ゼロからイチを生み出す「ものづくりのコーディネーター」(有限会社 安久工機 田中宙常務インタビュー第2回)

「フレンドリーマインド」がつなぐ新しいネットワーク
町工場の経営とは切り離せない「原価管理」。多くの町工場と同様、安久工機もその分野を苦手としていたが、これまで会計ソフト業界に勤めていた田中宙(ひろし)氏は、社内の管理体制の改善に力を注いだ。
さらに、Twitterで12万“いいね”(2021年7月時点)と多くの人の心を掴むツイートを発信した“中の人”でもある田中氏は、情報発信やSNS活用には、受注獲得とは別の目的があるという。

有限会社安久工機 常務取締役 田中宙(ひろし)氏


取組めば、良いことづくめの「原価管理」

第一回記事では、開発現場における知識の共有に向けた取組みを伺いました。入社以降、経営の面で取組んだことはありますか。

田中氏:安久工機に入社してから、企画立案や設計などの対価をお客様からしっかりといただくことの難しさを感じました。日本では無形のアイデアや設計コンサルティングに費用を掛けることに抵抗があることも理由の一つに挙げられますが、弊社としても原価の見積り方法を明確に定めていなかったことも大きな要因と感じました。

そのため、前職の会計ソフトメーカーでの知見を活用して原価計算方法の統一に取組み、原価管理の改善を図りました。その中で、お客様と折衝する社員全員に原価管理を理解してもらう必要があるため、管理会計の基本知識や原価管理入力フォーマットの使い方などをレクチャーし、入力忘れや粗利率の悪い案件ついては定期的に会議の場で改善を促しました。

どのような効果がありましたか。                       

田中氏:現在は案件別だけでなく担当者別で粗利率を把握しており、経営の視点も社内に浸透してきたのではないかと思います。考え方が統一されたことで粗利が安定し、適正な見積りを出せるようになった結果、売上自体も増加しました。また、全ての案件を共有フォルダ上で管理するようにしたことで、以前は担当者が一人で抱えていた資料を全員が見えるようになり、経理や顧客管理の観点からも業務改善を図ることができました。
業務の進め方を変えている最中は、まだまだ足りないと思いながら一心に取組んでいましたが、今振り返ると結構がんばった部分かなと思います。

なぜ安久工機に試作開発の依頼が来るのか

案件の受注について教えてください。特に新規のお客様からはどのように案件を受注されていますか。また、受注獲得に向けた情報発信は何か取組んでいますか。

田中氏:新規のお客様はほぼ100%「HPを見て連絡しました」とメールや電話をしてこられます。お客様向けに特別な情報発信はしておらず、HPもあまり更新していないので、正直なところ、お客様がどのように安久工機にたどり着いているかというのは、私自身も不思議に思っていたことなんです(笑)。
実際にお客様に聞いてみると、多くのお客様はもともと弊社のことを知らずに「試作 東京」などのキーワードで検索して安久工機のHPにたどり着いたという話なんですね。
いくつもの会社への相談を経て、ようやく安久工機にたどり着いたというお客様も多いのですが、弊社のHPでは「学生さんへ」というページがあるため、「安久工機なら話を聞いてもらえるかも」と思って頂いているのかもしれません。

HP以外の情報発信としては、Twitter などのSNSを活用されていますね。小学生BEN君の工場見学に関するツイートは12万を超えるいいねを集めるほどバズっていました。SNS活用の目的はどのようなところにありますか。

田中氏:HP以外のツールでの情報発信は積極的に取組んでます。ただ、BEN君の話はあれほどバズるとは思っていなかったので驚きました。
SNSは安久工機のフレンドリーなマインドを発信するのに適したツールだと考えています。その目的は大きく2つあり、1つ目は、日本全国の町工場さんとつながることです。Twitter上では、リアルではつながりにくい会社さんであっても気軽にフォローすることができ、投稿へのコメントを通じて相互フォローになり、実際に工場見学をさせて頂くケースもあるんです。日々の投稿内容でその会社(Twitterの中の人)の性格が出ますので、弊社と同様にフレンドリーなマインドを持った町工場さんとつながることを目的としています。
2つ目は、採用です。こちらは現時点では実績は出ていませんが、Twitter上では安久工機のマインドや考え方をたくさん発信しているので、共感してくれる方が応募してくれると非常にうれしいですね。
また、SNSのほかにも「おおたオープンファクトリー」や取材記事などを通じて、弊社のフレンドリーなマインドやアイデアをカタチにするためのヒントなどの発信を積極的に行っていますので、Twitterや記事を見て工場見学やインターンをしたいと感じた方、ぜひご連絡をお待ちしています。

バズったツイート「小学生BENくんの工場見学」

安久工機HP「学生さんへ」のページでは設計や加工依頼の注意点がまとめられている

御社のフレンドリーなマインドは、お客様にも伝わっているところではないでしょうか。
田中氏:そうですね。Twitterや「おおたオープンファクトリー」を通じて弊社のことを知ってくださった方は「安久工機ってオープンな会社だよね」と言ってくださいます。安久工機は、ベンチャー企業や新しいものを作る会社にフレンドリーな会社でありたいと思っており、「ベンチャーフレンドリー」というキーワードで取組んでいるんですが、実は、ベンチャー企業と町工場はものづくりの依頼時にミスマッチが発生するケースが多いんです。実際、弊社への案件の問い合わせも、依頼段階まで構想が固まっていない状態の相談も多くあり、そのミスマッチを解消できるように取組んでいるところです。

おおたオープンファクトリー 2020年はオンラインで開催された


【企業情報】
業種   専用機・試験装置・試作開発に関する設計及び製作

設立年月          1969年8月

資本金              10百万円

従業員数          5人

代表者              田中 隆

本社所在地      東京都大田区下丸子2-25-4

電話番号          03-3758-3727

公式HP           http://www.yasuhisa.co.jp/index.html

Twitter     @YASUHISA_KOKI

この記事の著者

玉木涼太郎

玉木涼太郎中小企業診断士 事業承継アドバイザー

1990年生まれ。埼玉県出身。横浜市立大学卒業後、金融機関にて融資業務・審査業務を通じて中小企業の資金繰り支援に従事。現在は海外関係業務を担当し、各国の中小企業向け金融支援策の調査や国際会議主催準備に携わる。週末は小学生向けにサッカーのコーチを行う。

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