自社の魅力発信 ~「働き方改革」と「SDGs」の関係~(ともに経営研究所 山本利映)

自社の魅力発信~「働き方改革」と「SDGs」の関係~

近年企業に求められる「SDGs(持続可能な開発目標)」は、持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標です。これは国内の取組みである「働き方改革」とは発端が異なりますが、共通する考え方があります。この関係性を理解すると、より効果的に「SDGs」に取組めます。本稿では「働き方改革」の現状、「SDGs」との関係、さらに東京都大田区でのSDGsへの取組みの事例などを紹介します。

■働き方改革の現状
働き方改革といえば2018年に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が可決成立して以降、関連法の施行が主に注目されてきました。例えば、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得、同一労働同一賃金など、大企業・中小企業での施行日が決められていたため、制度設計の導入で奔走されたことでしょう。2020年からはコロナ禍により、今まで着手できなかったリモートワークやデジタル化を導入せざるを得ず、結果的に働き方改革が進んだ面もありました。一部の項目や対象業界のもので今後も関連法の施行を控えているものもありますが、大きな制度の導入・整備としては中小企業の同一労働同一賃金の2021年4月が期限で一旦区切りを迎え、「少し落ち着いた」と胸をなでおろしている企業が多いかもしれません。

しかしながら、働き方改革は法整備をし、リモートワークやデジタル化の形を作れば万全でしょうか。制度設計と導入は大切ですが、あくまでそれらは働き方を改革するための手段にすぎません。厚生労働省によると、働き方改革はこのように定義されています。

『「働き方改革」は、
働く方々が個々の事情に応じた
多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革です。』

(厚生労働省働き方改革特設サイトよりhttps://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/top/)。


働きやすい職場づくりをすることで、人材不足の企業にとっても多様な人材に働いてもらえたり、働きがいが増すことで新たな発想が生まれたり生産性が向上したりといったことも期待されています。

―――――――――――――――――――――
■ワークライフバランス
働き方改革の中でよく出てくるキーワードとして「ワークライフバランス」があります。
これはワークとライフのそれぞれを充実させることによって相乗効果を生むことを言います。このためには、余分にかかっていた手間を省いたり、無駄をなくすといった改善活動や、取りにくかった有給休暇をしっかりと取れるようにする、といった制度設計も必要となりました。

働きやすく働きがいのある職場づくりに着目して取組みを進めてきている企業もあります。例えば、経済産業省が推奨する「健康経営」や、女性活躍推進や子育てサポートに積極的な取組みを実施している企業が厚生労働大臣の認定を受ける「えるぼし」「くるみん」、また部下や同僚等の育児や介護・ワークライフバランス等に配慮・理解があり自らも率先する上司「イクボス」の宣言などを、職場づくりに活用されている企業もあるでしょう。

このような取組みはSDGsでも注目されています。

 

■実は既に取組んでいるSDGs

ワークライフバランスを大切にした職場づくりや健康経営の導入など、「人」に関する取組みを既に行っている企業は少なくありません。これらはSDGsでも注目される取組みです。

例えば、健康経営の一環である健康増進やメンタルヘルス不調者への取組みは、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」や、ゴール10「人や国の不平等をなくそう」につながりますし、女性の健康保持・増進に力を入れていればゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」にも当てはまります。

また、ワークライフバランスやダイバーシティ経営(多様な人々の柔軟な働き方を大切にする経営)として、男性が多い業界で女性やLGBTQに配慮したトイレの設置は、ゴール6「安全な水とトイレを世界中に」に、シングルマザーを積極的に雇用し管理職登用等をしていれば、ジェンダーや不平等をなくすことにつながるのはもちろん、相対的貧困の低下にも関係するので、ゴール1「貧困をなくそう」にもつながると考えられます。

 

■社外への発信

このように、職場環境づくりや働きがいの創出として力を入れている企業は地域活動や環境に配慮した取組みを並行して行っていることも多く、既にSDGsに取組んでいると言えるのですから、それらの活動を発信していきましょう。

今までは、SDGsに取り組む企業が少なかったため、取組んでいることで差別化できましたが、これからはSDGsに「どう」取組んでいるか、が見られてきます。特に若者は企業の本気度を見ています。

