次世代に受け継ぐ、「難しい」に応える技術と信頼~株式会社渡辺精機インタビュー①

「難しくて短納期」こそ当社の仕事

渡辺精機は、高難度の精密切削加工を得意とし試作部品製作に特化した老舗企業である。高精度で短納期の試作対応を武器に大手メーカーから厚い信頼を得ている。現在は3代目となる渡辺穣社長から、4代目として次世代を担う渡辺達大専務へと承継の準備を進めている。社長と専務に話を伺った。

株式会社渡辺精機 代表取締役社長:渡辺 穣(写真左) 専務:渡辺 達大(写真右)

 

創業から受け継がれる技術力

―― 現在の事業についてお聞かせください。得意とされる丸物加工とはどのような製品でしょうか。

渡辺達大専務(以下専務):切削加工は工作機械に取り付けた素材を回転させて切削工具で削る旋盤加工と、素材は固定して工具側を回転させるフライス加工に分かれますが、当社は旋盤加工を得意としています。それを分かりやすく丸物加工と呼んでいます。素材はステンレス、アルミが多いですが、銅、樹脂、チタンや、インコネルといった合金などさまざまな素材に対応できます。加工難度が高く短納期が求められる試作対応に強みがあります。

渡辺精機が得意とする旋盤切削技術

旋盤技術で加工された製品

 

―― 高精度の旋盤加工技術はどのように培われてきたのでしょうか

渡辺穣社長(以下社長):私の祖父である当社の創業者は時計職人でして、旋盤加工で小さい部品を作っていました。そのため旋盤加工は創業時から一貫して得意としてきた技術です。また20年ほど前、第二工場立ち上げの際に大手メーカーを退職された熟練工の方に工場長に就任していただいて、旋盤加工技術がさらに向上しました。当社はそれまで最大直径16 mm程度までの加工が限度でしたが、第二工場が立ち上がってからは直径200 mmなどの比較的大きな部品の加工ができるようになりました。それが取引先で評判となり、幅広い試作部品の相談が来るようになりました。

 

確かな仕事が信頼につながる

―― ミクロン(1000分の1mm)単位の高精度はどうして実現できるのでしょうか

専務:切削加工の直径で精度を出すこと自体は難しくないです。いまは機械が良いのでミクロン単位での加工精度は出ます。刃物の選定、回転数、送りのスピードを経験値から判断して、実際にやって1個目の精度を見て、0.1大きいとなった場合に、あと0.1だけ補正をかけて送り込めば精度が出ます。

 

社長:時計の部品は大昔から1000分台のミクロン単位です。工場長は昔から使われているデジタル化されていない機械を使い、感覚で削って1000分台の精度を出します。だから1000分台は社内では驚きません。ただ社外の方には驚かれますね。

 

専務:当社のすごいところは幾何公差の精度にあります。光学部品などで求められますが同軸度でミクロンの精度が出ているか。直径では精度が出ていても幾何公差が外れてくることが結構あって、それをどうやって高精度に収めるかに強みがあります。

蓄積された高精度を実現する高い技術力

 

 

―― 幾何公差とはどのようなものでしょうか

社長:幾何公差は、例えば円柱形のもので軸の中心にぶれがないかの差ですね。回転させるとよくわかります。精度が出ていれば何万回転させてもびくともしませんが、ぶれがあるとひどく振動します。例えば歯科治療で歯を削る際に使われるハンドピースでは、±1ミクロンの精度が必要です。毎分30~40万回転で回りますので、精度が悪いと患者さんに振動が伝わって痛みを感じます。その1ミクロンの精度にばらつきなく収めることを当社は得意としています。

 

専務:加工機械に固定されている時は精度が出ていても、外すと固定の圧が解放されてひずみます。それをいかになくすかに強みがあります。固定方法をどうするか、最終仕上げにどうやってもっていくかを考えないといけない。図面に書いてある通りに右から左に何も考えず作業をしてしまうと、最終的にでたらめな数字になります。でたらめと言っても100分台程度の範囲ですが。1000分台には収まらないですね。

 

社長:精度を上げると製品は良くなりますがコストも上がります。だからどんな製品でも精度を上げれば良いとは限りません。当社はコストよりも精度と納期を重視する仕事に焦点をあてています。

 

専務:簡単で安い仕事は当社のビジネスモデルに合いません。だから量産部品はほとんどなく、コストよりも品質と納期を優先してくれる試作部品に特化しています。複雑で、短納期で、他の会社が嫌がるような仕事が合っています。

 

―― そうした姿勢が信頼につながるのですね

専務:2年前から営業に移って、お客様に安心、信頼してもらう重要さを感じるようになりました。当初は現場上がりの気持ちが強くて、商談では保険をかけたネガティブなことを言うこともありました。でもそれだと自分勝手な話であって、お客様からしてみたら安心して仕事をお願いできませんよね。現場のことを考えると無理な仕事を取ってくるわけにはいきません。ギリギリのラインの判断が難しいです。でもそのような難しい案件を積極的に挑戦することによって最終的に技術が上がり、ノウハウや成長につながります。

 

社長:良いものを作っていると信頼してもらえるようになります。製品が営業の代わりになることがある。お客様からいただいた図面に、「この製品は渡辺精機で作ること」と書いてくださる設計者さんもいらっしゃいます。大事な仕事を信頼して任せてもらえている証ですね。当社の仕事に対する姿勢や品質が伝わっていると実感できてとても嬉しいです。


業種   旋盤切削、マシニングセンターによる試作品加工等

設立年月          1951年6月創業

資本金              10,000千円

従業員数          15人

代表者              渡辺 穣

本社所在地      東京都大田区大森西2-9-6

電話番号          03-3761-7535

公式HP           http://watanabeseiki.jp/

 

この記事の著者

岡本崇志

岡本崇志合同会社オスカーワークス 代表社員 中小企業診断士

演出、CGディレクター、プロデューサーとして映像分野で長年活動。CM、アニメ、企業VP、展示会映像、プラネタリウム、VR映像にて演出、制作、プロモーションを経験。 現在は、経営コンサルタントとして映像・写真などビジュアルをを用いた販売促進、マーケティング支援、補助金支援などを行っている。

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