So × Zo スペシャル企画 町工場ホンネ座談会「ウチのデジタル化、IT化、DX化編」①

ウチのデジタル化、IT化、DX化編(前半)

システム導入は【導入前】が肝心 

今回は、町工場の経営者もしくは経営者に近い立場の皆さんにお集まりいただきました。町工場というと、デジタル化、IT化、DX化がなかなか進展していかないというイメージがあります。そういった中で、今日お集りの皆さんは前向きに取り組まれている珍しい企業だといえます。デジタル化、IT化、DX化に取り組もうと考えている経営者や責任者の方に参考になるようなお話をお伺いしていきます。

前半は、町工場でデジタル化、IT化、DX化の取り組むにあたり共通して重要なことを中心にお伺いしました。

座談会メンバー

ムソー工業株式会社 代表取締役 尾針徹治氏(写真:右上)

株式会社タカハシ 代表取締役 高橋弘明氏(写真:左上)

有限会社安久工機 常務取締役 田中宙氏(写真:右下)

中辻金型工業.株式会社 代表取締役社長 中辻隆氏(写真:左下)

ファシリテーター 川崎悟(写真:右中)

(以下敬称略)

 

――― 早速ですが、各社の概要と、IT化やデジタル化に取り組まれたきっかけや取り組み状況などについて教えていただけますか。

高橋) 

株式会社タカハシは、ゴムパッキンなどを製作しているプレス加工の会社です。従業員数はパート従業員なども含めると20名ほどです。大量生産を得意としていることもあり、町工場の中ではデジタル化には取り組みやすいほうだと思います。

当社の場合は、給与管理システムを自作したことが最初のデジタル化の取り組みでした。母が給与計算をしてくれていたのですが、煩雑な作業で毎月大変苦労していました。苦労している母を助けたいという思いでしたね。それをきっかけに、こつこつとさまざまな作業をデジタル化させていきました。もともと同じ作業を繰り返すのがイヤだという性分なんです。プログラミングやデータベースに関する基礎的な知識を持っていたのは幸いしました。

 

尾針)

ムソー工業株式会社は、研究者向けに材料開発のお手伝いをしている従業員数11名の会社です。開発のための、試験片加工、ときには試験治具の設計・製作も行っています。

当社では、生産工程でのシステム化も進めていますが、営業活動のIT化はほかの多くの町工場よりも進んでいるかもしれませんね。

 

中辻)

中辻金型工業.株式会社は、プレス金型等の製造・販売を行っている会社です。拠点は東大阪市です。タカハシさんとは違って少量多品種生産なので、どうしてもITシステムなどを導入するのが難しいと感じています。とはいえ、いろいろなツールが出てきていますので、うまく使って従業員の負担を減らしていきたいですね。IT化といえるかどうかというところですが、インターネットを使った情報発信は営業に活かしています。

 

田中)

有限会社安久工機は、従業員5人の小さな町工場です。主に試作開発を行っていますが、加工機能はファブレス化し、機械・機構設計を中心にやっている会社です。現在、3代目として事業承継の準備をしています。当社入社前は、中小企業向けに業務パッケージシステムを販売する会社で営業職をやっていました。そういうバックグラウンドがあるので、入社して最初にやった仕事は、Excelなどで管理していたものを前職で扱っていたシステムに一斉に置き換えるということでした。ただ実際にはなかなか業務に合わず、またExcel管理に戻しているところもありますね。

 

――― 町工場と一言でいっても、いまご紹介いただいたように少量多品種の会社もあれば、大量生産の会社もあります。また、人数が限られる中で、皆さん含めメンバーの持っているバックグラウンドなどにより、デジタル化等の取り組み方は変わってくるかと思います。その一方で、共通して大切なこと、重要なこともあるように思うのですがいかがでしょうか。

システム化の前に業務理解と業務の見える化

高橋)

共通して大切なことは、業務や情報の流れを見える化することでしょうか。見える化というのは、自社の各工程に対して、どんな作業があり、どんなデータがとれるのかというのを文字情報で整理することです。そして、重要な情報は何なのかを把握すること。デジタル化といいますが、アナログ的な書き留める作業からはじまるように思います。

 

田中)

