0.001mmの凹凸もない“ゼロ”を作り出す技術力(関鉄工所 関社長インタビュー②)

「変わらなければいけない」芽生えた危機意識

2020年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大がきっかけとなり、従来から懸念していたリスクが現実となった。なぜそのようなことが起こってしまったのか、今後どのようにして会社を存続、成長させていくのか。代表取締役社長関英一氏に今後の展望についてうかがった。

コロナ禍で痛感した1社依存のリスク

現在の主な取引先を教えてください。

関氏:祖父の代から取引のある容器メーカーで、主に容器製造機械の部品を受注しています。15年程前までは売上全体の9割以上を占めており、現在でも7割超を占めています。2020年から新型コロナウイルス感染症の感染拡大が起こり、ステイホームが浸透したおかげで、家庭用品の容器メーカーの需要が上昇しました。もちろん、メイン取引先である容器メーカーの売上も急増しましたが、当社はその逆でした。

取引先が新製品を開発するたびに製造機械の部品は交換になるため、当社は取引先から毎年何十台という機械の部品を受注していました。しかし、コロナ禍で製造が追いつかないくらい容器の需要が高まったため、機械を止めることができなくなりました。機械を止めることができないということは、つまり部品交換をすることができないので、毎年のようにあった機械部品の受注がなくなってしまいました。取引先の景気がいいからといって、当社の景気がいいということにはならないと痛感しました。

 

今回の経験を踏まえて、何か変えていこうと思われたのでしょうか。

関氏:前々から考えてはいたのですが、今回のことで、1社に集中した取引先構成を見直さなければいけないと今まで以上に思いました。そのためには、他のお客様からの発注を増やさなければなりません。そこで、組立をやっていた従業員に、営業も掛け持ちをさせることにしました。既存の取引先と見積もりや発注の対応、打ち合わせなどをすることでお客様の信頼を得て、営業マンとしても成長してほしいと思っています。現在、新規受注を獲得するのは社長である私のみなので、今後は他の従業員も新規開拓の営業までできるようになってくれればうれしいですね。

 

社長が考える御社の弱みや課題はありますか。

関氏:先ほどの話に通ずるところはありますが、新規顧客開拓の営業力、PR力が足りないと感じます。面白い技術を持っているのですが、なかなかそれを伝えきれていないですね。そのため、当社の技術を求めているお客様に届かないというのが、惜しいというか、もったいないなと思っています。仕事が増えることで売上はもちろんのこと、従業員の技術もその分向上しますから、そういう面でも会社PRに力を入れていきたいと考えています。

今は、インターネットやSNSなど、情報を発信する方法はいくらでもあるので、まずは自分が発信をしていきたいと思っています。また、そのようなノウハウは若者のほうがあると思うので、若い従業員の意見も取り入れつつ、試行錯誤していきたいです。

 

技術者が育つ過程に喜びを感じる

20代の方も数名いらっしゃいますが、若手の教育はどのように行われているのでしょうか。

関氏:基本的にはマンツーマンでOJTを行っています。私や熟練の技術者が直接教えたほうが若手の身に付きやすいのでしょうが、当社ではそのようにしていません。それまで教わってきた人間が、新しく入ってきた部下の世話親になって、教えるようにしています。というのも、人に教えるという過程の中で、自分の知らなかったことに気づいたり、もう一度しっかり勉強しようと思うきっかけになったり、自分自身の成長につながると思うのです。そういう考えがあるので、教わってきた人間は、新しく部下が入ってきた時には教える立場になるようにしています。私もベテラン従業員も、若手にはあまり直接指導をせずに、世話親担当を通して、指導をするように意識しています。

 

工場ごとに教育・育成の仕方は違うのでしょうか。

関氏:座間工場では複雑な技術を扱うことが多いので、専門の技術者を育てていきたいと思っています。一概に加工技術といっても、横中繰り盤やフライス盤など様々な機材を扱いますし、切削だけでなく表面処理や研磨など、必要な技術はたくさんあります。そのため、段階を踏んで加工のプロフェッショナルを育てていきたいです。

一方で、大森工場では加工、組立、営業と、いろいろなことができるオールマイティな技術者を育てていきたいと考えています。加工技術が身に付いたからといって、そこで慢心することが無いように、組立、営業と次の課題を与えています。1つ教わってきた人間は、それが身に付くと天狗になっている場合があります。新しいことをやらせると挫折を味わうことも多いので、鼻を折るいい機会だと思っています (笑) 。

現状維持で満足させず、ある程度無理をさせることでできることが増え、自信につながります。

挫折をして試行錯誤している様子も、課題をクリアして自信がついている様子も、技術者が育っている過程を感じることができ、喜びを感じています。

 

すり合わせのような熟練の技術を継承していくのは難しそうですね。

関氏:やってみせて、説明して、実際にやらせる。それの繰り返しですが、言葉でいうほど実際は簡単ではありません。当社には、すり合わせの技術を持っている従業員が、2名在籍していますが、共に60歳を超えています。できれば若い世代にも、すり合わせの技術を身に付けてほしいのですが、0.001mmの世界の技術は手の感覚で調整をするものなので、身に付ける以前に、1、2年では本人に向いているかどうかもわからないのです。ですので、早く育ってほしいという気持ちはありますが、焦らずじっくり、後継者を育てていければいいかなと思っています。

2021年4月に新入社員が入社。「ものづくりの楽しんでほしい」と関社長は語る。


業務内容          産業機械に関する部品製造、設計、組立、修理、出張修理

設立年月          1956年4月10日

資本金              3,000,000円

従業員数          20人

代表者              代表取締役社長 関 英一

本社    東京都大田区大森西6-7-11

電話番号          03-3761-3167

公式HP           https://sekiiron.com/

この記事の著者

堂田恵耶

堂田恵耶

1992年生まれ。埼玉県久喜市出身。都内在住。千葉大学文学部行動科学科を卒業後、生命保険会社に勤務。海外人事総務、海外子会社管理業務に従事し、2020年から法人営業を担当。福利厚生や健康経営等、企業の経営課題に対するソリューションを提供している。2020年度中小企業診断士試験登録。

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