次世代に受け継ぐ、「難しい」に応える技術と信頼~株式会社渡辺精機インタビュー②

受け継ぐために広い視野を持って

渡辺精機の歴史は戦前にさかのぼる。初代は時計職人の技術をもとに独立起業し第三工場まで拡大したが、戦時中の疎開で事業をたたんだ。2代目となる現社長の父が大田区に戻り、再興してから創業71年。法人としては設立66期を数える。3代目の渡辺穣社長から4代目の渡辺達大専務へ。事業承継と人材育成について2人に話を伺った。

株式会社渡辺精機 代表取締役社長:渡辺 穣(写真左) 専務:渡辺 達大(写真右)

 

「畑違い」の経験が活きる

―― 承継はいつから考えていましたか

渡辺達大専務(以下専務):新卒の時から継ぐ意思はありました。でも当時、渡辺精機に入りたいと社長に言ったら断られましたね。2012年ごろです。

 

渡辺穣社長(以下社長):他の世界を知らないまま会社に入ってきても視野が狭くなります。うちの会社しか分からない。だからもっと違う世界を見て成長した方が良いと考えました。それで就職先を探してきて学んできたので結果オーライかなと思っています。

 

 

―― 就職先はどのような会社でしたか

専務:その会社も製造業でした。油圧装置を使った建設機械のアタッチメントを作って取り付けて売る仕事です。油圧ショベルのアームには土砂をすくうバケットが付いていますが、それを交換して色々な機能を持たせます。整備組立部という部署で建設機械の整備や、新しい機械の組み立てを行っていました。渡辺精機の仕事とは全く違う仕事をしていました。ハンマーを振り回したり、溶接をしたりしていましたね。

 

 

―― どうしてその会社を選んだのでしょうか

専務:渡辺精機は旋盤やマシニングで小さい試作部品を作っている会社という認識がありました。それで逆にもっとでっかいもの、全く違うものを作っている世界に入ったら将来に活かせると考え、あえて違う世界に入りました。それと、社長が若い方で面白かったというのもあります。将来は自分が渡辺精機の社長になると思っていたので、そうした経営者を近くで見たいという思いもありました。

設計志望で入社しましたが、現場に配属されて苦労しましたね。でも現場で揉まれたあの経験があったから、いまは何も怖くないと思えるようになりました。その後、設計でも仕事をさせてもらった後、当社の元会長(社長の父)が亡くなったタイミングで渡辺精機に入りました。

 

社長:前職の経験がいま活きています。展示会で知り合った方からの板金の仕事や、油圧に関わる部品の依頼にも、経験があるからすぐに対応ができて受注につながりました。もし商談の場に居たのが私だったら商売に繋がりませんでした。そういった面でも、とても貢献していると思います。

 

専務:その頃に学んだことが身になっている実感があります。溶接や板金、油圧部品の知識が必要な場面はいまの仕事でもあります。全然違う畑から来たけれど、製造業として精通するところ、つながっているところはありますね。

製造方法について相談をする渡辺達大専務とベテラン社員

 

 

―― 渡辺精機に入社してからはいかがでしょうか。

専務:まずは製造部署に入って現場で働きました。当社が特に重視している旋盤を集中的に4年間経験し、営業に移りました。どちらも社長の指示です。

 

社長:当社の仕事はものづくりの経験がないとお客さんと対等に話ができません。そのため最初は営業ではなく製造に入ってもらいました。当社ではどの部署に配属予定でも、基本的に製造を経験してもらいます。私もそうだったのでね。お客さんも製造の経験がある方が多いので、こちらも経験があると技術的なアドバイスが出来ます。

 

専務:今後、新しい人たちが入ってきますが、検査や営業など別の部署に入る方でも、まずは旋盤を1年は経験してもらいたいですね。

OJTでマンツーマン指導を受ける専務

 

 

承継を見据えて

―― 承継は何年後を考えられていますか

社長:本当は早くバトンタッチしたかったのですが、いまは新型コロナウイルス感染症の影響で経営環境が不安定です。もう少し軌道にのせた段階でと考えています。この先5年から10年の間でしょうか。私は今年で60歳になりますが、70歳まであと10年は健康でいないといけませんね。

 

専務:現在は社長の仕事を見て覚えている段階です。社長は見積り回答がメインの業務で、お客さんからいただいた図面に対して見積りを作成し、金額と納期を提示します。社内の稼働率を見てどのタイミングで製造できるか、そこから納期とコストの判断が必要です。非常に重く責任がある仕事で、見積りで一日が終わることもあります。それをいかに効率化するかが重要課題ですね。

いまは社長がその仕事を担ってくれているので、私は展示会や商談などに時間を取って動けていますが、社長が居なくなってからを考えると、従業員で任せられる人を育てないといけません。将来も同じ事業を続けていれば安泰という訳ではないので、新しい事業の計画など社長業として他にやるべき仕事があります。

 

社長:社内が高齢化してきているので若い社員の採用と育成が課題です。現在は営業が2名いますが、50代、60代なので若い社員を育てないといけません。

 

 

―― 人材採用についてはどのような取組みをされていますか。

専務:積極的に採用活動をしています。先日は専門学校から工場見学に3名来ていただきました。就職情報サイトへの掲載を今年の4月から開始しています。昨年新卒で1名採用しました。まだ20歳ですがどんどん技術を吸収してくれて、精度の高い仕事が出来るようになってきました。

 

社長:専務の出身校の先生が当社に合っているのではと紹介してくれて、専務もたまたま以前から気にかけていた人でした。本人も当社の仕事が合っているようで良かったです。すくすく成長していますよ。


業種   旋盤切削、マシニングセンターによる試作品加工等

設立年月          1951年6月創業

資本金              10,000千円

従業員数          15人

代表者              渡辺 穣

本社所在地      東京都大田区大森西2-9-6

電話番号          03-3761-7535

公式HP           http://watanabeseiki.jp/

 

この記事の著者

岡本崇志

岡本崇志合同会社オスカーワークス 代表社員 中小企業診断士

演出、CGディレクター、プロデューサーとして映像分野で長年活動。CM、アニメ、企業VP、展示会映像、プラネタリウム、VR映像にて演出、制作、プロモーションを経験。 現在は、経営コンサルタントとして映像・写真などビジュアルをを用いた販売促進、マーケティング支援、補助金支援などを行っている。

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る