まさしくおっしゃる通りだと思います。私も前職のシステム営業で同じことをお客様に伝えていました。IT化というと、「このシステムを入れたら楽になる」という発想で始めてしまいがちです。でも、そうではなく、自社の業務内容をアナログ的にしっかり理解して把握することからです。そのうえで、どんなアウトプットが欲しいのか、そのためにどんなインプットが必要なのか考えることですよね。

例えば、誰がいつどのタイミングで売上伝票を入れているのか、誰がいつどのタイミングで何に案件情報を登録しているのか。こういうことをちゃんとアナログ的に理解していることが、第一歩として必要であると強く感じています。

 

中辻)

お二人のお話から、かつての失敗を思い出しました。2010年ごろのことですが、「このシステムを入れたら全部解決します」というような売り文句を受けてシステムを入れました。

それが大失敗で結果的には生産効率がすごく落ちてしまった。システムを利用するために、やることはかえって増えるし、あれもこれもとマスターデータにしてしまい、どのマスターを使うのかわけがわからなくなって人間のほうがフリーズしてしまうような。

この経験から、システム化というのは、やはり便利になることが大前提。自分の会社の業務をしっかり理解して何を楽にしたいのかという着眼点をしっかり持って、それがシステムで楽になるなら導入する。そうでなければやらないほうがいい。先ほどのお話に共感しますね。

 

尾針)

私もその通りだと思いました。自社の業務を流れで見たときに、どんな情報が必要なのか、その目的に応じて道具を選んでいく。

システムベンダーとしては、より多くの企業に適用させようと機能が増えるのだと思います。なので、パッケージになっているシステムを購入すると、自社に不要な機能がたくさんついてきてしまう。機能をそぎ落とした形で買いたいところだけど、パッケージソフトだとそうもいかない。

そういう意味では必要な機能だけに絞り込んで自社開発するのも手です。自社開発といってもたいそうなものではなく、手書きやExcelで十分ということもあると思います。

 

――― システム導入前の業務の見える化が重要というのが、皆さんの共通見解のようです。では、業務の見える化はどのように進めていったらよいのでしょうか。

(高橋)業務はホワイトボードで見える化する

高橋)

業務の見える化には、ホワイトボードをよく使いますね。ホワイトボードにマグネットシートを張り付けて、従業員と一緒にモノの流れ、情報の流れを整理していくんです。品質に問題があるときなどにもやりますが、そうやって整理していくと従業員間の情報の齟齬などが見えてきます。

 

田中)

私は業務フロー図を作成します。フロー図を作成することで、全体が見えてくると、「ここの承認はいらないよね」などと無駄な作業の洗い出しができるようになります。

次のステップとして、フローの中のどれをどう仕組み化、システム化するかという話になります。ただ、この部分というのは、世の中にどんなソフトがあるのか、どんな仕組みが一般的なのかといった知識がないとなかなか考えられないんですよね。そこはシステムベンダーさんの力を積極的に借りるべきだと思っています。

フロー図のイメージ(提供:有限会社安久工機)

 

(中辻)「めんどくさいこと教えて」従業員が答えやすいように

中辻)

田中さんの見せてくださったフロー図ですが、素晴らしいのですが、正直、難しそうに感じてしまって。当社の従業員も、そう感じてしまうタイプなので、翻訳をするというか、言い換えをしています。

「面倒くさい作業を教えてください。手間のかかる仕事とか、時間がかかってること、面倒くさいなと思うことは何ですか」っていうように、会話から始めるようにしています。そうすると、「このデータ、何回も入力して面倒くさい」と教えてくれるんですよ。

その次に、どうにかその入力作業を減らせるようシステム化できないかと検討を始めます。その段階で、フロー図を作りますね。

どうしてもシステムを導入するとなると難しいことという思い込みがあるので、その障壁を取り払って考えてもらえるように、フロー図作成の前にワンステップ入れてますね。

 

(田中)情報が集まるキーマンも一緒に業務の見える化を

田中)

業務の見える化、情報の流れの見える化について、誰に聞くかというのも重要です。キーマンがいると思うんですよね。業務フロー上、情報が集まってくる人。なんというか、非常に煩雑な作業をしてくれている人。役職のある人よりもむしろアシスタント的な業務をしてくれている人のほうが、細かな情報から判断して煩雑な作業をしてくれています。そういうキーマンにこそ業務の見える化の作業に参加してもらいたいですね。

