ウチのデジタル化、IT化、DX化編(後編)
営業活動にもデジタル化、IT化、DX化
今回は、町工場の経営者もしくは経営者に近い立場の皆さんにお集まりいただきました。町工場というと、デジタル化、IT化、DX化がなかなか進展していかないというイメージがあります。そういった中で、今日お集りの皆さんは前向きに取り組まれている珍しい企業だといえます。デジタル化、IT化、DX化に取り組もうと考えている経営者や責任者の方に参考になるようなお話をお伺いしていきます。
後半は、営業活動でのITの活用、またおすすめのツールについてお伺いしました。
座談会メンバー
ムソー工業株式会社 代表取締役 尾針徹治氏(写真:右上)
株式会社タカハシ 代表取締役 高橋弘明氏(写真:左上)
有限会社安久工機 常務取締役 田中宙氏(写真:右下)
中辻金型工業.株式会社 代表取締役社長 中辻隆氏(写真:左下)
ファシリテーター 川崎悟(写真:右中)
(以下敬称略)
――― 町工場にとって一般にデジタル化とともに、取り組みが遅れているのが営業活動です。皆さんの会社ではどうでしょうか。また、ITを活用した営業活動は取り組まれていますか。
尾針)
当社は、営業活動をほとんどやっていなかった企業です。展示会には何度か出展しましたが、全く成果が出ず…。一方で手作りの簡易的なホームページからの問い合わせはまれにありましたので、ホームページを充実させていこうと考えました。
まずは過去の開発実績などの情報発信を行いました。現在は、チャットサポートという機能を活用し、お客様からの簡単な問い合わせについては自動応対にし省力化につなげています。
尾針)
それとお客様とのやり取りを記録に残すようにしています。かつては、記録を残す仕組みがなく先代社長の頭の中にだけ情報があるような状態でした。まずは紙の管理台帳でどんなお客様からどんな案件でいくらの売上があったのかを整理していきました。それと、お客様とのメールを誰でも見られるように共通のメールアドレスを作りました。いまでは、顧客管理ツールのsalesforce(セールスフォース)を活用し、営業情報を一元化しています。
(中辻)営業は売り込みではなくお客様に見つけてもらうための活動
中辻)
実は、そもそも営業することに対して抵抗があったんですね。「営業するのは実力がない会社」というような考えがありましたから。でも、売り込むというよりも見つけてもらうための活動だと思うようになって、営業活動を始めました。
主にやっていることとしては、展示会への出展と、ITとの関連でいうとホームページやブログでの情報発信ですね。ホームページは月に2,3回、更新しています。ブログはほぼ毎日アップするようにしています。あまり技術的な内容ではなくて、「こんな会社ならお願いしたい」と思ってもらえるようなことを発信しています。例えば、従業員の頑張りだとか、こんないいことがあったとか、こんな苦労していますとか。技術や価格ではなく、会社に興味を持ってもらって、取引につながればいいと思ってやっています。新規のお客様が「ブログ見ました。中辻さんなら何とかしてくれると思って問い合わせました」といってくれることもありますね。
田中)
共感しますね。私もTwitterで発信していますが、それを見てくださっての受注というのは意外とあります。「なんでうちに?」と聞くと、「何とかやってくれそうだと思った」といわれるのは一緒ですね。
――― 最後に、皆さんが利用されているITツール、DXツールでおすすめのものがありましたら、教えていただけますか。
(尾針)HP閲覧者を把握して情報発信の精度を上げる
尾針)
BowNow(バウナウ)という無料でも使えるホームページの分析ツールは重宝しています。当社のホームページをどこの誰が見ているかをIPアドレスからたどって表示してくれます。会社名や大学名などがわかります。どういう人が見ているかわかると、こんな情報が求められているのではないかと仮説を立て、実際に情報を発信して反応を検証することができます。それまでもお客様が求めているだろう情報を発信していたのですが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると乱れ打ちで発信していました。それが仮説検証できるようになり、精度が上がったのは大きいですね。
(田中)コミュニケーションツールでのやり取りはお客様からも好評
田中)
当社ではコミュニケーションツールのSlack(スラック)を使っています。無料版でも十分に活用できます。社内の情報のやり取りはマニュアル的なものも含めてSlackに集めるようにして、Slackを見ればわかるような状態にしています。導入してスタッフ間のコミュニケーションが活発化、雰囲気もよくなりました。
プロジェクト管理にも活用していますが、お客様にも参加してもらうこともあります。やり取りの履歴も残りますし、ファイルもアップできますので、特に大手企業や大学の研究室などで喜んでもらえます。
中辻)
テクノア社の生産管理システムを利用していますね。比較的価格も手ごろです。ベンダーのシステムなので従業員が「使い方がわからない」という時に、私が教えるのではなく、「ベンダーさんに電話して聞いて」といえるのもありがたいですね。
こういった手ごろな製品で、まずはデータを蓄積することに慣れてから、さらに自分たちが使いやすいように自社開発したり、別のシステムを入れるというやり方もあるように思います。
(尾針)引き返せる範囲で「小さく試す」
尾針)
テクノア社のシステムは当社も利用していますが、見積もりの自動化には助けられています。
中辻さんのお話は、「小さく試す」ということにも通じると思いますが、私も少額でいろいろ試すようにしています。ビビリなので(笑)。いきなり何百万円もかかるシステムを入れて失敗したら、取り返しがつきませんからね。金額だけではなく、手間についても同様です。Accessでのデータ分析にしても、「まずは自分でできるところまでやってみよう、失敗したら戻ればいい」という感覚でした。引き返せる範囲でトライする。こう考えると、一歩踏み出しやすくなるのではないでしょうか。
(高橋)工夫次第でどんな会社でもデジタル化、IT化は進められる
高橋)
名刺管理アプリのEight(エイト)を使っています。スマートフォンで名刺の写真を撮るだけで、文字入力が不要というのが楽でありがたいですね。最近、有料になってしまいましたが、使い続けています。
ツールということですが、システムではなく入力ツールとしてキーボードについてお話します。町工場の現場というのはやはりパソコンに苦手意識を持っている人が多く、当社も同様です。パソコンのマウスは便利ですが、マウス操作が苦手という人がいるんですね。「キーボードのほうがまだいい。でも、関係ないところを押してしまうのは怖い」という人がいます。それで、キーボードを改造しました。使うキーだけ残して、使わないキーは誤操作防止のため取ってしまいました。
「うちの会社では、IT化、DX化なんて無理」とお考えの経営者の方もいると思いますが、こんなふうに会社の実情に合わせて工夫することで、どんな会社でもデジタル化やIT化は進められるのではないかと思っています。
――― 皆さん、すぐに役立つような具体的なお話、また示唆に富むお話をありがとうございました。多くのヒントが得られました。こちらをお読みの町工場の方のデジタル化、IT化、DX化のお役に立てば幸いです。
【座談会メンバープロフィール】