極細技術で未来を拓く(株式会社アルファーテック 代表取締役社長 大野和実様 インタビュー②)

細さを活かした多角化で会社を強くする
株式会社アルファーテックは「マイクロサイズのセンタレス加工」をキーワードに、小径精密部品の外径研削加工を行う会社である。差別化を進めて競合他社が少ない市場に参入したことで、成長につなげた事例企業として、2023年度版中小企業白書にも紹介されている。本特集では同社が有する差別化の源泉や多角化に成功した背景について、代表取締役社長の大野和実氏に話を伺っていく。第二回では、同社の素材に対するこだわりや営業活動、多角化に成功した背景について取り上げる。

株式会社アルファーテック 代表取締役社長 大野和実氏

 

品質の基本は素材選びから

御社の掲げる品質管理目標はQCDの観点に加えて素材を取り上げており、素材に対するこだわりを強く感じました。

大野氏:製品の性能を決定づける最初のステップは素材選びだと考えています。使用する素材によって、目指す性能を引き出せるかが大きく変わるからです。具体的には、お客様から図面を受け取った際、その図面をそのまま実現することが必ずしもお客様のメリットになるわけではありません。お客様が気づいていなかったような設計変更や材質変更によって、品質向上、コストの大幅削減、納期の短縮を実現できる場合があるのです。単に言われた通りに見積もりをするのではなく、より良い提案をすることを心がけています。そうした方がお客様にとってメリットがあり、お客様の利益に貢献できますから。このようなアプローチを当社では「柔軟な発想と対応」と呼んでいます。

同社の経営理念

 

展示会出展による営業活動

新規顧客獲得に向けて、どのような営業活動に取り組んでいますか。

大野氏:全国を飛び回っている専門の営業員はおりませんが、息子が営業を担当しています。新規顧客獲得の主な活動としては、ホームページでの製品紹介や展示会への出展です。大多数のお客様とは、継続的な取引を前提としたお付き合いをさせていただいていますね。

 

どのような展示会に出展されているのでしょうか。また、出展の成果はいかがでしょうか。

大野氏:「Medtec Japan」という医療機器の製造・設計に関する展示会・セミナーに、2011年から毎年出展しています。また、「INTERMOLD」という金型の展示会や、横浜市からの招待を受けた展示会にも過去には参加しました。成果が得られなかった年もありますが、ありがたいことに、過去には2年前の展示会で当社のブースを訪れた方から、問い合わせをいただいたこともありました。

 

名刺交換後のフォロー営業は行っていますか。

大野氏:あまり積極的には行っていません。名刺交換したお客様へのアプローチが新しい取引に結び付く確率は、感覚的にあまり高くないと感じています。当社の製品はかなり特異性が高いので、小径ピンという特定のニーズを持つお客様でなければ、お役に立てる場面も限られてくると考えています。ただし、新しい案件の問い合わせがあった際には、国内であればどこでも足を運ぶつもりです。

 

危機への備えで多角化を実現

大野社長の代表就任直後に加えて、過去にはさまざまな危機があったそうですね。
大野氏:まずはドットプリンターの衰退です。当社が創業時から主力としていたドットピンの需要が低迷し、経営状況が一変しました。そこで、当社の特徴である「細さ」を活かし、半導体分野でのコンタクトプローブ(半導体検査端子)や金型分野の穴あけパンチといった新しい分野を開拓していきました。ところが、新分野に進出して何とか持ち直したところにITバブル崩壊が訪れました。今度こそだめかと思いましたが、自動車分野で使われるディーゼルエンジンの燃料噴射ノズルの穴あけ電極に活路を見出し、売上が回復していきました。このような中で学んだことは、会社を強くすることの大切さでした。会社を強くするということは、バランスシート(貸借対照表)を強くするということです。製品ごとの損益だけでなく、年間を通した損益を考慮し、自己資本を増やしていきました。会社が強くなれば、どんな外部環境の変化が起きても、生き残るために様々な選択肢を得られると考えています。強い会社にするという意識を強く自分自身にも社員にも共有して取り組んできた結果、後のリーマンショックやコロナショックを迎えた際に、精神的に余裕をもって立ち向かうことができましたね。

ディーゼルエンジンの燃料噴射ノズルの穴あけ電極

 

次に懸念している危機はありますか。

大野氏:EV化による自動車分野の売上減少を懸念しています。バイオ燃料の導入により、ディーゼル車が市場で生き残る可能性も考えられます。しかし、当社主力製品の一つであるディーゼル車向けの穴あけ電極の需要も、将来的には大幅に減少する、あるいはゼロになる可能性を覚悟しています。自動車分野はリーマンショックやコロナショックの期間を除いて比較的好調であったからこそ、より多様な分野への展開を模索していますし、2013年には医療分野への進出を果たしました。

 

御社の強みである「細さ」を応用して多角化を実現しているのですね。

大野氏:新しい柱を一本立てたら終わりではなく、柱は多い方が良いのでね。創業当初から取り組んでおりますが、当社の技術がどのような業界や産業に通用するかは常に探しています。

 


業種   金属製品製造業

設立年月          1989年4月10日

資本金              10,000,000円

従業員数          43人

代表者              大野 和実

本社所在地      神奈川県横浜市緑区白山1丁目11番40号

電話番号          045-935-0650

公式HP           https://www.alphatech-yokohama.co.jp/

この記事の著者

則武卓磨

則武卓磨中小企業診断士

2023年中小企業診断士登録。大学院修了後、システムエンジニアとしてIT企業に入社。プロジェクトリーダとして、システムの要件定義から導入までを一貫して行い、高品質なシステム開発を常に心掛けている。お客さまの抱える悩みにじっくりと向き合い、最善の解決策をともに模索する良き相談相手を目指している。IT導入支援、若手起業家の創業支援、執筆活動を行う。

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