式HP           https://www.ohmori-cr.co.jp/

 

この記事の著者

吉田樹生

吉田樹生中小企業診断士

1975年愛知県豊田市出身。東京都在住。神戸大学経営学部国際経営環境学科修了。日系ITベンダーにて海外営業を担当した後,米IT調査会社を経て,現在は米ITベンダーの日本法人に勤務。インド駐在経験をもつ。2021年中小企業診断士登録。ITとファイナンスを武器に中小企業のグローバル戦略を支援することが目標。

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