未来のゴム部品製造業の繋ぎ手に ~作り手の思いを繋ぐ製品承継~(株式会社タグチゴム 常務取締役 田口郁男氏インタビュー③)

葛飾区の地場産業の発展とともに成長

株式会社タグチゴムはゴム部品製造一筋、実績と技術継承、そして継続的な成長を目指して活躍する会社です。1948年葛飾区に創業、戦後の焼け野原だった葛飾で、当時不足していたゴム部品製造を初代田口郁太郎氏が始めたのがきっかけでした。玩具用ゴム部品の製造を経て、その後各種ゴム工業品製造にも事業展開。優れた材料配合技術、金型設計技術、製造技術を有し、お客様との対話をもとにお客様の困りごとを解決。ゴム部品で日本の製造業を支えています。第三回は自社の生産や販売戦略、大切にしている考え方や地域での仲間づくりなど幅広く伺いました。

株式会社タグチゴム 常務取締役 田口郁男氏

知恵と工夫で変化に対応

貴社の生産戦略や販売戦略について教えてください。

田口氏:生産面では、何かあったときに即応できるように生産量はキャパの80~85%に抑えておいて、残りの15%程度をバッファーに持っておきたいです。そのために協力メーカーさんに仕事を振ったりしてバランスをとるように調整しています。

技術的には、私の兄と弟がそれぞれ役割分担して現場を切り盛りしてくれています。自分が外で仕事を取ってきて、兄と弟が現場で改善してくれているのです。

販売戦略面では、展示会に出展して新規のお客さんの獲得に頑張っています。東京国際フォーラムでやっている「町工場見本市」にも去年から出展しています。その展示会では2年目になってようやく1社開拓できました。自分自身のX(旧Twitter)やブログもやっていて、Twitterから案件の引き合いが来たりしています。現在は5000人位のフォロワーがいまして、毎日何かつぶやくようにしています。基本的にポジティブなことをつぶやくように心がけていて、おかげ様で、順調にだんだん輪が広がってきたと感じています。

業績面では成果に結びついていますか。

田口氏:コロナで一番業績が下がったのは2021年でしたが、その中でも建築関係のお客さんが全く下がらなかったのには助けられました。工期のあるビジネスですから、建築関係の仕事はコロナの間も動いていましたね。他には、「製品承継」で他の人のお仕事をお手伝いしていたので、そちらの売上げは順調に増えていきました。おかげ様で結果的には2023年業績は2021年対比で約2倍になりました。

「引継ぎビジネス」のいいところはどんなところですか。

田口氏:取引先から「作ってほしい」と先に話が来るので、売れないリスクが最小で、設備投資も少なくてすむ点でしょうか。もともとお客さんの強い要望で始めますし、必要なのはやる気と、金型を少々改造する修繕費程度です。でも、やはりみんなから笑顔で感謝され、世の中のためになっているということを実感できることが一番嬉しいですね。

「近江商人のように三方よし」ということでしょうか。

田口氏:そうですね。お客さんからは値段を交渉されることがありますが、金型があって材料の仕入れルート付けもできて、工法も把握しているので、「うちならまったく同じものを提供できますよ、4M(Man(人)、Machine(機械)、 Method(方法)、 Material(材料))変更でも非常に安全な移行になります」と説明しますと、最終的には多くのお客さんに受け入れていただけました。

ただ、お客さん、助けた業者さん、協力メーカーさんからも感謝されるというビジネスモデルの背景には、ゴム業界やこの地域での事業承継の難しさが根底にあります。まさに喫緊の課題です。幸いうちは我々3人兄弟が3人ともタグチゴムに入社しました。親の背中を見て育ち、両親を助けたいという気持ちを大いに持っていましたから、それぞれ大学卒業後に家業を継いだ形になったのです。

現在特に感じていらっしゃる課題は何でしょうか。

田口氏:生産面での課題でしょうか。生産能力不足とそれを補う人手の確保をどう解決するかということです。うちの会社の規模感では難しいかもしれませんが、方向性としては無人化に進んでいきたいと強く思っています。人の採用も大事ですが、生産の一部は無人化、こちらは有人化とわけてやりたいと思っています。少量多品種生産品が多いので、ロングランでやるものは無人化、生産切替えが多いものは有人でと分けてやれる体制を構築しないといけないと考えています。

また、物量が現状の2割~3割上がっても同じ人数でこなせようになるにはどうしたらいいかを今一生懸命考えています。例えば半自動のような機械化です。ものによってやれるかどうかを判断しなくてはいけないのですが、設備投資は継続的にやらなくてはいけないと思っています。

