日々の努力で「ブランド」を磨き続ける(ケィディケィ株式会社 代表取締役 佐藤武志様 インタビュー②)

企業のブランド化により、強い会社への変貌を遂げる

ケィディケィ株式会社は、生活必需品の製造や包装等を行う装置や半導体装置、搬送機等に使用されるエンジニアリングプラスチック部品に特化した企業である。設立50年以上の実績を持ち、最新の⾼機能・⾼精密マシンを駆使して、経験と確かな技術⼒でお客様の求める品質・コスト・納期に対応することで高い評価を得ている。本特集では、同社がいかにして独自のブランドを築き、磨き上げているのか、代表取締役の佐藤武志氏に話をうかがっていく。第二回は、ブランド化を推進しようと考えた背景や決断した大型投資について取り上げる。

ケィディケィ株式会社 代表取締役 佐藤武志氏

 

ブランド化への強い想い

代表取締役就任時にブランド化に強い想いを持たれた経緯を教えてください。

佐藤氏:先代のころは品物を仕入れて販売する「プラスチックの総合商社」のような形態でした。当時の売上の7割は協力工場から仕入れた製品で、社内で作っていた製品は3割程度しかありませんでした。また、当時のお客様は商社が多く、日中は営業業務で夕方以降に電話やFAXで当社に製品発注や問い合わせがきていました。先代は「定時以降が我々の仕事だ」と言って、夜遅くまで事務所に残って働くスタイルでしたが、私が入社5年後の時に、インターネットが世の中に普及し始め、今までのやり方では通用しないと直感しました。そこで後輩に頼み会社HPを立ち上げてもらい、『プラスチックなら何でもできます』と訴求していたので、相見積もりの依頼等、単純な問い合わせばかりが増え、仕事につながる話は少なかったのですが、値段や納期をいかに設定して見積もりを出すことが効果的かを勉強し続けました。そうした時に、ケィディケィは確固たる『ブランド』を持っていないと、この先やっていけないなという気持ちが芽生えてきました。

 

最初から自社のブランド化への確固たるイメージがあったのでしょうか?

佐藤氏:すぐに「これだ!」と分かった訳ではなく、試行錯誤を重ね、様々な状況に巡り合いながら確立していきました。1990年代までは国内の製造業の生産設備への投資が右肩上がりだったことに伴いエンジニアリングプラスチックの分野が伸び、お付き合いしているお客様のニーズに合わせて、総合商社的にプラスチックという名前が付くものは何でもやって拡大・成長してきました。その頃の仕事は値段、短納期という軸でお客様を獲得できましたが、だんだんと値段や納期対応が厳しくなっていき、軸を変える意味でもブランディングが必要だと思っていました。

最初はハードディスク系の仕事に目を向けました。世の中の風潮としてその当時は、微細加工が脚光を浴び始めていて、「小さい製品なら材料費がかからず、さほど手間もかけずに工賃がもらえるのでは?」という単純な発想でこの業界に飛び込みました。しかし、微細加工という括りでは、プラスチック樹脂以外の金属や非鉄金属、セラミック、ガラス等様々な材質も扱う微細加工を強みにしている競合がたくさんいて、そこと戦っても勝てないと感じました。考えが甘かったんです。

 

その時にどのような行動を取られたのでしょうか?

佐藤氏:微細加工に限らず様々な他企業を見てみました。大田区では加工技術展示商談会という一日の催しがありまして、樹脂屋や金属屋をはじめ様々な業種が集まります。商談会の中で戦うのではなくて、「他企業がやっていないことを見つけるしかない」という気持ちで、他企業の取り組みを一生懸命勉強しました。微細加工の次に何に取り組むかを探している時に、当社の長年の歴史の中で発揮できることは何かを考え、プラスチック切削加工技術に特化すべきだという考えに至りました。

 

精度の高いエンジニアリングプラスチックを実現するための大型投資

そのタイミングでプラスチック切削加工への特化に舵を切られたのですね。プラスチックを扱う企業の中でも御社の差別優位性はどのようなところにあるのでしょうか?

佐藤氏:プラスチックは熱で寸法が変わるため、扱いがとても難しい分野です。温度が5℃変わるだけでも、ミリ単位の寸法が変形してしまいます。昔は図面に寸法が書かれていても、プラスチックは寸法通りには作れないことが前提で、お客様に設計変更していただくことも当たり前の時代でした。ある時、営業に伺った際「プラスチック屋は寸法が出ないんでしょ。帰っていいですよ。」とお客様から言われたことがありました。とても悔しく、また若気の至りもあり「当社は寸法を出せますよ」と、大手工作機メーカーのお客様にも関わらず、思わず口にしてしまったんです。しかし、これがきっかけでお客様の望む精度が高い品質のエンジニアリングプラスチック部品を当社のブランドとして作ることになりました。そして、最近では半導体製造装置に使われる部品を多く取り扱うようになりました。加えて、時代の流れを読んで大型のエンジニアリングプラスチック部品で精度を高めることで、更に当社の競争優位性を際立たせようと思いました。精密であるが故に最初は小型だった液晶テレビが、技術の進歩とともに大型化したことを想像いただければよいと思いますが、同様に、初めは小さかった半導体製造装置も、一度に製造できる半導体チップの量を増やすためにいずれ大きくなると予想しました。こういった流れにうまく乗れたことで当社は半導体製造装置の部品製造をやらせてもらっているのだと考えています。小型の部品で高精度を保つのは他業社でもできるので、競争の軸をずらしたことが大きな差別化要因になりました。

 

差別優位性の源泉はどのようなところから来ているのでしょうか?

佐藤氏:最初は、どうやって寸法を出せばよいか分からなかったのですが、良いものを作るには『いい機械』・『いい職人』・『いい環境』を揃えることが必要だろうと単純に発想しました。特に『いい機械』がまずは必要だと考え、高価なマシニングセンターとNC旋盤の導入を先代にお願いしました。先代とは意見が割れましたが、断固と譲らず購入して頂きました。その後、代表取締役に就任してからも先代の反対を押し切って、旋盤型の複合機、マシニング型の複合機、3次元測定機器等、総額約1億円の大型投資を実施しました。確固たる勝算ではなく、やらなくて後悔するより、やって後悔する方がよいという感覚で実施しました。導入後は従業員の多能工化も実施できるようになり、当社のブランド・競争優位性を下支えになりました。

工場内の様子:高精度のエンジニアリングプラスチック部品を実現する機械が立ち並ぶ

 

思い切って投資をした複合機を説明する佐藤氏


業種   エンジニアリングプラスチック(高機能樹脂)部品の製造販売

設立年月          1971年6月

資本金              1,000万円

従業員数          7人

代表者              佐藤 武志

本社所在地      東京都大田区大森西4-4-23

電話番号          03-3763-9201

公式HP           https://www.kdk1971.co.jp/

この記事の著者

豊田崇文

豊田崇文中小企業診断士

東京大学卒業後、食品飲料メーカーの経営企画部門にて中期経営計画の策定や組織再編、M&A、子会社支援等、幅広い業務に携わる。将来は地方創生の支援を行い日本中の笑顔を増やしていきたい。2022年中小企業診断士登録。

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