- 2021-11-26
- 経営全般
製造業における修繕計画の重要性
製造業を営まれる多くの企業から建設工事における相談を受ける中で共通して感じることは、「建物を新築して以降、長期的な修繕計画や実施をしてこなかったであろう」ということです。
建物の維持・修繕は、歯の治療(予防)をイメージすると分かりやすいと思います。
例えば小さなクラック(ひび割れ)や鉄部のサビを放置したことで、躯体(鉄骨や鉄筋・コンクリート)の腐食に繋がり、経年によらない大規模な修繕や建替え(莫大な費用発生)の可能性が高まることも考えられます。
今回は、製造業の工場施設(建物・設備)を、少しでも長く維持していくための“修繕計画の重要性”についてお伝えしたいと考えます。
安全で快適な職場環境を確保し、建物の資産価値の維持向上を図るためには、建物の経年劣化に対して適切な修繕工事を適宜行うことが重要であると考えます。
そのためには、次に掲げる事項を目的として建物調査診断を実施検討し、目的を踏まえた長期修繕計画を作成することをお勧めします。
*通常、長期修繕計画はマンションや集合住宅等で計画されることが多いですが、商業施設やオフィスビルはもとより、工場や倉庫でも同様の考え方をしていくことが有効であると考えます。適切に管理された長期修繕計画は、工場施設の資産価値を維持向上する上で必要不可欠です。
長期修繕計画の目的
- 将来見込まれる修繕(改修)工事の内容、時期、概算費用を明確にする。
- 修繕工事実施に伴う、修繕積立金の根拠を明確にする。
- 修繕(改修)工事に関する長期計画について、関連先にあらかじめ周知・合意しておくことで、修繕工事の円滑な実施を図る。
- 修繕計画の見直しを行う。
それぞれの詳細を以下に示します。
- 将来見込まれる修繕(改修)工事の内容、時期、概算費用を明確にする。
修繕工事を実施する時期は、一般的に新築から10〜15年周期と言われています。建物の状態や構成する部材、設備の耐久性等を考慮し、必要と思われる工事内容と それに伴う工事費用の算出を行う必要があります。
*「修繕」とは、法定点検等の点検及び経常的な補修工事を適切に実施していることを前提条件とし、建物及び設備の性能・機能を新築時と同等水準に維持・回復させることが目的です。
- 修繕工事実施に伴う、修繕積立金の根拠を明確にする。
修繕工事の費用は一般に高額となるため、「修繕積立金」として毎月積み立てを行い、その積立金から支払うことが一般的です。そのため、(1)で明確にした内容を元に積立金の金額を決定します。積立金が不足する場合、金融機関から追加費用の資金を調達する必要性が生じるため、修繕積立金の適切な金額設定が大切です。工場や倉庫等の場合でも、建設時に長期の修繕計画を立てることで 、毎年の企業の予算取りもできます。
*金利、消費税の税率、費用の価格変動等は作成時点において想定した条件を明示します。
- 修繕(改修)工事に関する長期計画について、関連先にあらかじめ周知・合意しておくことで、修繕工事の円滑な実施を図る。
修繕工事について、従業員や近隣住人・取引先等にあらかじめ周知・合意を獲得しておくことは円滑な工事を実施する上で重要です。調査診断結果や計画に基づく修繕工事内容や安全計画・施工計画等を立案し、工事の実施が製造ライン等に与える影響を考慮しておくことや、関連先への対応を検討しておくことが必要です。
- 長期修繕計画の見直しを行う。
長期修繕計画は、対象不動産の経年劣化の状況やメンテナンスの状態を反映するために、定期的(少なくとも5年ごと)に更新する必要があります。建築の専門家もしくは建物診断の専門会社に依頼をして、見直し時に建物の状況や実態に沿った工事範囲・工事内容の選定を行い、より精度の高い修繕計画を立てましょう。
*長期修繕計画は、20~30年先までの推定修繕工事の内容、時期、費用等を概算で求めますが、策定後の技術の発展や経済・社会情勢等の変動要因はカバーしていません。
海外では建物をスクラップアンドビルド(取り壊して建て直す)ではなく、修繕して長期間に使っていく文化があります。そのため、国によっては修繕計画や修理履歴が重要視されます。
適切な計画に沿って適正に管理された建物は築年数の割に新しく見え、計画的に工事を発注するため時間的余裕を持って仕様を決定したり施工業者を選定したりすることができます。
また、もし修繕の工程のうち同工種があれば効率的に発注することで、全体的な費用を圧縮することにもつながります。計画もなく突発的な工事を発生し割高な費用が掛かってしまう状況を避けるために、修繕計画は重要なツールになります。ご紹介した手順を参考に作成してみてはいかがでしょうか。