SDGsと紐づけて企業の活動を発信することに対して、「SDGsウォッシュ(うわべだけの取組み)」と揶揄されることがありますが、SDGsという概念が出てくる以前から様々な課題に積極的に取組んできた企業も数多くあり、それを適切に発信することは企業価値を高めることにつながります。

しかし、一般的な取組みしか実施していない場合は、見栄え良く発信しても、第三者には当然のこととして映り、いわゆるSDGsウォッシュと判断されます。もし取組みが足りない企業は、SDGsからではなく健康経営などの評価ツールをもとに仕組みづくりを始めるのもひとつの方法です。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■若者に広まる「エシカル就活」とは?

就活中の学生から、「御社が大切にされているSDGsのゴールは何ですか」といった質問を受けることも珍しくなく、企業側もSDGsなんて知らない、とは言っていられなくなっています。

若者の間では社会課題への関心度は大変高く、就活生がSDGs視点で企業を見るのは当たり前となり企業を選ぶ基準にもなっています。㈱IDEATECHの『「23卒就活生の選社軸とSDGsの関係性」に関する意識調査』によると、88.8%が「SDGsへの取組が企業選びに影響する」と回答し、就職先企業を選ぶ上で重視する点として、「SDGsに対する姿勢や取り組み」は前年度より7.2ポイントアップの24.5%となっています(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000045863.html)。
このように人や地球環境、社会に配慮した企業を選ぶ就職活動は「エシカル(倫理的)就活」と呼ばれ、企業のSDGsへの関与度に年々注目が高まっていることが伺えます。
出典:PR TIMES「【就活解禁間近!】23卒就活生の73.1%が「SDGs」について認知、「企業選びで重視」は22卒より7.2ポイントUP」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■SDGsは既にやっていることだけでいい?

では、既存のSDGsへの取組みを発信するだけで十分でしょうか。既存の取組みに加えて、ぜひ新たな取組みにもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

NPOや国際機関への寄付活動なども大変すばらしいですが、業界が抱える問題や、業界特有の変えていくべき風習、また地域の課題、などから取組めることを考えると、自社だからこそできることがあるはずです。

例えば以下のような取組みが考えられます。
・仕入材料について考え見直す
例:使用している材料は、正しいルートで調達されているか(輸入の場合、不法労働や児童労働に関わっていないか)、環境に影響のある採掘や伐採などをしていないか調査し、問題があれば見直す

・商品の最終廃棄が正しく行われているか考え見直す
例:再利用(リユース)やリサイクルができているか、できていない場合は製造や販売段階での工夫はできないか、廃棄する場合はごみの量を減らせないか。最終消費者の行動を考え改善活動に活かす。

整理するにはバリューチェーンマッピングも有効です(参考記事:https://mono-sozo.com/archives/777

社会課題への取組みは、社員の働きがいにもつながります。ぜひ既存の取組みに加え、一歩前に進む活動にもつなげてみましょう。

 

■大田区の取組み

大田区では令和4年度にSDGs推進本部が設置されました(https://www.city.ota.tokyo.jp/kuseijoho/ota_plan/SDGs/index.html)。
今後、区としての取組みの加速が期待されます(令和3年度秋には「大田区SDGs副業」と題し、大田区の町工場と商店街をフィールドにした2つのプロジェクトの副業者の募集などもありました)。
企業に求める具体的な取組み内容などはまだ公表されていませんが、今のうちからSDGsへの認識を高めておくのもいいでしょう。

この数年間、働き方改革で制度の整備を進めてこられた企業のみなさま、ぜひこの機会にSDGsとの結びつきを知り、次の取組みに活かしていきませんか。

この記事の著者

山本利映

山本利映ともに経営研究所代表

中小企業診断士、キャリアコンサルタント。ダイバーシティ経営や経営戦略としての働き方改革など、人や組織、社会に関わることを中心に、SDGsをベースとした経営支援やコンサルティング、研修等を行っている。関西在住。最近の楽しみは、中1と小4の息子達とキャンプに行くこと。

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る