ばね技術を極め「お客様に必要とされる会社」であり続ける(小松ばね工業 小松万希子氏インタビュー③)

自社のコアコンピタンスを活かした経営戦略

小松ばね工業株式会社の発祥は1941(昭和16)年、現在の本社(東京都大田区)において小松謙一氏が、ばね工場「小松製作所」を創立しました。

創業当初は、主にカメラシャッタ用の精密ばねを製造。その後各業界の要望に応えて、光学機器・医療機器・時計・電気機器・通信機器・OA機器・家電・自動車部品・宝飾品・文具・その他に徐々に販路を拡大していきました。また、技術も伸ばしつつ着実な発展を遂げてきたばねメーカーです。

第三回は自社の目指すべき将来像や生産戦略についてお伺いしました。

 

優れた技術を更に進化させる経営と海外進出、目指すべき将来像

―1995年と2011年に大田区の「優工場」に認定され、中小企業庁の「元気なモノ作り中小企業300社」(2006年)にも選ばれ、2007年には今の上皇陛下が天皇陛下の時にご視察もいただいたとお聞きしました。

小松氏:陛下のご視察は先代の小松節子社長(現会長)の時でしたが、事前の確認や当日の警備はとても厳重でした。しかしご近所の方々にも喜んでいただけたことは良かったと思います。

陛下からは「これからも品質の良いものを作り続けてください。」と有難いお言葉を頂戴し、その後は先代の小松節子社長(現会長)が皇居の園遊会にご招待いただくなど、弊社として大変光栄なことでした。

 

―他社に先駆けて、いち早く海外進出をされていますが、その背景を教えてください。

小松氏:1997年、先代の小松節子社長(現会長)の時にインドネシアに工場を開所しました。当時は、海外進出先は日系企業の多いタイが多かったのですが、中国やベトナムなどアジア各国を視察した上で、質の良い従業員の確保ができそうという理由から、最終的にインドネシア進出を決めたと聞きました。結果的に、お客様より先にインドネシアに進出したことになりました。

現在は、インドネシア工場の規模は従業員62名、24時間勤務体制で稼働させ、弟の小松久晃ディレクターがマネジメントし、そこからインドネシアを含む東南アジア各国のお客様に商品を提供しています。我々が進出した後に、日本から主に二輪や四輪の業種が進出され、同時にインドネシアの国も経済成長していきました。いち早く展開していて本当によかったと思っています。

―貴社で導入されている経営計画書や、理念実現のための社員行動綱領について教えてください。

小松氏:先代の小松節子社長(現会長)が日本経営合理化協会のセミナーで指導を受けて、経営計画書を導入しました。一倉先生のご指導をもとに、経営計画書を36期から作りはじめ、現在72期まで毎年更新し、各拠点で発表会を開催し周知徹底してきました。

この経営計画書では、「お客様に必要とされる」を経営理念とし、取引先様の信頼を得られるよう絶えざる努力と研鑽により発展し続けてまいりますと語り、今期の経営の数値目標だけでなく、営業や生産、品質や納期に関する方針が書かれていまして、自分が小松ばね工業株式会社の社員としてどういう社員でなければいけないのか、また自分が何をしなければならないかという考え方や基本動作がすべて書かれています。

私は社長就任後、売上げや利益の数値目標とともに、年度ごとに特にポイントとしてもらいたいキーワードを決め、目標達成のためのエッセンスとしています。

そして、私も経営で判断に迷ったときは常にこの経営計画書に立ち返るようにしています。

 

会社経営のバイブルともいうべき経営計画書

 

一方、社員行動綱領の方は、創業者の小松謙一氏が作りました。この行動綱領の中にある「強く、明るく、和やかに」を毎日職場ごとに行なわれる朝礼や昼礼のほか、全社員が集まる時に唱和しています。全員で声を揃えて唱和することで、「ともに仕事をする」という意識の共通基盤がつくられると考えているからです。

 