 

 

――― 業務の見える化の方法については各社さまざまですね。自社に合った方法を探っていくことが重要だと感じました。業務の見える化のほかに、共通して重要なことはありますか。

(高橋・尾針)システムの原理原則の理解は必要

高橋)

システムを入れていくには、やはりプログラミングやデータベースに関する基礎的な知識、原理原則の理解もある程度必要だと感じています。

 

尾針)

そうなんですよね。以前、Officeのデータベース管理ソフトAccessをちょっとだけ触ってみたんです。使いこなすまでには至りませんでしたが、マスターデータベースの意味や、情報の紐付けの仕組みを学ぶことができました。それ以降、システムツールを選んだり、業務に取り入れることに対して、だいぶハードルが下がりましたね。基礎知識や原理原則を知っておくことは大事ですね。

 

高橋)

システムの原理原則の理解は経営者には必須だと思うのですが、学べる場がなかなかないというのが現状だと感じています。公的機関で、そういった内容を学べる機会を作ってもらえたらうれしいですね。知識を持ったうえで、システム導入をすれば、高額なシステムを入れたけど結果的に使っていないということは激減すると思います。

 

――― デジタル化、IT化、DX化に向けて、共通して大切なことをお伺いしました。まずは業務の見える化、そしてシステムに関して基本的な知識を身につけるということ。システムを導入する前にポイントがあるということですね。町工場に限らず、幅広く活用できるご指摘だと感じました。


【座談会メンバープロフィール】

中辻 隆 中辻金型工業.株式会社 代表取締役 1983年 大阪生まれ。大阪工業大学経営工学科卒。 三重県の伊藤製作所で3年間プレス金型を学び、26歳で同社へ入社。 創業者である父の「金型やはよろずや。なんでもやらなあかん。」との教えの元に金属加工の高速化や各作業の標準化に取り組んでいる。 俗人化した金型業界を変える為に若手が活躍できる仕組みづくりに取り組み 「未常識を常識に」を合言葉にこれまでの常識を新しい常識に変えていくように日々取り組んでいる。

髙橋 弘明 株式会社タカハシ 代表取締役 1972年生東京都台東区まれ。国立山形大学工学部大学院理化学科博士修了。1977年に同社に入社。その後、プログラミングやデータベースに関する基礎的な知識を元に、給与計算システムや販売管理システムの自社制作やIT化・DX化による業務効率化に取り組み成果を上げている。

尾針 徹治 ムソー工業株式会社 代表取締役社長

尾針 徹治 ムソー工業株式会社 代表取締役社長  1981年東京都生まれ。青山学院大学文学部卒。「下町ボブスレープロジェクト」「鉄工島フェス」「ROUND TABLE2020」など大田区発の様々なイベントに関与。好きな言葉は“兼愛無私“。趣味は映画・音楽・サウナ。現在は材料評価向けの受託加工や評価機器の設計・製作を請け負っているムソー工業株式会社で代表を務めるかたわら、製造業のイメージを3M(モテる、儲かる、認められる)にイメージチェンジすべく情報発信を行っている。

田中 宙 有限会社安久工機 常務取締役 1986年横浜生まれ。中小企業向けERPパッケージメーカー勤務後、30歳で実家の町工場へ転身。 家業は『あらゆる「つくりたい」を共に実現するモノづくりのコーディネーター』またの名を『試作屋』。 50年に渡る医工連携(人工心臓開発)実績をベースに様々な分野の試作開発に“仲間まわし(町工場ネットワーク)“で挑む。 現在は経営企画担当として“技術以外の全て“を担当。 三代目として試作開発における構想設計・コーディネーター業の成長を図り奮闘中。

 

 

この記事の著者

赤田彩乃

赤田彩乃中小企業診断士、健康経営アドバイザー、「ずるいデザイン」講師

大学卒業後,人材紹介の営業担当を経験。その後,まちづくりや建築への関心から,まちづくりコンサルへ転職。自治体を主要顧客としまちづくり,景観・住宅施策,防災に関する計画策定業務に従事する。夫の転勤による退職後は独立し,中小企業支援や新規事業立ち上げ支援等を行う。

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