はじめよう健康経営🄬~大田区編~(会社の健康研究所 屋代勝幸)

はじめよう健康経営🄬~大田区編~
1.はじめに

「健康」とは何ですか?と聞かれたときに、みなさんは何と答えるでしょうか?「食べたいのものが食べられる」「病気でないこと」「体調がいいこと」「健康診断で異常のないこと」、、、人それぞれ「健康」の意味は違いますね。

1947年に採択されたWHO(世界保健機構)憲章では、前文において「健康」を次のように定義しています。『健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会仮訳)』

ここにあるように、「健康」とは単に身体のそれだけでなく、心、さらには社会的にも満たされた状態を「健康」というのです。肉体的、精神的は個、社会的は集団に当てはまりますね。つまり自身の関係する集団、例えば家族や友人、同僚・上司との関係、さらに社会に対して満たされた状態であることが「健康」につながるのです。健康経営に興味を持たれている方には、まずこの「健康」の意味を良く理解していただきたいところです。

健康経営はこれまで、コストとして捉えていた社員の健康管理を投資として捉えるところに大きな違いがありました。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

 

2.健康経営の先進地域大田区

東京都大田区は、中小企業の多く立地する地域です。そして中小企業が自治体と一体になって健康経営に取り組む先進地域でもあります。具体的にその内容を見てみましょう。

大田区では、おおた健康プラン(第三次)(2019年度~2025年度)に取り組んでいます。これは、大田区のまちづくりの方向性を示す「大田区基本構想」の実現を目指した個別計画で、「健康寿命の延伸に向け、あらゆる世代の健康づくりと健康増進のための行動計画」として位置づけられています。さらに、健康増進法(平成14年法律第103号)に規定する「市町村健康増進計画」としても位置づけられています。

計画の理念を「区民一人ひとりが生涯を通して、健康で生きがいを持ち、安心して暮らせるまちをつくります」と定め、次の3つの基本目標を掲げています。

 基本目標1「生涯を通じた健康づくりを推進します」

 基本目標2「健康に関する安全と安心を確保します」

 基本目標3「医療や特別な支援を必要とする人が安心して暮らせるまちをつくります」

 

この計画の特徴のひとつに「地域や企業と連携した取組の推進」があり、中小企業の多い地域特性にもフォーカスしていることが分かります。具体的には、「働き盛り世代の区民の健康増進を図るため、健康経営に取り組む区内企業を認定するなど、企業による従業員の健康づくりの取組を支援します」と明示しています。

実際に、大田区独自の健康経営事業所の認定・表彰事業があり、従業員の健康づくりを戦略的に行う区内事業所を『おおた健康経営事業所』として認定しています。

 

3.『おおた健康経営事業所』の内容

この認定を受けられる対象事業所は、次の5つの条件を満たした事業所です。事業所単位で応募でき、本社が区外にある場合でも事業所が区内にある場合は、区内事業所で応募ができます。申請料や登録料は無料です。

 1 区内に本社(本店)、支社(支店)、営業所等を有する事業所(NPO法人、公益法人等を含む)

 2 過去に重大悪質な事案で法令等に違反し処分等を受けていない。

 3 税(法人事業税・法人都民税等)を滞納していない。

 4 暴力団等の反社会的勢力に所属せず、これらのものと関係を有していない。

 5 代表者の他に従業員が1名以上いる。

令和4年度も実施が公表されています。令和3年度の実績では、申込期間が6月17日~9月30日までで、12月までの審査を経て、翌年4月からの認定となります。認定期間は2年間です。

認定はブロンズ、シルバー、ゴールドの3区分があり、それぞれの認定基準に照らして審査がなされます。最初の区分であるブロンズの認定基準は、「法令遵守等を前提に、健康経営の概念を理解し、経営者自らが健康経営宣言や発信を行っているもの」とされており、比較的取組みやすい内容と思われます。
引用:大田区ホームページ おおた健康経営事業所認定について 認定基準

https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/hoken/jigyousha/kenko_jigyousyo/ota-kenko-keiei.files/ninteikijun.pdf

 

認定された事業者には、以下のメリットがあります。PRの機会の少ない中小企業にとって、公的機関の認証はとてもよい対外的アピールに繋がりますね。特に採用面などでは、求職者や新卒者の親の視点で見られることが多く、認定は企業イメージの向上に効果があります。

・おおた健康経営認定事業所ロゴマークをホームページ、広報、名刺等で使用できます。

・区ホームページ等で認定事業所を紹介します。

・区より健康づくりに関する情報を提供します。

・健康機器(体組成計等)の貸出を利用できます。

・保健師等専門職による出前型の健康講座を利用できます。

・大田区での入札のうち総合評価落札方式(工事契約)において配点につながります。

大田区の紹介ページ

https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/hoken/jigyousha/kenko_jigyousyo/ota-kenko-keiei.html

この応募までの手順としては、「健康経営宣言」を通じて健康経営を行うことを表明し、健康経営を推進する組織をつくり、従業員の健康状態の把握と健康課題を認識し、目標・計画を策定し、実行、振り返りのPDCAを回すこととなります。

「おおた健康経営事業所 認定基準チェックシート」が大田区のホームページに掲載されていますので、認定基準を確認し、現在の自社の状況を把握し、不足の項目について重点的に取組みましょう。

 