―高い品質レベルの維持・向上のための技術継承についてはどのようにお考えですか。

小松氏:高品質のものを安定的に生産するには、自動のマシンとはいえ、セットするにも細かな設定や微調整に職人技が要求されます。一人前になるまでざっと3年、安心して任せられるレベルには10年位かかります。その間は先輩社員が横について懇切丁寧な指導をし、技術の成長に従って徐々に難しいものにチャレンジさせていきます。確かな技術指導を行うので、新人作業者が作ったから不良が出るということはありません。設備の性能も品質に影響しますが、最後は職人の技術力がモノを言います。

そしてばねが小さくなればなる程、微妙な調整が必要になります。これらをスムーズに伝え、継承していくことは課題です。

・最後は職人の技術力が決め手(都度きめ細かな微調整を行う)

これに加えて、人材育成が難しくなっている背景もあります。量産品があれば、何度も繰り返しトライすることで経験値が上がっていくのですが、今は以前より受注内容が少量多品種化しており、量産品の受注が減ってきたため、そういう機会が限定的になっています。その結果、若い社員が成長する機会が減り、人材育成に時間もかかります。

 

―その他の課題と取り組みについて教えてください。

第一に、社内の一体感の醸成でしょうか。働き方改革に伴い、社員間のカジュアルなコミュニケーションが取りづらくなっていると感じます。さらにコロナ禍になり皆で集まり懇親する機会が減ってしまいました。そのような中、昨年はノベルティグッズにも使えるようなオリジナルクリップのデザインコンテストをやってみました。投票の結果に応じて表彰し賞金も出し、社員もパートさんも全員参加し、アイディアを出し合いました。結果として一体感の醸成に一定の効果はあったと思っています。

次に、営業力の一層の強化です。売上げを上げるという点で営業力の強化が必要と思っています。

弊社では月1回の営業会議を拠点ごとに実施し、月間の見積もり件数や受注件数、売上げ計画の進捗など多面的に管理しています。100%受注生産ですので、月ごとの金額の変動も激しいため、数値目標の達成だけでなく、やる気や取り組む姿勢などの定性的な面やプロセス管理も導入し、総合的に評価して従業員のモチベーションの向上に取り組んでいます。そして最後に人材の確保です。

 

―最後に貴社の将来像(ありたい姿)について教えてください。

小松氏:弊社は先代の時から財務体質の強化に力を入れて無借金経営を続けていますが、今後も身の丈にあった適時の設備投資をしつつ、今のポリシーを継続しようと考えています。また、今ある技術やその延長線上で、新商品や新分野に挑戦し堅実に事業拡大したいです。

まずは既存のお客様と継続したお取引をしていただくことを大事にしつつ、市場開拓も必要ですので展示会や商談会に積極的に出展し、種はまき続けていきます。

加えて、働き方改革について、「社員にどうやったら満足度が高く働いてもらえるか」を考えて働く環境を整備していき、「社員の潜在的な力を引き出し、さらに伸ばしていく」ことを目指します。

インタビュー時の応接室の入口には季節を感じさせるひな人形が飾られていました。(インタビュー時期は3月)小松社長の細やかな気配りを感じさせる装飾に、時には厳しい商談も和やかに進むことでしょう。

 

小松ばね工業株式会社本社建屋玄関

 

令和3年度「大田の工匠 技術・技能継承」受賞

 

応接室に飾られたひな人形(季節に合わせて装飾は変わります)の写真


業種   あらゆる分野で使用される精密線ばね:コイルばね(圧縮、引張)、トーションばね、

ワイヤフォーミング加工

設立年月          1941年5月創業、1952年12月設立

資本金              100,000,000円

従業員数          80人

代表者              小松万希子

本社所在地      〒143-0013 東京都大田区大森南5丁目3番18号

電話番号          03-3743-0231

公式HP           https://www.komatsubane.com/

この記事の著者

窪田恭之

窪田恭之中小企業診断士

大阪府出身。1960年生まれ。1983年早稲田大学商学部卒業後、(株)ブリヂストンへ入社。一貫してタイヤ以外のゴム商材を扱う化工品(かこうひん)部門に所属し、工業用ゴム製品の販売促進・企画に携わる。その後事業企画や部門人事を担当。2023年5月に中小企業診断士登録し、現在は千葉県中小企業診断士協会に所属。専門家派遣や商工会の相談窓口として企業様の支援活動や研究活動を行っている。趣味は、ランニング、スキューバダイビング、スキー、ガーデニング。

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