未来のゴム部品製造業の繋ぎ手に ~作り手の思いを繋ぐ製品承継~(株式会社タグチゴム 常務取締役 田口郁男氏インタビュー②)

コロナ禍の中始めた「引継ぎビジネス」

株式会社タグチゴムはゴム部品製造一筋、実績と技術継承、そして継続的な成長を目指して活躍する会社です。1948年葛飾区に創業、戦後の焼け野原だった葛飾で、当時不足していたゴム部品製造を初代田口郁太郎氏が始めたのがきっかけでした。玩具用ゴム部品の製造を経て、その後各種ゴム工業品製造にも事業展開。優れた材料配合技術、金型設計技術、製造技術を有し、お客様との対話をもとにお客様の困りごとを解決。ゴム部品で日本の製造業を支えています。第二回は経営ビジョンに関連する「引継ぎビジネス」について伺いました。

株式会社タグチゴム本社工場にて 常務取締役 田口郁男氏(右)、専務取締役 田口徳明氏(左)

コロナ禍で一変した事業環境適応型の「引継ぎビジネス」

貴社のミッション~未来のゴム部品製造業の繋ぎ手に~の背景を教えてください。

田口氏:コロナ禍により事業を取り巻く環境がここ数年でガラッと変わりました。

同業者でいまだに社長一人で職人もやっている方が大勢いらっしゃいます。その中のある社長さんが、体調不良で手術することになり3~4ヶ月の間、仕事を引き受けられる人を探して金型屋さんに相談したところ、「昔タグチゴムさんの協力メーカーやってたし、今タグチゴムさんには若い人がいるから相談したら請けてくれると思うよ」とアドバイスされて、その社長から連絡をいただいたのです。

自分も知り合いの金型屋さんから紹介頂いた手前、やり方や材料の仕入れ先など丁寧に全部聞いた上で請負いました。ところが残念なことに、その社長は手術の後お亡くなりになったのです。

社長が亡くなられて一番困ったのはご家族で、社長さん一人で経営されている会社の場合、お客さんから奥さんに相談されても、やはり奥さんは何もわからないのです。その社長の奥さんも、色々なところから電話がきても製品のことも商売のことも分からず右往左往という状態でした。

その時、手術の期間の一時的な協力の相談があったのもご縁だと思って腹をくくり、その方の工場の金型を全部開けて製品を確認して、お客さんの依頼は図面をFAXしてもらったりして製品化までのルート付けをやれる限り全部やりました。

そうしましたら、そのお客さんから直接タグチゴムと商売したいという話になったんですね。その時、お客さんには「うちの見積もりで満足していただけるのでしたらできますが」と一旦答え、奥さんにも「こんな話がきてるけどいいんですか」とご相談しました。奥さんは、「商売のやり方もよく分からないし、もう廃業するから」というので、その会社から10数社のお客さんを引き継いだのです。その結果、その奥さんからものすごく感謝され嬉しかったんですが、引き継いだ10数社のお客さんからも一様に感謝されたのです。

お客さんはラインストップ寸前で、納期もぎりぎりという綱渡りの状況で、僕がその仕事を引き継ぐことでお客さんから「納期も安定して安心できた」と本当に感謝されました。これまで仕事をしてきて、「両方からこんなに感謝されたことなんてなかったな」と思ったのです。

初めは人助けと思って始めましたが、仕事を引き継いだことで、自分も、自分のお客さんも、引継ぎをお願いする側も3者すべてがWIN-WINの関係になれることに気づいたのです。「こういういう仕事のやり方ってあるんだ」と学び、それから私はこの「引継ぎビジネス」に積極的に取り組むようになりました。

ゴム屋さんは引き合いがあっても、「どうせ単価安いんでしょ、他社に行ってよ」と受けないことが多いのですが、そこを逆転の発想でこのように繋いでいきますと、自分自身は売上げがあがるし、お客さんも安定供給で喜んでくれるし、廃業する方からもこれで肩の荷が下りたとすごく感謝されました。

この体験をもとに、「あなたの想いを引き継ぎます」という発想で、そういった仕事は断らないで「全部引き継ぐために全力でやろう」と心に誓いました。

取り組み初期の頃は全部自社で引き継いだのですが、ある時ゴムの成形だけではなく、パッキンのようなゴム板の打ち抜き加工がありました。うちには打ち抜き加工機械設備がないので、知り合いの会社に問合せたりして協力メーカーさんを通じ製品の供給責任を果たしていたら、今度は協力メーカーさんからも、ものすごく喜ばれたのです。

お客さんのために動いて、ゴム屋さんのために動いて、協力メーカーさんのために動いて、ひいては自分の売上げにもなるというモデルが出来上がり、これを自分のビジネスのコアにしたいと、会社のホームページのミッションも~未来のゴム部品製造業の繋ぎ手に~にしたのです。

 

それが「繋ぐ」「製造業の繋ぎ手に」にというところにつながっているということなのですね

田口氏:まさにそうです。ゴム会社も高齢化していますからこの先5年でとんでもない廃業数が予想され、いままで作れたものが作れないという時代がやってくることが懸念されます。私はこの「繋ぐ」というキーワードをもとに、若手の後継者のいる協力メーカーさんや材料メーカーさんを探して「繋いで」います。先々仕事が一緒にできる仲間を今のうちに一生懸命開拓して、そして「繋ぐ」ということが自分のところで止まらないように、きちんと製品をお客さんのもとに届けられるようなルートを確保できるようにと活動しています。

その結果、協力メーカーさん2社と新たにお付き合いが始まり、材料メーカーさん、練りゴム屋さんにも「今付き合いのあるところ以外にも探しておいてください」と声がけしています。また、自分でもインターネット経由で練りゴム屋さんを探し始めました。やや遠くても関東圏ならなんとかなるかと、新しい協力者を増やすことに力を入れているのです。

 

この活動そのものがまさに新しいビジネスモデルですね。

田口氏:そうとも言えますね。確かに人手不足で、自分のところの注文だけで手一杯なのにそれ以上の対応は難しいのも分かるんですが、だからこそ、自社のキャパも増やしながら、協力メーカーさんと手を組んで一緒に共存共栄してビジネスを拡大できるようなWIN-WINの関係性の構築を考えています。WIN-WINの方程式がはまるところとはどんどんやっていきたいと思っています。

金型から製品を脱型する製造責任者の取締役 田口勝臣氏


業種   各種精密ゴム部品、並びに一般工業用ゴム部品の製造、販売

設立年月          1956年9月

資本金              20,000,000円

従業員数          8人

代表者              田口勝也

本社所在地      〒124-0012 東京都葛飾区立石3丁目11番12号

電話番号          03-3694-6211

公式HP           https://www.taguchi-rubber.jp

この記事の著者

窪田恭之

窪田恭之中小企業診断士

大阪府出身。1960年生まれ。1983年早稲田大学商学部卒業後、(株)ブリヂストンへ入社。一貫してタイヤ以外のゴム商材を扱う化工品(かこうひん)部門に所属し、工業用ゴム製品の販売促進・企画に携わる。その後事業企画や部門人事を担当。2023年5月に中小企業診断士登録し、現在は千葉県中小企業診断士協会に所属。専門家派遣や商工会の相談窓口として企業様の支援活動や研究活動を行っている。趣味は、ランニング、スキューバダイビング、スキー、ガーデニング。

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る