- 2021-7-13
- 取材・インタビュー
町工場、デザイナー、アーティスト それぞれのものづくりから気づく、学ぶ
ステンレスパイプを利用した茶筒やガードレールを加工したアート作品など、デザイナーやアーティストとの協働で注目を集めるハタノ製作所。コラボレーションのきっかけと、そこから得られた気づきについて聞いた。
デザイナーの目線で技術を捉え直すことで新しいものが生まれる
デザイナーさんやアーティストさんとのコラボレーションなど従来の町工場の概念にとらわれない活動をされていますね。
人とのつながりが町工場を変えるきっかけになるのではと考えていましたが、具体的なイメージは持てずにいました。そんなときに、父の工場に遊びに来ていた祖母から「駅前でこんなものもらったよ」とガチャガチャのカプセルを渡されました。そこに入っていたのは、板金屋さんがつくった組み立て式の鹿のおもちゃ。板金の技術を生かしたものですね。手にしたとき「こんな面白いことをやっている町工場もあるんだ」と衝撃を受けました。
調べていくと、それは一般社団法人大田観光協会が運営している「おおたオープンファクトリー」の企画でした。そこでは、町工場の工場見学を毎年実施していて、ちょうど次に協力できる工場を募集しているタイミング。何かのきっかけになればと、参加することにしました。「おおたオープンファクトリー」には町工場だけではなく、まちづくりの活動をしているデザイナーさんたちも参加していて、少しずつ人の輪が広がっていきました。
人の輪が広がる中で、デザイナーさんやアーティストさんとのコラボレーションに至る経緯を教えていただけますか。
「おおたオープンファクトリー」の企画の一つに、各町工場がそれぞれ自分たちの技術を生かして、ミニカーを作ろうという企画がありました。旋盤加工の会社も参加していましたが、当初は弾丸のような形で、お世辞にも車の形状とはいいがたいものでした。それを見たデザイナーさんが、「偏芯したらもっと自動車の形に近づけられるのでは」と言ったんですね。そしたら職人さんが「それならできる!」と。そして実際にできあがってきたものは以前のものよりもずっと自動車らしいものでした。
その時に、デザイナーさんやアーティストさんという新しい目線で自分たちの技術を捉え直すことで、新しいものが生まれる可能性を感じました。
そこですぐにコラボレーションが生まれたというわけではなく、オープンファクトリーでデザイナーさんとのつながりができて、まずは溶接加工の相談を受けるようになりました。当時は父の会社にいましたので、そこの会社で対応し、関係性が深くなる中でコラボレーションも生まれていきました。
コラボレーションの前にそういったやり取りがあったんですね。デザイナーさんやアーティストさんからの依頼となると、予算が乏しかったり取扱数も少なかったりと、利幅が少なそうなイメージがあるのですが、いかがでしょうか。
その点については、デザイナーさんやアーティストさんからの依頼だからといって特別に値引きするようなことはありません。いつも通りの積算をして、その金額が可能なら受注するし出せないようなら受注しない。それだけのことです。ただ、予算に合わせて、こういう加工なら金額を抑えられますよという提案はするようにしていますね。
デザイナーからの仕事は町工場からの仕事に近い
現在のお仕事は、町工場からの依頼、デザイナーさんからの依頼、アーティストさんからの依頼の3パターンありますね。それぞれの違いはどんなところにありますか。
デザイナーさんやアーティストさんとのお仕事は着目されやすいので、メディアなどに取り上げられますが、実際に一番多いのは町工場からの依頼です。その仕事の流れを基準とすると、まず取引のある町工場から依頼を受け、図面など仕様を確認し、技術的に対応が可能か確認します。対応できる場合は見積もりを提示して、条件が折り合えば受注。納期がありますのでそれに間に合わせるように納品するという流れです。
デザイナーさんからはどうでしょうか。
デザイナーさんからの仕事は、町工場からの仕事の流れに近いですね。デザイナーさんも図面を描いてくれるので、それを確認します。ただ、デザイナーさんは工業製品の規格や溶接技術などについては詳しくない方がほとんどです。例えば、鉄板の厚さが3ミリと図面上に指示があった場合、実は3ミリという規格は一般的なものではないんですね。一番近い規格品は板厚3.2ミリです。ですので、その場合はデザイナーさんに「3ミリという規格品はないので、規格品の3.2ミリを削って3ミリにするか、もしくは3.2ミリでも問題なければ3.2ミリで制作したほうが安価にできます」とお伝えします。そういったコミュニケーションがデザイナーさんの場合はあります。
ありがたいことに、いま私が関わっているデザイナーの皆さんはこちらの事情もよく理解してくれ柔軟に対応してくれる人ばかりです。同じものづくりを目指しているので、コミュニケーションは取りやすいですよ。
アーティストからは「作りながら考えるものづくり」を学ぶ
デザイナーさんとの場合は、コミュニケーション量が増える感じですね。アーティストさんはどうでしょうか。
アーティストさんとのお仕事の場合は、間にデザイナーさんが入ってくれることもあります。そうなると図面が出てくるので、いつもの仕事とさほど変わりません。デザイナーさんがいなくて、直接アーティストの方とお仕事するときは、まず図面は出てきません。スケッチを描いてコンセプトなどを説明してくれることが多いですね。常日頃は、ミリ単位で寸法を求められる仕事をしているので、寸法が示されていないとなるとかなり勝手が違います。アーティストさんとスケッチを間に挟んで、「この一番長いところはこのくらいの大きさでしょうか」と確認しながら進めます。ここがこの長さなら、こちらはその半分くらいかなとあたりをつけていきます。アーティストさんも、聞かれてはじめて考えることもあるようです。アーティストさんとの仕事を通じて、作りながら考えるというものづくりを学びましたね。
【企業情報】
業種 TIG溶接を主とした金属加工業
設立年月 2020年10月創業
代表者 波田野哲二
本社所在地 東京都大田区京浜島2-13-3 城南工業株式会社内
SNS Twitter @hatano_works