デザイナーらとの協働で溶接技術を捉え直す~ハタノ製作所 波田野社長インタビュー【第3回(最終回)】

顔の見えるものづくりで「ファンづくり」を目指す

ハタノ製作所では、SNSも積極的に活用しTwitterのフォロワー数は3,300人(2021年5月時点)という。あえて一般向けに発信することが受注につながるというハタノ製作所のSNS戦略とは。
合わせて、デザイナー、アーティストとのコラボレーションの秘訣を聞いた。

「面白い職人」として町工場からも応援してもらう

既存の町工場のイメージにとらわれないハタノ製作所。TwitterやYouTubeなどのSNSも積極的に活用されていますね。

Twitterはもともと趣味の情報を集めるために2015年ごろに始めました。やってみると、コアな情報も得られるし、オフ会といって実際に会うこともできる。Twitterをやっていなければ、得られないような情報が得られ、人との交流ができるんだとそこで気づきました。

父の会社で働く中で、町工場同士の交流が少ないと感じていましたので、Twitterを通じた交流を目的に工場用のアカウントを作りました。今も地道に投稿を続けています。先日、溶接の焼け色をいろいろ試したという投稿をしたら、バズって500人くらい一気にフォロワーさんが増えました。

【フォロワー数が増えるきっかけとなった溶接の焼け色の画像】

どんな発信を心掛けていますか。

町工場との交流を目的に始めたアカウントですが、いまでは町工場向けには発信していません。そうではなく、溶接を知らない一般の方にわかりやすく届けられるようにしています。自分の技術には自信を持っていますが、それでも「世界一の溶接技術か」と問われると、私よりも精密な方、美しい溶接跡を出す職人さんはたくさんいます。また、価格についてももっと安価に納品している工場もあります。つまり、町工場にアピールしても刺さらないんですね。「うちのほうがもっとうまいよ、もっと安いよ」と言われてしまいます。ですので、一般の方や、デザイナーさんやアーティストさん向けにわかりやすく発信しています。専門用語の「ビード」ではなく「溶接跡」という表現を使ったりして。そして、これが不思議なことに一般の方の間で評判になると、町工場の方も私の発信に興味を持ってくれるようになるんですよね。「溶接のうまい職人」というよりも「面白いことに取り組んでいる職人」として。そうすると町工場の方からも応援してもらえるようになる。

SNSでの発信は実際の受注につながっていますか。

ありがたいことにつながっていますよ!先日も、配管関係の町工場からお仕事をいただきました。Twitterを通じて私の取組を知り応援してくださっている経営者の方から取引先のご紹介でした。他にも溶接工場との取引がある中で、私を紹介してくれたことがうれしかったですね。

というのも、日々努力はしていますが、技術や価格だけでは競合とは戦えません。目指しているのは、発信を通じて私自身のファンになってもらうこと。発信を通じて人となりを知ってもらい、「この人なら間違いない」と思ってもらうことです。

スーパーには、生産者さんの顔写真がパッケージに載っている野菜がありますよね。生産者の顔が見える野菜のように、作り手の見える溶接を提供したい。知らない職人ではなく、「波田野にお願いしたい」と思われる存在になりたい。そうなると価格の話にもなりにくいですしね。

顔の見えるものづくりというのは、今までの町工場にはない発想ですね。製品の良さだけではなく、作り手にも焦点を当てる。確かに安心感につながります。

認識合わせのコミュニケーションから面白い気づきが生まれる

デザイナーさんとの協働による茶筒の一般販売に向けて準備が進んでいるそうですね(2021年5月時点)。改めて、町工場、職人にとって、デザイナーさんやアーティストさんというのはどんな存在なのでしょうか。

私たち職人は、それぞれ溶接であったり旋盤であったり、ものづくりの技術を持っています。一方で、デザイナーさん、アーティストさんは、職人の持っていない知識を持ち、未来を見ている人たち。私たちとはアイデアの幅が違いますね。デザイナーさんは、余分なものをそぎ落としたり、逆にいいところを膨らませる、そんなことができる人たちです。職人たちのやり方や視点も大事にしつつ、第三者から見た新しい視点を提示してくれます。やり取りを通じて溶接の新しい可能性を教えてもらっていますね。

私の場合だと、当初、溶接技術を利用した小物を作ってメルカリで売ろうと考えていました。その時にデザイナーユニットのYOCHIYAさんに、ただ作って売るのではなく「ブランディング」を意識することを教えていただきました。「溶接から和の雰囲気を感じるから、和を象徴するものをインバウンド向けに販売したらどうか」と提案してくださいました。自分一人では気づけなかった視点ですね。

一方で、デザイナーさんは職人ほど技術を知りません。「溶接?くっつけることでしょ?」くらいの認識の方も多いかもしれません。その技術で何ができて、何ができないかというところまでは理解されていない。お互いの当たり前が違います。そこの認識合わせのコミュニケーションは大切にしたいですね。やり取りの中で、面白い気づきが生まれるような気がしています。

【デザイナーに溶接技術を指導することも】

どんな仕事も人と人との信頼関係 そのために十分なコミュニケーションを

デザイナーさんとの協働は他の町工場にもお勧めしますか。

ぜひ、お勧めしたいですね。他の工場もいろんな技術を持っています。自分たちにとっては当たり前すぎて気づけていない技術の新たな一面があるはず。デザイナーさんとの協働で私と同じように新しい気づきがきっと得られます。もし、今の状況に課題を感じていて変化したいのであればデザイナーさんと組んで新しい目線を得るのは、突破口になると思いますよ。

とはいえ経験がない町工場にとってはデザイナーさんとの協働はハードルが高そうです。うまくいくための秘訣はありますか

新しい挑戦をするときは、サンプルを何度も作ったりコストがかかりますよね。そこをぐっとこらえ、町工場側が変化を受け入れデザイナーを信じて取り組むことが大切です。すぐに成果の出ることはないですから。

とはいえ、デザイナーさんとの仕事でも、町工場同士の仕事でも、結局は人と人の信頼関係で成り立ちます。しっかりコミュニケーションをとることが基本です。まずは準備として、自分たちの技術を言葉で表現できるようになることが必要ですね。町工場同士、技術者、職人同士というのは、常識が共有されていて、あまり語らずとも図面や仕様があればコミュニケーションが取れてしまいます。デザイナーさんに対しては、まず自分たちがどんな技術を持っていて、どんなことができるのかしっかり説明することから始まります。それを聞いてデザイナーさんが新鮮な目線で技術を捉え直し、今まで気づかなかったことを気づかせてくれますよ。


【企業情報】

業種   TIG溶接を主とした金属加工業

設立年月          2020年10月創業

代表者              波田野哲二

本社所在地      東京都大田区京浜島2-13-3 城南工業株式会社内

公式HP           https://hatanoworks.com/

SNS    Twitter @hatano_works 


 

この記事の著者

赤田彩乃

赤田彩乃中小企業診断士、健康経営アドバイザー、「ずるいデザイン」講師

大学卒業後,人材紹介の営業担当を経験。その後,まちづくりや建築への関心から,まちづくりコンサルへ転職。自治体を主要顧客としまちづくり,景観・住宅施策,防災に関する計画策定業務に従事する。夫の転勤による退職後は独立し,中小企業支援や新規事業立ち上げ支援等を行う。

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