自社製品を構想に終わらせない3つのポイント(中小企業診断士 富田裕之)

自社製品を構想に終わらせない3つのポイント

仕様も設計も値決めも、すべて自分たちで主導できる「自社製品」を実現させたい――。10年先の展望が描きにくい今、自社オリジナルの最終製品づくりを経営課題に掲げる中小企業が増えています。その中で、課題には掲げるものの、何年も足踏み状態でいる企業が多いのも現実。自社製品を実現させるには何が必要なのでしょうか。

ここでは、‟ペダルのこぎ出し”段階にあたる製品開発の「構想・企画」段階に焦点を絞り、製品を「構想に終わらせないための3つのポイント」について考えてみましょう。

 

「自社製品とは」を一言で説明できますか。

ポイントの1つ目は「任せっぱなしにしない」。社内の特定の部署や人に、自社製品の企画を任せきりにしていませんか?社長一人が抱えているという場合もあるかもしれません。

「大企業じゃないんだから、いちいち社内で多くの人間を巻き込んで〇〇プロジェクトなんてやってられないよ。現場は忙しいんだから。」

そう思われる方は、一度考えてみてください。自社製品は、仕様書どおりに作って終わりでなく、営業・マーケティングまで自社で手掛けなければなりません。そのためには、企画・設計、製造、営業で認識を統一し一丸となって取り組む必要があります。そのためには、社内の特定の人間だけで事を進めるのではなく、文字通り“全社”で取り組む体制が不可欠です。上流の「構想・企画」段階から、社内を巻き込む“仕掛け”をしておきましょう。

 

まず社長がやるべきことは「自社製品を開発する」という方針をオープンにし、自らの言葉で社員に宣言することです。このプロセスをおろそかにしてしまう企業が意外に多くあります。当然、ただ「開発しようと思う」と発表するだけではいけません。何をもって「自社製品」と言うのか、社長なりのイメージを具体的な言葉にして伝えることが大切です。

経営課題と日々向き合う社長と現場の社員では、会社を見る視点も視野の広さも異なります。突然、社長に「自社製品をつくる」と言われて、頭の整理がつかない場合がほとんどです。それで、よいアイデアが浮かぶはずもないでしょう。自社製品が成功したら、社員各自の仕事生活がどう変わっていくのか。社会にどう役立てることができるのか。このように社長がかみ砕いて話すことで、方針発表が「説得」にならず「共感」を伴って理解され、社内を巻き込みやすくなります。

 

アイデアキラーになるな

ポイントの2つ目は「アイデアを潰さない」。巻き込む秘訣は「参加」です。

社員から「こんな製品をつくってはどうか」というアイデアを広く募りましょう。コツは、最初から精度の高いアイデアを期待しないこと。ここのさじ加減を見誤って「そんな発想しか出てこないのか」「売れるはずないだろう」などとピッチャー返しの言葉を放ったら、2度と意見を言ってくれなくなるかもしれません。急がば回れ、社内の“温度感”が醸成されるまで、はやる気持ちはおさえて、構想段階は時間をかけたいものです。

自社製品を検討する際の社内ミーティングの進め方を工夫しましょう。

「せっかく現場の手を止めて皆を集めたのに、誰も自分から発言しない。」

そのような場合は往々にして、普段から会議が「報告会」になっている可能性があります。報告会の特徴は「一対多」。多数の出席者がそれぞれ、社長という一人の対象に向かって話をしているのです。なぜ、そうなってしまうのでしょうか。要因の一つには「空間」、つまり会議室のレイアウトが影響しているかもしれません。

よくあるのは「ロの字型」に机を配置し、短辺のいわゆる“誕生日席”に社長がドカッと座る配置です。他の出席者の視線はおのずと社長に注がれ、“お説拝聴”の空気になります。「たかが座り方」と思われるかもしれませんが、場の力をあなどってはいけません。例えば、話をする場合、相手が助手席にいるか、後部座席にいるかで話しやすさが随分と変わってきます。話しにくい席の人とは、おのずとコミュニケーションの量も減るでしょう。会議でも同じです。座る位置が相手への印象や互いの関係性に大きく影響するのです。ロの字型のレイアウトを使用している場合は一辺の机を取り去り、トライアングル型にするのも一案でしょう。ロの字型よりお互いの距離感が近く、上座下座もありません。丸テーブルもおすすめです。

こういう粒度のことまで配慮を重ねることで、「社長は本当に自分たちの意見を聞こうと思っているんだ」という本気度が社員に伝わります。実際のミーティングの際には、社員の言葉を途中でさえぎらず、頭ごなしに否定しないよう留意しましょう。

 

若手が育つ自社製品づくりを

最後の3つの目のポイントは「人の成長を妨げない」。仮に自社の強みと市場のニーズをマッチさせる企画案ができたとしても、生産段階に入るまでには、さらに時間を要します。なかなか成果が見えず、モチベーションが途切れそうになるかもしれません。その場合は、企画・構想段階で出た製品アイデアや新たな製法・加工法を、既存製品の「改善提案」として転用し、現実を動かしていくのも一案です。

 

次々と自社製品を生み出す“知恵工場”と呼ばれる岐阜県のT社(社員数35名)には毎月1回、社員全員が2時間仕事を中断して5人組になり、社内を巡回し連名で改善提案を出す習慣が存在します。このように自分の担当工程以外の工程にふれ、製品全体の構造を理解すると提案の幅と質があがります。その社員の成長によって自社製品の開発能力も底上げされるという好循環が成立しているのです。

 

ここまで「構想に終わらせないための3つのポイント」について見てきました。いずれのねらいも、自社製品開発の全社「自分事化」です。いくら小さなものであっても「自分事」で手掛けた製品には“愛着”が宿り、本気で人に勧めたくなります。自社製品への愛着はやがて「自社」への愛着に変わるはずです。

自社製品づくりは、会社の未来を継ぐ人材をも育てるプロセスでもあるのです。

この記事の著者

富田裕之

富田裕之中小企業診断士

麗澤大学卒業後、人間性の研究教育を専門とする公益財団法人モラロジー研究所に入所。出版部門でビジネスリーダー向け月刊誌の編集に携わり、経営者をはじめ700人を超えるリーダー層に対面取材。人を動かすリーダーには「優れた思考・姿勢」があることに気づき、その本質を多くの人に伝えるべく、経営者専門誌『モラルBIZプレミア』編集長として社会に発信。100号を超える特集企画に携わり、セミナー登壇回数は300回を超える。中小企業診断士。

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