顧客志向を徹底し、切削加工の常識を覆す製品を手掛けることで「製造業の可能性」を切り開く 株式会社志村精機製作所 志村哲央 社長インタビュー③

自社の技術を活用できる市場を求めて

2019年に社長に就任した志村哲央氏は、新市場開拓を実現するため海外進出を目指している。その背景には「切削加工技術力を活用した顧客志向のものづくり」を大切にしたいという想いがある。その想いや具体的な取り組み、そして今後の志村精機製作所について、社長に語っていただいた。

微細加工について熱く語る代表 志村哲央 氏


海外市場に何を見ているのか?

今後はどのような経営戦略を考えているのですか。

志村氏:これまで通り当社では、マシニングを使った切削加工による限界を追求していきたいと考えています。実現には、切削加工における技術力の蓄積と、技術力を生かすための新規顧客開拓が必要です。中でも一番重要視しているのは、試作品開発事業の海外展開です。2022年には、アメリカとドイツの展示会に出展することを決め、既に準備を進めています。

 

なぜ海外なのでしょうか。

志村氏:今、国内においてはあらゆる分野で市場が成熟しており、新規参入の障壁は非常に高いと言えます。当社は、医療機器部品や半導体関連機器に関しては早い段階から参入していたことで、安定した受注をいただけていますが、同じようなチャンスはそれほどありません。既存の市場では最終製品メーカーにも取引している部品メーカーがいます。その市場で、競合に勝つためには価格競争になることが多いのは事実です。当社は技術力で勝負したいので、価格競争は絶対に避けたいのです。したがって、国内に留まり続けるのではなく、当社の技術を生かせる新分野を求めて海外に進出する必要があると考えています。

 

海外進出にはどのような課題があるのでしょうか。

志村氏:課題は、商慣習や言語の壁を越えて当社の技術力を伝え、同時に取引先のニーズを迅速かつ正確に捉えることだと考えています。結局、海外でも国内でも、顧客志向であるべきなのは同じはずです。海外の場合は、ハードルがより高くなりますが、参入している競合が少ないのですから、チャンスはあると信じています。

 

その課題をどのように乗り越えていくのでしょうか。

志村氏:商慣習や言語の壁は、アメリカで10年間、自動車販売の営業に携わっていた専務が貢献してくれるはずです。彼に大きく権限を委譲し、意思決定を委ねることで、ビジネスチャンスを掴むことができると考えています。当社の技術力を伝えるためには、海外の展示会へ出展し、当社の製品を手にとってもらう。その上で、技術的な質問対応やQCDなど生産に関わることは、私が現場で判断してビジネスに繋げていきます。すでに、ロサンゼルスのラグーナヒルズに住所を取得し、具体的な商談にも対応できる体制を整えました。これを足掛かりに、アメリカでの展示会への出店回数を増やしていく予定です。私と専務が先頭に立ち、二人三脚で取り組むことで、会社全体で海外市場に向けたチャレンジ精神醸成を図りたいと考えています。しかし、最終的には営業部隊だけで、技術的な質問や生産面に関する説明までをやりきる組織にしていかなければなりません。あまり私が前に出ると、営業部隊の成長を阻害することになりますので、どこかでバトンタッチをする必要があります。今後は、技術者のノウハウを営業部隊へと共有する仕組みの構築や、技術者の営業への転身などを計画していくつもりです。

ここからアメリカへの進出が始まる

切削加工技術力を基盤とした事業展開

自社ブランド製品のSimto箸について教えてください。
志村氏:これは、大田区のお土産100選に選ばれているもので、名前の通り「箸」です。当社も創業してからかなり経ちましたので、地元の大田区に何か協力できないかなと考えて始めたものです。このSimto箸のコンセプト設計やデザインは、料理研究家やデザイナーと協業して進めました。元々大学の研究室でスギの間伐材を利用して何かを創るという趣旨の企画があって、そこで当社が箸の製造にチャレンジしますということで手を挙げたのです。ホタテの貝殻を砕いてまぶすことで抗菌作用を持たせ、名前入れサービスを付与し、環境にフォーカスして付加価値を高めました。ちょうど、2020年のオリンピック開催に合わせて、東京都で利用してもらえないかと働きかけたりしていたのですが、残念ながら、新型コロナウイルス感染症の影響で白紙になってしまいました。AmazonなどのWebサイト上で販売はしているものの、BtoCでの販売については、ノウハウがほとんどないので、売り方がわからないというのが正直なところです。医療関係の人脈でBtoBの営業もしていますが、この事業ばかりに注力できないこともあって、あまり進んでいない状況ですね。

SIMTO ECO箸シリーズ 間伐材を利用した木粉と帆立の貝殻を粉末状にしてポリプロピレンに練り込み独自の木質系プラスチック(バイオマス)で環境負荷の軽減に貢献

 

10年後のビジョンを教えてください。

志村氏:まず、千葉工場については、医療機器部品と半導体関連部品の量産品に一層注力していきます。しかし、単純に今の事業を続けるということではなく、本社工場で蓄積している加工ノウハウを定期的に注入し、より加工難度の高い部品を量産体制に組み込んで、競争優位性を維持しようと考えています。

本社工場では、微細加工に力を入れていきたいと考えており、その準備を着々と進めています。微細加工は材料費が安くて付加価値が高い。取引価格のほとんどが技術料になるため、技術で売っている当社としては伸ばしていきたい領域なのです。これによって、当社の競争力の源泉である切削加工技術の向上と、その訴求にも大きく役立つと考えています。

そして、Simto箸のような自社ブランド品開発事業の拡大も視野に入れています。こちらは、市場規模に応じた製品設計が必要になりますし、ギフトショーやデザインショーなどの展示会に出展していくところから始めないといけません。BtoCなのでSNSやリスティング広告、ECサイトの活用という当社のノウハウがない部分での努力も必要になります。

一見やることが多いと感じますが、根底にあるのは、当社の強みである切削加工技術の継続的な強化をすること。そして、技術力を生かせる市場を探すこと。10年後には、量産品・試作品開発・自社ブランドという3つの事業をバランスよく育てている状況が望ましいです。そのための第一歩として、試作品開発事業の海外展開を成功させたいと考えています。早く海外に行って展示会に参加したいですね。今から楽しみです。


業種   各種金属製品製造業

設立年月          1967年2月

資本金              10,000千円

従業員数          53名(役員除く)

代表者              志村哲央

本社所在地      東京都大田区東馬込1-49-6

電話番号          03-3771-6794

公式HP           https://shimuraseiki.co.jp/

この記事の著者

松永俊樹

松永俊樹中小企業診断士

システム開発会社にて、システムアーキテクトとして経験を積む。 現在は、中小企業と接する機会を求めて、事業再構築補助金やものづくり補助金を中心とした事業計画書作成支援に注力している。

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