4.認定の取組例

ここでは、大田区にある従業員15人の全国健康保険協会(協会けんぽ)東京支部に加入する事業所を例にして、シルバー認定までの流れやポイントを解説します。

まず、先述のブロンズ認定基準の項目を確認しましょう。

ブロンズ認定項目Ⅰの「労働関連法の遵守等」について、労働契約の締結、就業規則の労働基準監督署届出、労働保険の加入、社会保険の加入などの対応を確認しましょう。 

同Ⅱの「健康経営に関する宣言」について、協会けんぽ東京支部が行う健康企業宣言を行うのがよいでしょう。

同Ⅲの「経営者の意思の具現化」について、社内に運動・休憩場所や健康測定機器を設置する等、従業員の健康増進に向けた職場環境を整備するのが取り組みやすいでしょう。これらは設置日などがわかる写真を撮り、添付する確認資料として記録保管しましょう。

 

続いてシルバー区分の認定項目では、事例の事業所は「10人以上50人未満の事業所」に該当するため、4つの必須項目があります。必須項目1つ目は、項目Ⅳの1「健康維持・増進の担当者設置」です。担当者の位置づけがわかる組織体制図を準備しましょう。必須項目2つ目は、同9「新型コロナウィルス感染症対策」です。設置しているアルコール消毒液、体温計などの写真を撮影し、確認資料としましょう。必須項目3つ目は、項目Ⅴの1「定期健診受診率の把握」です。定期健康診断結果報告書(従業員50人以上の企業が労働基準監督署へ提出を義務付けられているもの)が取り組みやすいです。自社で健診実施義務のある社員の結果の必要項目についてもれなく記録をしましょう。必須項目4つ目は、同6「健康課題の把握と取組」です。取組内容の振り返りの結果から今後の目標・取組を策定し、組織として合意形成していることがわかる会議や委員会の資料が求められます。健康課題の例として、健康診断の結果から把握できる有所見者の割合やその異常の項目、肥満者(BMI25以上)の割合、朝食の欠食率、喫煙率などが挙げられます。こうした課題に対し、目標値を設定し、健康維持・増進担当者を中心に社内会議などを通じて取組んだ議事録などを資料にしましょう。

 

必須項目の次は、選択項目です。項目Ⅳ「健康経営推進体制」の残り7項目のうち2項目以上の該当が必要です。同2「組織の位置付け」は、必須項目同1「健康維持・増進の担当者設置」で作成した組織体制図で対応可能です。また、次の2項目が取組みやすいでしょう。同5「協会けんぽ等との連携」は、事業所の健診結果を協会けんぽへ提供したことが分かるよう、同意書の提出をすれば完了です。同7「従業員への情報提供」は、事業所の健康課題に合わせて、協会けんぽや東京都福祉保健局の「とうきょう健康ステーション*」に分かりやすくまとまった資料が掲載されていますので、これらを活用し社員への健康情報を提供できます。これらの提供内容や日時や方法について記録し、証明資料として添付します。

*とうきょう健康ステーションhttps://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kensui/

項目Ⅴ「健康課題の把握と取組」では、4項目のうち1項目以上の該当が必要です。先述しました項目Ⅴの1「定期健診受診率の把握」を実施していれば、同2「40歳以上従業員の特定健診受診率」と、同3「要指導及び要医療になった従業員の把握」の2項目を把握でき、この項目はクリアです。

いよいよ、これら取組みの上、応募用紙、認定基準チェックシート、取組内容を確認できる資料、誓約書(いずれも大田区ホームページ*よりダウンロード可)を揃え、提出期日(令和3年度は9月末)までに窓口の大田区役所健康医療政策課に提出します。

 

5.おわりに

2022年3月現在、『おおた健康経営事業所』の認定を受けている事業所は、ゴールド1、シルバー9、ブロンズ9の合計19事業所となっています。貴社も健康経営の取組を進め、このメンバーに名を連ねてはいかがでしょうか。

*大田区ホームページ おおた健康経営事業所認定について

https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/hoken/jigyousha/kenko_jigyousyo/ota-kenko-keiei.html

 

 おおた健康経営事業所の認定ロゴマーク

引用 大田区ホームページ ページ番号:568460744

 

 

 

 

 

 

 

過去には、大田区では認定を希望する事業者向けに説明会を開催していました。広報やホームページの情報をこまめに確認しましょう。すでに出ている情報を確認してできることを進めておくことも認定に向けた近道です。組織づくりやその後の運営など、健康経営のスムーズな運用には専門家である健康経営エキスパートアドバイザーの活用などもよいでしょう。

「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

この記事の著者

屋代勝幸

屋代勝幸株式会社 会社の健康研究所 代表取締役 中小企業診断士

食品製造業に17年勤務し、営業・営業企画・販売促進・宣伝広報・商品企画・調達など多様な業務を経験、その後、外資系消費財販売卸業で人事総務に従事する。 現在は経営コンサルタントとして、健康経営推進支援、組織力向上、業務改善コンサルティングの傍ら、葛飾区経営相談員、同インキュベーションマネージャー、次世代リーダー職研修等講師、事業再構築補助金・ものづくり補助金をはじめとした事業計画書作成支援、執筆などの活動を行う。 <執筆>「月刊総務」特集記事、「企業診断ニュース」特集記事、中小企業活力向上ネクスト専門家コラム、ミラサポ特集記事、Jnet-21など多数 <資格>中小企業診断士、経営革新等認定支援機関、健康経営エキスパートアドバイザー、経営ゲーム「ビズストーム®」認定インストラクター、第一種衛生管理者ほか

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