ものづくりの入口と出口を守るUrban Factory(栄商金属株式会社 佐山友允取締役開発営業部長インタビュー①)

ものづくりの町医者としてお客様の「困った」に応える

「製品化に向けて、アイデアや企画はあるが、設計・製造の経験がない」という会社から頼りにされている栄商金属株式会社は、加工商社として創業した後、時代の流れとともに三次元測定検査代行業務をベースにした品質管理やリバースエンジニアリングの分野で事業展開してきた。現在ものづくりのプロデューサーとして成長を遂げつつある同社の取締役開発営業部長 佐山友允氏にお話を伺った。

栄商金属株式会社 佐山友允取締役開発営業部長


時代の流れと製造業のニーズに沿った事業展開

御社の創業からの事業展開について教えてください。

佐山氏:弊社の創業は、古河電気工業株式会社の営業職だった私の祖父が独立した60年前にさかのぼります。古河電気工業が開発した特殊な材料をいろいろなメーカー様に採用していただけるよう、用途開発に特化した加工商社としての仕事と、金属・樹脂の加工業に加え、リード線やコネクターケーブルなど配線材の加工業も展開してきました。時代の流れと製造業のニーズに合わせてISOの基準が厳しくなる中、父が代表となり、開発・設計といったものづくりの上流段階からお客様のプロジェクトに参画し、加工商社の仕事につなげるために品質管理分野における測定・分析の代行業務を始めました。

現在は加工商社部隊、金属・樹脂・電線の社内加工部隊、測定・分析部隊の3つの柱で営業しています。組織体制は、案件ごとに専門知識を有した従業員がチームを組むプロジェクト組織です。事業の構成比は加工商社が6割、金属・樹脂・電線加工が2割、測定・分析が2割のバランスとなっています。

 

品質管理のお仕事に関して教えてください。

佐山氏:弊社はものづくりに関するコンサルティングサービスも承っていますが、品質で困った方々には「ものづくりの町医者」として対応できるように備えています。お客様の初回のご相談は「初診」にあたります。「外科」として、製品の外観に異常がないかを三次元測定器で検査します。三次元測定器は東京精密製とミツトヨ製の2台を所有しています。一方、「内科」として、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)やフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を使って、RoHS指令対応成分分析(カドミウム、鉛、水銀、六価クロムなど人体に有害な物質が含まれていないかを調べる精密分析)や、「リバースエンジニアリング事業」の一環として、その製品がどんな金属や樹脂で作られているかを調べる材料組成分析も行っています。

 

高価な機器を2台も所有されているのはなぜですか

佐山氏:それぞれの機器にはプログラムの違いやクセがあるので、それをわかった上で案件ごとに使い分けるためです。また、大企業が所有する測定器で測ったデータに対する第三者的見解を求められることもあり、お客様と同じ測定器を使うことが求められる場合を想定しているという理由もあります。

ちなみに弊社では、測定精度を担保するために、毎年高額な費用をかけて検査機器の校正を実施しています。測定室は、国際規格に準じて年間を通じて20℃±1℃を保ち、測定日や測定時間をデータロガーで記録しています。

・三次元測定器(左手前が東京精密製CNC三次元座標測定器。右奥がミツトヨ製CNC三次元座標測定器。)

 

・エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX) (RoHS分析や成形品の成分分析、不純物混入時の不純物の特定等に使用する。試料にX線を照射して発生する蛍光X線の波長や強度を解析し、試料の成分の種類や含有量を調べる装置。)

 

・フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)(主に有機化合物すなわち化学合成材料(樹脂材料、化学薬品 etc.)の構造推定を行う分析装置。)

 

過去から未来への時間軸

リバースエンジニアリングとはどのような技術でしょうか。

佐山氏:過去に作った金型の図面が無くて作り直せないとか、量産を委託していた会社が立ち行かなくなったので、自社生産に切り替えたいが工程図面が手に入らないといった理由で「ものはあるけど図面がない、作り方がわからない」と困っている会社様がいらっしゃいます。そのような場合に、現物を三次元測定器でスキャンしデータ化・図面化した上で、材質を分析して、その現物の製造方法や構成部品の技術情報を再現するという技術がリバースエンジニアリングです。

 

“Back to the Future”という御社のキーワードについて教えてください。

佐山氏:過去・現在・未来という時間軸を踏まえた弊社のものづくりの理念です。一般に、検査・測定というと「現在」図面通りに出来ているか、出来ていないのかを判定しますが、弊社では4D測定と名付けた時間軸を加味した経年変化測定を承ることができます。

例えば、成型部品の納期が迫っているタイミングで金型の変形や破損が生じると、その状態で作られた製品は本来NGですが、作り直す時間がないからOKとしよう、ということが起きがちです。そうなると町工場に限らず大企業でもリコールという大きな問題につながるリスクがあります。金型の摩耗や変形特性を解明し、その結果をもとに寿命を推定し、トラブルが起きる前に金型を更新することで、「未来」のリスクを回避させることができます。

一方、万全を期していてもトラブルが起きることもあります。その際にも4D測定とリバースエンジニアリングの技術を活用して、「過去」にさかのぼり原因を解明し、再発防止のお手伝いをしています。

弊社はそのような仕事を通じて蓄積してきた経験を知財の源泉とし、三次元測定機と3Dプリンターによる試作、最適な材料や加工方法の選択、試作から量産に向けた工法のプロデュース、製品の評価、品質保証までの一貫したサポート体制を構築しています。

 

営業活動について

営業活動はどのようにされていますか

佐山氏:主に口コミと展示会です。口コミは、長年幅広く仕事をやっているので、知り合いの知り合いといったお客様からお問い合わせをいただくことが多いです。「多様なアイデアや方向性が想定される複合的な案件は、栄商さんに相談すれば何とかしてくれる」という期待をいただいているようです。また、図面がない案件を持ち込まれたので見積のために図面を描いてほしいという町工場や、自社で図面を描けるけど、図面と製造・製品の責任区分を切り分けたいので、弊社に図面を描いてほしいという会社様からのご相談もあります。

『高度技術・技能展 おおた工業フェア』出展時 ご相談の様子

 

展示会はコロナ禍もあって出展を減らしていますが、それ以前は、ビッグサイトや大田区産業プラザPiO、パシフィコ横浜などで開催される展示会に年間5~6回参加していました。

大田区の町工場は仲間だというイメージが強く、仕事を受注するのはどこの会社でもいい、大田区のみんなで頑張っていこうという意識が強いので、「皆さんが得意な分野の仕事の相談が来たら紹介します、弊社が得意としている検査の分野の相談がきたら紹介してください」というスタンスで参加しています。以前、弊社の代表が東京商工会議所大田支部の工業分科会長を任され、大田区の町工場全体での出展を推進する立場だったこともあり、今後も積極的に出展していこうと考えています。


業種   電気機械器具製造業

設立年月          1963年4月12日

資本金              10,000,000円

従業員数          10人

代表者              代表取締役社長 佐山 行宏

東京事業所 東京都大田区下丸子1-17-18

栄商ものづくりLAB.

電話番号          03-3759-1207

公式HP           https://www.eisyo.co.jp

この記事の著者

高島秀明

高島秀明中小企業診断士

愛知県出身、神奈川県在住。住宅メーカーにて注文住宅・賃貸住宅・医院等各種施設の提案営業に長年従事し、現在は、経理部にて決算業務等を担当している。 2021年中小企業診断士登録。

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