ゴムリングの製品が焼きあがったところ。まだ温かかった。

 

販売面での課題はどうでしょうか。ホームページからの引合いはありますか。

田口氏:ホームぺージからも引き合いはありますが、個人さんからであったり、まったく畑が違ったりする引き合いが多くなかなか仕事にはつながりません。ホームページからも引継ぎ事業の問い合わせをできるようにしてみたものの、いまいちフィットしていないようです。今は一生懸命Twitterを主戦場にやっています。一部効果はありますが仕事になるかはこれからですね。ただ、対外的にメディアを通じて発信していると、引っかかってくる頻度があがってきていると感じます。例えば、葛飾ブランドに認定していただいたことや、うちの社長が去年優良技能士の認定を受けたことなどもあげています。葛飾ブランド自体はもう10年位やっていまして、60~70社認定されていると思います。最初は伝統工芸品が多かったのですが、産業用品にも広がってきました。

貴社が大切にされていることや今後の活動について教えてください。

田口氏:大切にしているのはやはり社員の幸せでしょうか。その上に我々の幸せがあるので。その次にお客さんの幸せです。

今後の活動の背景ですが、我々より上の世代がこれからいなくなっていくと、あの部品が手に入らなくなったから、完成品を作るのもやめてしまい、製品が世の中から消え、我々の仕事もなくなるという連鎖が現実にあります。

私は若手経営者の会の「ものコト100(ワンハンドレッド)」という会に参加しています。この会は新しいものやコトを100個生み出してみようというコンセプトでスタートした団体で現在葛飾区で24社程度が加入しています。

そうやって横の連携を考えて活動すると、どこかの会社が廃業してある部品が作れなくなっても、別のところが「うちでできるから」と製品を作って商売を繋ぐことができます。

私は、こういう商売のタネを蒔き続けてお客さんに認知していただき、究極的には「葛飾区にくれば何とかなる」という地域全体のイメージアップを期待しています。

例えば、「金属のことだったらあそこ紹介するから」という横の連携が個社の商売につながり、ひいては地域が活性化しなきゃいけないと思っています。それがうまく機能すれば、モノづくりが自分たちの世代で終わらずにもっと続いていくので、将来的には近隣の他区(足立区、荒川区、墨田区、江東区、江戸川区など)の会社さんとの連携もできたらと考えています。

近年、自分の会社のことだけを考えていては将来を描けなくなっていると感じています。それゆえ、「葛飾テクノタウン」というようなキャッチフレーズで、「葛飾にくれば何とかなる」という打ち出し方でブランド化すると面白いかもしれません。そしてメディアで注目されると地域の若手が採用に応募してくるという良い連鎖が生まれるかもしれません。

実際に、鹿児島から葛飾区役所の商工振興課に来られた方から「こういうものを作りたいんだけど、葛飾でできないか」という問い合わせが舞い込み、最終的に仕事に繋がった経験もありました。このような積み重ねが「葛飾のブランディング」や「ものコト100(ワンハンドレッド)」に繋がらないかと考え始めています。

そうやって顧客ニーズを吸い上げて満足度を高めることが個社の売上に繋がり、結果的に地域全体が活性化するという可能性が高まると期待しています。

お話してきた「製品承継」というのは私にとって初めての体験ですが、どんな仕事でも繋いで繋いで仕事にし続けたいと考えるようになってからは仕事が楽しいですね。そっちの苦労は苦労じゃない、本当にやりがいがありますね。

本社工場製造現場での金型のクリーニングの様子

 


業種   各種精密ゴム部品、並びに一般工業用ゴム部品の製造、販売

設立年月          1956年9月

資本金              20,000,000円

従業員数          8人

代表者              田口勝也

本社所在地      〒124-0012 東京都葛飾区立石3丁目11番12号

電話番号          03-3694-6211

公式HP           https://www.taguchi-rubber.jp

この記事の著者

窪田恭之

窪田恭之中小企業診断士

大阪府出身。1960年生まれ。1983年早稲田大学商学部卒業後、(株)ブリヂストンへ入社。一貫してタイヤ以外のゴム商材を扱う化工品(かこうひん)部門に所属し、工業用ゴム製品の販売促進・企画に携わる。その後事業企画や部門人事を担当。2023年5月に中小企業診断士登録し、現在は千葉県中小企業診断士協会に所属。専門家派遣や商工会の相談窓口として企業様の支援活動や研究活動を行っている。趣味は、ランニング、スキューバダイビング、スキー、ガーデニング。

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