顧客志向を徹底し、切削加工の常識を覆す製品を手掛けることで「製造業の可能性」を切り開く 株式会社志村精機製作所 志村哲央 社長インタビュー②

事業承継を境に、ゆっくりだが着実に醸成されている組織文化

1967年の創業から50年以上経過した今、志村精機製作所は4代目社長を中心として令和の日本を駆け抜けようとしている。現在の志村精機製作所では事業承継を境に組織文化が醸成されつつある。2019年に先代から事業のバトンを受け継いだ現社長の志村哲央氏に、組織風土についてお話を伺った。

若かりし頃を語る代表 志村哲央 氏

顧客志向やチャレンジ精神の醸成、社員育成制度の再構築

事業承継をきっかけに変わった点を教えてください。

志村氏:事業承継をきっかけにというよりは、私を中心に少しずつ変えていった延長線上に事業承継があったという表現の方が近いですね。一番変わったのは、「顧客志向」という考え方の定着です。8年ほど前でしょうか、アメリカの自動車販売店で10年間営業の仕事をしていた営業担当(現在の専務)が入社することになりました。彼は10年間で培った人脈を生かして、次々と引き合いを持って来てくれたのですが、製造業というものをよく理解していなかったこともあり、一般的に切削加工では対応しないような材質・形状である部品の加工案件が多かったのです。当時、経営層はそれらの案件に消極的でした。成功するかどうかもわからないリスクの高い案件ですから当たり前ですよね。しかし、工場長として、「これは成長する機会なのかもしれない。試作品開発部隊でやってみたい。」と強く思い、経営層を説得しました。その結果、チャレンジを許されたのです。今思えばこのチャレンジが、現在の半導体・医療関連部品分野での成功に繋がったのでしょう。この時期を境に、自社の技術を活用できる製品を探すのではなく、まずはニーズありきで、どうすれば要望に応えられるのかという「顧客志向」の考え方に変わっていきました。試作品開発で技術力の蓄積と取引先への訴求をする。そして量産品の受注に繋げていくという当社のビジネスモデルもこの頃からスタートしました。

 

チャレンジ精神の醸成は難しかったのではないでしょうか。

志村氏:当時は、私が本社工場を管轄していたので、新しい試みはすべて本社工場で引き受けていました。最初はみんな躊躇しますし、新しい挑戦への反対意見も少なくありませんでしたから、まずは自分がやってみようと。本社工場で試作することで、技術的な実現可能性を示してから従業員にお願いすると、みんな期待に応えてくれるのです。

私は「仕事を増やすためには、人が無理だと思うことにチャレンジする必要がある」と考えています。そのため、頂ける案件は諦めずに全部やってみたいという気持ちが大きいのです。その背景には、私自身の駆け出しの頃の経験があります。当時は、顧客要望の品質確保などの面で上手くいかないことが多く、取引先にも厳しいことをたくさん言われました。しかし、そういう壁にぶつかった状況になると、「やってやるぞ」というスイッチが入るんですよ。そこから、何度も何度も挑戦して、最終的にはお客様に認められ受注を得ることができた経験が何度もあります。こういうお客様とは付き合いも長くなります、戦友とでも言うのでしょうかね。このような経緯で、当社では、材料が金属でも樹脂でも、材質が硬くても柔らかくても、「切削加工」で実現できることは何でもやってきたことから、チャレンジ精神という文化の基盤は、何十年も前からあったのだと思います。

 

人事面でも何か変わったのでしょうか。

志村氏:これまで当社では、中途採用の方に多く活躍いただいていました。というのも、当社には新入社員を育成する仕組みがなかったのです。そのため、当社で新卒として入社して、長い間加工だけを担当している従業員は、視野が狭くなる傾向がありました。これだと、技術を高める向上心なども芽生えづらくなってしまいます。その影響が強く顕在化したのが、ちょうど事業承継の時期でしたので、このような点も、事業承継を期に変えていくことになりました。具体的に言いますと、技術指導とビジネスマンの育成プログラム導入ですね。このプログラムは「ビジネスマンとはなんぞや」「製造業とはなんぞや」という基本的なことから学習を始める、当社の副社長が作ったオリジナルコンテンツなのです。経営理念や環境問題との関わりなどもこの場で浸透させています。同コンテンツは、中堅社員も受けているのですが「とても勉強になる」「副社長が懇切丁寧に教えてくれるのが嬉しい」とモチベーション高く学んでくれています。これまで新入社員は、入社時に3ヶ月間の外部研修を受けていたのですが、明らかに反応が違います。

当社の技術者。同僚と共に技術の向上を目指して切磋琢磨している。

 

切削加工技術については妥協しない。自分の意見がしっかりと言える組織風土

事業承継前からずっと変わらない点を教えてください。

志村氏:それは従業員との関わり方ですね。当社の従業員は、若い方が多くて、現在の平均年齢は36歳位になっています。生産体制によって人員構成は異なっていて、千葉工場は若手従業員が多く、本社工場は高い技術を要求されるためベテラン従業員が多いです。年齢層は幅広いのですが、仲は割と良い方だと思います。アットホームという感じで、食事会とかバーベキューをよくやっています。今は難しいですが、旅行にも毎年行っていました。従業員達からは「社長そろそろ旅行にも行けるんじゃないですか?」という声も上がっていますし、もう2年も行けていないので、来年には何とかしたいと考えています。このような行事が定期的にあるおかげで、従業員同士はもちろん経営陣と従業員との距離感も近いと思っています。若手従業員からも「上司に対して、自分の考えを言わせてもらえるから、やりがいがある。」「社長に対しても意見をさせてもらえるのは、仕事を任せてもらっている証。責任感を持ってやれる。」という声を聞くので、良い傾向なのではないかなと感じています。

千葉工場の竣工式の折に。生き生きとした笑顔が見られる。


業種   各種金属製品製造業

設立年月          1967年2月

資本金              10,000千円

従業員数          53名(役員除く)

代表者              志村哲央

本社所在地      東京都大田区東馬込1-49-6

電話番号          03-3771-6794

公式HP           https://shimuraseiki.co.jp/

この記事の著者

松永俊樹

松永俊樹中小企業診断士

システム開発会社にて、システムアーキテクトとして経験を積む。 現在は、中小企業と接する機会を求めて、事業再構築補助金やものづくり補助金を中心とした事業計画書作成支援に注力している。

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