地域を支える曲げ加工のプロフェッショナル 〜川端製作所 川端修敬社長インタビュー①

「ただ曲げること」を追い求めて
川端製作所は、曲げ加工を専門とする町工場である。曲げ加工は、曲線を有する構造物を作る上で必須の工程であるものの、高い技術が必要であり内製で技術を磨くことは難しいため、外注する会社が多い。川端製作所は先代達が確立した曲げ加工技術を引き継ぎ、地域の町工場からの依頼を一手に担ってきた。本シリーズでは同社の3代目社長を務める川端修敬氏に、3回にわたりお話を伺っていく。第1回目は、曲げ加工技術の難しさや技術伝承の方法を伺った。

川端社長と曲げ加工装置

 

「ただ曲げること」の難しさ

曲げ加工とは、どのような技術なのかを教えてください。

 川端修敬社長(以下社長): 曲げ加工とは板金加工の一種であり、言葉の通り、板金を決まった形状・寸法に材料を曲げることです。曲げ加工の用途は注射針の先からロケットなど多岐に渡ります。板金を切り出して決まった形状・寸法を形作る切り出し加工に比べると、材料の歩留まりが高く、低コストであることが特徴です。

極端なことをいうと、針金を手で曲げることも曲げ加工にあたります。もちろん加工の目的は図面通りに曲げることですが、これが難しいことなんです。例えば、何かを曲げようとすると、板金は曲がりたくないので力がどこかに逃げようとするんですね。何も考えずに曲げると、その逃げようとする力の影響でどこかにしわができたり、捻れたりします。ですので、どこにしわができるか、どう捻れるかを予測しながら加工する必要があります。

曲げ加工ではアール形状という円弧状の形状を作りますが、狙いの形状に合わせる点でも、難しさがありますね。鋼材を曲げた後に少しだけ元の形状に戻ってしまうスプリングバックという現象が起こります。スプリングバックが起こると、狙いの形状からずれてしまうので、スプリングバックを見越して加工する必要があります。スプリングバックでの変化量を見誤ると曲げすぎた状態になり元に戻せないため、熟練した経験が必要になります。

また、同一の鋼材でも製造ロット間で若干の硬度差があるため、同じ条件で加工すると形状がばらつきます。材料のわずかな色の違いなどの視覚情報や、加工中の音や振動、わずかなネジの閉め具合などの肌感覚から加工条件の調整を行い、狙った形状を作り上げる必要があります。見定めや調整の程度が少し異なるだけでも製品の形状が大きく変わるため、経験がものをいう加工ですね。

材料を装置にセットしてボタン1つで加工が完了するわけではありません。全ての加工ひとつひとつが、本当に一生懸命といった感じですね。

「全ての加工ひとつひとつが、本当に一生懸命」と語る川端社長

 

川端製作所の強みを教えてください。

社長: 弊社が独自開発した加工方法や工程はありませんが、曲げ加工の際に生じるしわや捻れが他社に比べて非常に少ない、とお客さまからお褒めの言葉をいただきます。これは、センスによるものではなく、鋼材や加工装置の些細な変化に合わせて試行錯誤を続けてきた、長年の経験・努力があるからこそだと考えています。

 

やりがいについて教えてください

 社長:「ありがとう」、「うまくできてたよ」など、お客さまから感謝やお褒めの言葉をいただいたときに「やってよかった」と思いますね。契約の都合上、製作した部品がどのような最終製品に使用されるかは開示されないケースが多く、我々の部品を世の中で直接目にすることはできないので、部品に対するフィードバックを直接いただけるのは嬉しいです。

捻れが少ないと評判のアングル曲げ加工

 

代々、受け継がれる技術

曲げ加工はいつ頃から始めたのですか。

社長: 元々は曲げ加工以外の加工技術を取り扱っていましたが、祖父が曲げ加工を始めたところ、近隣の工場から多くの依頼が来るようになりました。曲げ加工を行う工場が近隣で少なく、次第に曲げ加工の受注の割合が多くなり曲げ加工に専門特化しました。曲げ加工の技術をゼロから確立した祖父はとても器用な人だったと思います。

 

曲げ加工の技術伝承の方法について教えてください。

社長: 技術伝承の方法は主にOJTですね。曲げ加工で必要となる技術は感覚的なところが多く、基本的に数年間は加工作業に立ち会って教育する必要がありますが、数年経っても独り立ちできるわけではありません。例えば、入社4年になる社員でも、私の外出中に電話で加工方法を相談してきて、口頭で教えることもあります。これは、数年の教育を経たからこそ、電話口でも社員が的確に状況を伝えることができ、私の助言の意図を十分に理解できるんです。ネジの閉め方が少し違うだけでも、製品の出来栄えが大きく変わるため、自分の体で覚えることが重要です。まさに、一つ一つ手作業で教えていく感じですね。体で覚えると言っても情報を残すための工夫はしたいので、最近は忙しくてもメモを取るよう社員へ指導しています。

 

曲げ加工の習得に必要な素質などありますか。

社長:人によって様々なバックグラウンドを持ち、曲げ加工の理解や習得の早さもそれぞれですが、一番重視するのは安全意識ですね。私が業務時間の半分は外出するため、一人一人が安全に作業しているかを四六時中見るわけにはいきません。危険なことをやってしまう人は何度注意をしても繰り返す傾向にあると経験上分かったので、危険なことをきちんと理解して行動できることが重要な素質と考えています。


業種   金属加工業

設立年月          1960年2月12日

資本金              300 万円

従業員数          7人

代表者              川端 修敬

本社所在地      東京都大田区南六郷2-4-15

電話番号          03-3739-1211

公式HP           http://www.kawabata-seisakusyo.com

この記事の著者

佐々木剣太

佐々木剣太中小企業診断士

2022年中小企業診断士登録。神奈川県診断士協会所属。精密機器製造業にて、設計・開発プロセスのデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進。趣味の家庭菜園においてもセンシングとAIの構築によるDXを推進中。日々、生産性を高めることを追い求めている。

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る