デザイナーらとの協働で溶接技術を捉え直す~ハタノ製作所 波田野社長インタビュー【第2回】

町工場、デザイナー、アーティスト それぞれのものづくりから気づく、学ぶ

ステンレスパイプを利用した茶筒やガードレールを加工したアート作品など、デザイナーやアーティストとの協働で注目を集めるハタノ製作所。コラボレーションのきっかけと、そこから得られた気づきについて聞いた。

デザイナーの目線で技術を捉え直すことで新しいものが生まれる

デザイナーさんやアーティストさんとのコラボレーションなど従来の町工場の概念にとらわれない活動をされていますね。

人とのつながりが町工場を変えるきっかけになるのではと考えていましたが、具体的なイメージは持てずにいました。そんなときに、父の工場に遊びに来ていた祖母から「駅前でこんなものもらったよ」とガチャガチャのカプセルを渡されました。そこに入っていたのは、板金屋さんがつくった組み立て式の鹿のおもちゃ。板金の技術を生かしたものですね。手にしたとき「こんな面白いことをやっている町工場もあるんだ」と衝撃を受けました。

調べていくと、それは一般社団法人大田観光協会が運営している「おおたオープンファクトリー」の企画でした。そこでは、町工場の工場見学を毎年実施していて、ちょうど次に協力できる工場を募集しているタイミング。何かのきっかけになればと、参加することにしました。「おおたオープンファクトリー」には町工場だけではなく、まちづくりの活動をしているデザイナーさんたちも参加していて、少しずつ人の輪が広がっていきました。

【「おおたオープンファクトリー」でのワークショップの様子】

【「おおたオープンファクトリー」での工場見学の様子】

 

人の輪が広がる中で、デザイナーさんやアーティストさんとのコラボレーションに至る経緯を教えていただけますか。

「おおたオープンファクトリー」の企画の一つに、各町工場がそれぞれ自分たちの技術を生かして、ミニカーを作ろうという企画がありました。旋盤加工の会社も参加していましたが、当初は弾丸のような形で、お世辞にも車の形状とはいいがたいものでした。それを見たデザイナーさんが、「偏芯したらもっと自動車の形に近づけられるのでは」と言ったんですね。そしたら職人さんが「それならできる!」と。そして実際にできあがってきたものは以前のものよりもずっと自動車らしいものでした。

その時に、デザイナーさんやアーティストさんという新しい目線で自分たちの技術を捉え直すことで、新しいものが生まれる可能性を感じました。

そこですぐにコラボレーションが生まれたというわけではなく、オープンファクトリーでデザイナーさんとのつながりができて、まずは溶接加工の相談を受けるようになりました。当時は父の会社にいましたので、そこの会社で対応し、関係性が深くなる中でコラボレーションも生まれていきました。

【旋盤加工会社が製作したミニカー(ビフォー)】

 

【旋盤加工会社が製作したミニカー(アフター)】

コラボレーションの前にそういったやり取りがあったんですね。デザイナーさんやアーティストさんからの依頼となると、予算が乏しかったり取扱数も少なかったりと、利幅が少なそうなイメージがあるのですが、いかがでしょうか。

その点については、デザイナーさんやアーティストさんからの依頼だからといって特別に値引きするようなことはありません。いつも通りの積算をして、その金額が可能なら受注するし出せないようなら受注しない。それだけのことです。ただ、予算に合わせて、こういう加工なら金額を抑えられますよという提案はするようにしていますね。

デザイナーからの仕事は町工場からの仕事に近い

現在のお仕事は、町工場からの依頼、デザイナーさんからの依頼、アーティストさんからの依頼の3パターンありますね。それぞれの違いはどんなところにありますか。

デザイナーさんやアーティストさんとのお仕事は着目されやすいので、メディアなどに取り上げられますが、実際に一番多いのは町工場からの依頼です。その仕事の流れを基準とすると、まず取引のある町工場から依頼を受け、図面など仕様を確認し、技術的に対応が可能か確認します。対応できる場合は見積もりを提示して、条件が折り合えば受注。納期がありますのでそれに間に合わせるように納品するという流れです。

デザイナーさんからはどうでしょうか。

デザイナーさんからの仕事は、町工場からの仕事の流れに近いですね。デザイナーさんも図面を描いてくれるので、それを確認します。ただ、デザイナーさんは工業製品の規格や溶接技術などについては詳しくない方がほとんどです。例えば、鉄板の厚さが3ミリと図面上に指示があった場合、実は3ミリという規格は一般的なものではないんですね。一番近い規格品は板厚3.2ミリです。ですので、その場合はデザイナーさんに「3ミリという規格品はないので、規格品の3.2ミリを削って3ミリにするか、もしくは3.2ミリでも問題なければ3.2ミリで制作したほうが安価にできます」とお伝えします。そういったコミュニケーションがデザイナーさんの場合はあります。

ありがたいことに、いま私が関わっているデザイナーの皆さんはこちらの事情もよく理解してくれ柔軟に対応してくれる人ばかりです。同じものづくりを目指しているので、コミュニケーションは取りやすいですよ。

【ステンレスパイプを利用した照明器具 デザイナーからの依頼で制作】

【デザイナーからの要望で「浮いた」印象を溶接で表現】

アーティストからは「作りながら考えるものづくり」を学ぶ

デザイナーさんとの場合は、コミュニケーション量が増える感じですね。アーティストさんはどうでしょうか。

アーティストさんとのお仕事の場合は、間にデザイナーさんが入ってくれることもあります。そうなると図面が出てくるので、いつもの仕事とさほど変わりません。デザイナーさんがいなくて、直接アーティストの方とお仕事するときは、まず図面は出てきません。スケッチを描いてコンセプトなどを説明してくれることが多いですね。常日頃は、ミリ単位で寸法を求められる仕事をしているので、寸法が示されていないとなるとかなり勝手が違います。アーティストさんとスケッチを間に挟んで、「この一番長いところはこのくらいの大きさでしょうか」と確認しながら進めます。ここがこの長さなら、こちらはその半分くらいかなとあたりをつけていきます。アーティストさんも、聞かれてはじめて考えることもあるようです。アーティストさんとの仕事を通じて、作りながら考えるというものづくりを学びましたね。

【アート作品制作のためのガードレール切断の様子 ときには溶接以外の加工を行うこともある】


【企業情報】

業種   TIG溶接を主とした金属加工業

設立年月          2020年10月創業

代表者              波田野哲二

本社所在地      東京都大田区京浜島2-13-3 城南工業株式会社内

公式HP           https://hatanoworks.com/

SNS    Twitter @hatano_works 


 

この記事の著者

赤田彩乃

赤田彩乃中小企業診断士、健康経営アドバイザー、「ずるいデザイン」講師

大学卒業後,人材紹介の営業担当を経験。その後,まちづくりや建築への関心から,まちづくりコンサルへ転職。自治体を主要顧客としまちづくり,景観・住宅施策,防災に関する計画策定業務に従事する。夫の転勤による退職後は独立し,中小企業支援や新規事業立ち上げ支援等を行う。

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