衝突を繰り返し、たどり着いた一品(有限会社関鉄工所)

衝突を繰り返し、たどり着いた一品

 

関鉄工所が介護サービス業者と共同開発をした車いすは、介助者の負担を大幅に軽減する匠の一品である。

関鉄工所が設計、開発、組立を担当した製品であるが、通常の車いすと異なる点は大きく以下の3点。

  • 前輪となるキャスタの向きが固定されている
  • 大車輪が重心に位置している
  • 後輪となるキャスタが存在している(6輪で動く)

 

道路の両端に排水溝がある場合、排水溝に水が流れるように、道路の両サイドが若干低くなっている場合が多い。そのため、まっすぐ車いすを押しているつもりでも、自然と傾斜に応じて曲がってしまい、それに反する様に常に力を入れておかなければならない前輪となるキャスタの向きを固定することで、傾斜によって曲がってしまうことを防ぐ。

また、大車輪が重心に位置していることでシーソーの様にバランスが取れた状態になり、大車輪)を中心として、前輪を小さな力で持ち上げることができる。そのため、段差を上るときや、曲がるときに、強い力を必要としない。また、その際、後輪となるキャスタが支えとなるため、介助者がバランスを崩す心配もないという。

 

こうして介助者の負担を軽減する車いすを開発することに成功したのだが、開発までの道のりは困難の連続だったという。

ものを製造する機械や運ぶ機械を多く扱ってきた関鉄工所に、人を乗せるためのものを作る、という概念がほとんどなかった。

そのため、角ばった個所があるだけで介助者の怪我のリスクが上がる、背もたれが曲がるようにすることで快適に長時間座ることができるなど、考えたこともない気づきがたくさんあった。より安全で快適な車いすを求める介護サービスの視点と、現実的に設計が可能かを考える設計者の視点との間で意見のすれ違いがあり、衝突することも多々あったという。

そこで、まずは何を最優先にするのか、どういう方向性で車いすを作成していくのかを確認し合うために、車いすの試作品(写真)を作成した。試作品を作成することで、お互いのイメージのすり合わせを行うことができ、同じ方向を向いて追い求める車いすの開発に進むことができたという。

 

両社の想いが形になった車いすは「令和2年 第31回大田区中小企業新製品・新技術コンクール最優秀賞」を受賞するほどの高い評価を得た。

販売開始まではもう少し時間がかかるというが、「この車いすが世の中に出て、少しでも多くの人々の生活を幸せにすることが楽しみだ」と関社長は語る。

この車いすをきっかけに、関鉄工所の技術が人々の生活を豊かにしていく未来を描いている。

試作品の車いす。この試作品を基に改良版の車いすが完成した。

この記事の著者

堂田恵耶

堂田恵耶

1992年生まれ。埼玉県久喜市出身。都内在住。千葉大学文学部行動科学科を卒業後、生命保険会社に勤務。海外人事総務、海外子会社管理業務に従事し、2020年から法人営業を担当。福利厚生や健康経営等、企業の経営課題に対するソリューションを提供している。2020年度中小企業診断士試験登録。

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