- 2023-2-14
- 取材・インタビュー
工場長と二人三脚で進めた本社移転と職場環境改善
株式会社上田製作所は、自動車用、産業機器用スイッチの設計製造と金属の切削加工を行うメーカーである。自動車メーカーの一次サプライヤーとして、約70年にわたり自動車部品を製造する中で培われた経験と技術からなる高品質な製品は顧客の高い信頼を得ている。
本特集では同社が取り組んできた職場環境の改革と今後の展望について代表取締役社長の上田大輔氏(以下、上田社長)と取締役工場長の石渡良平氏(以下、石渡工場長)に話を伺っていく。第二回は同社の大きな転機となった本社移転と職場環境改善について取り上げる。
社員に働きやすい環境を提供したい
前回、上田社長の就任時の目標とされていた「本社工場の移転」について詳しくお聞かせください。
上田社長:よく「四季を感じられる工場」などと冗談で言っていましたが、夏は40℃近くまで上がり、スポットクーラーや扇風機を使っても空気をかき回しているだけでほとんど効果がない。冬は逆に、ストーブを焚いても寒さで体温を奪われ、身体が思うように動かない。このような環境では、一生懸命働いてくれている社員に対して大変申し訳ないと思っていました。大田区の周りには作業環境のよい町工場もたくさんありますし、まずはそこに肩を並べたい、社員が働きやすい環境を提供してあげたい、という想いが強くありました。また、工場外の環境も、目の前が中学校、隣が保育園、その隣が老人ホームという立地であることを考慮すると、地域への安全面でも決して万全とは言えない状況でした。
2007年に工場長の石渡が入社した後、2人で多くの物件を見に行きました。大田区を出ることも視野に入れて地方にも行きましたが、なかなかこれといったところが見つからない。やはり、できれば今の社員たちが変わらず通える場所にと原点に立ち返り、ようやく今の大森南によいご縁があり2019年に移転を果たすことができました。
新本社開設にあたって、こだわったポイントなどがあれば教えてください。
上田社長:仕事面はもちろんですが、実は休憩面にも力を入れました。例えばトイレにはかなりこだわっていまして、商業施設のお客様用トイレと同等のものを目指しました。前の工場では男女のトイレが共同だったり、古くて狭かったりと、とても落ち着ける環境ではなかったんですね。やはり仕事の合間にホッとひと息付ける場所は必要ですので、ここにはこだわりました。また、食堂も以前よりスペースを広く確保して、全社員が座れるように設計しました。今はコロナ禍で休止していますが、当社は毎週1回「全体昼礼」として全社員が集まる場があります。以前は席の数が足りずに、座る人と立つ人に別れてしまっていたのですが、新工場では全員が座って話を聞くことができます。広くなったことで、ただ話や報告をするだけでなく、勉強会を開くこともできるようになりました。コロナが落ち着いたら早く全体昼礼を再開したいですね。
異業種の経験があるからこそできること
本社移転や職場環境改善には石渡工場長のご尽力が大きいと聞きました。石渡様の経歴を教えてください。
石渡工場長:私は、上田社長から見て義理の弟にあたります。前職は自動車ディーラーに勤めておりました。2007年に上田製作所に入社して、2009年に取締役に就任しました。
職場環境の改善には石渡工場長が中心になって取り組まれたそうですが。
石渡工場長:入社したときに、前職と比較して必ずしも働きやすい環境ではないと感じていました。前職は製造業ではありませんでしたが、どんな業種でも同じ人間が働く同じ「会社」なのですから、働きやすい方がいいに決まっています。他の業界を経験していることを強みと考えて、常に「自分自身が働きやすい環境はどういう環境か」を自問自答しながら、職場環境の改善にひとつずつ取り組んでいきました。
具体的な改善内容を教えてください。
石渡工場長:まずはなんといっても「休み」ですね。私が入社した時は2日休める週が少なかったのですが、日中の勤務時間を少しだけ伸ばして、業務を徹底的に効率化することで現在はほぼ週休2日を社員に取らせることができるようになりました。また、有給取得率にもこだわっています。ここ数年は7割前後の取得率を維持しており、製造業では高い方だと自負していますが、中には有給取得率100%を目指している製造業の会社もあると聞きます。当社もいずれはそこを目指せるようになりたいですね。
職場環境面では、本社移転後はすべての作業場にエアコンを完備しています。これも他の工場ではなかなかないことだと思います。また各階の天井を高めに設計していて、照明は全てLEDにしました。工場に義務づけられている明るさの基準よりかなり高めの、ショッピングセンターと同等の明るさに設定しています。工場というと天井が低く、やや暗めの印象がありますが、それを払拭したかったんです。
今は特に新しい人材の採用が難しい時代ですので、職場環境の改善できることを少しずつ積み重ねて、社員が働きやすく、定着してくれる会社を常に目指しています。製造業にとって、職人は機械設備以上に宝物で、一度失うとまた同じレベルの人材を育て上げるのは大変です。社長も私の想いに賛同してくれているので、現状に甘んじることなく、これからもよりよい環境作りを進めていきます。
従業員教育の取り組みについてもお聞かせください。
上田社長:大きく分けて社内教育と社外教育とがあると思いますが、まず社内教育としては一般的なOJTですね。ベテランと新人を2人一組にして、加工技術と商品知識を教えています。社外教育については、OJTだけでは伝えることができない部分、例えば図面の読み方の外部講習や、NCスクールという機械メーカーさん主催の勉強会に出てもらうようにしています。最近ではオンラインでの受講も増えてきていますね。これらの学びを通じて、一人前になってもらえるような教育を行っています。
業種 自動車用、産業機器用スイッチの設計・開発・製造、金属切削加工
設立年月 1953年7月
資本金 30,000,000円
従業員数 42人
代表者 上田 大輔
本社所在地 東京都大田区大森南4-13-7
電話番号 03-6423-7520
公式HP http://www.ueda-mfg.co.jp/