すべては生産性向上のため ~若き取締役の改革( 株式会社マテリアル 細貝 龍之介 取締役インタビュー①)

材料屋から精密加工のプロフェッショナルへ

株式会社マテリアルは、金属の精密加工と材料販売を手掛け、試作から量産まで顧客企業のニーズに柔軟に応えることで成長してきた。今年創業30周年を迎える同社は「下町ボブスレー」のプロジェクト初期にリーダーを務めた、細貝淳一氏が創業した企業だ。その淳一氏の長男で現在取締役を務める細貝龍之介氏に、3回にわたってお話をうかがっていく。第1回は、これまでの企業の成り立ち、営業活動の現状についてお話をうかがった。

株式会社マテリアル 取締役 細貝龍之介氏

 

技術向上と顧客開拓で乗り越えた経営危機

今年で創業30周年ですね。これまでの企業の歩みについて教えてください。

細貝氏:当社は1992年に、父が当時勤務していた金属材料の会社から独立して創業しました。父が勤務していた会社は金属プレートを販売していたのですが、父はある時、この金属プレートをカットしたり、穴を開けたりすることにより付加価値を大きく上げられることに気づいたのです。そこで、父は社長に金属プレートの加工販売を進言したのですが、受け入れられず、それがきっかけで独立したそうです。独立当初は、親しい町工場に間借りし、切断機1台とマシニングセンタ1台のみで事業を始めたそうです。社員は3人だけで、母が事務、叔父が加工、そして社長である父が営業と配送を担当していました。私は全く覚えていませんが、私が2、3歳の頃、父が材料の配送に行くとき、よくトラックに一緒に乗って行っていたそうです。そのような形で事業を始め、創業から10年くらいまでは、材料を顧客の希望する寸法に切断して販売する材料事業が売上の大半を占めていたそうです。

 

今は売上の比率はだいぶ変わったのでしょうか。

細貝氏:現在の売上の中心は加工事業です。創業当初は材料事業が大半を占めていましたが、徐々に加工事業の比率を高めていきました。今は逆転し、加工事業が大半を占めています。この変化にはいろいろな理由がありますが、一つの理由はインターネットの普及により、一次店が金属材料のダイレクト販売を始めたことです。今では一次店のホームページ上で材料の寸法を入れてクリックすると、翌日には全国発送されるのが当たり前になりました。そのため、我々のように一次店から仕入れて販売するビジネスモデルは、成り立たなくなってきたのです。

2000年代半ばには、材料事業と加工事業の売上比率は5対5程度になっていました。しかし、当時、加工事業は売上を一社に大きく依存していたため、リーマンショックの際には、材料事業の減少に加えて、その客からの受注が激減したことにより、経営的にかなり厳しい状況に陥りました。

 

どのようにして経営危機を乗り越えたのですか。

細貝氏:まず、加工事業を事業の中心とする方針を定め、加工技術のさらなる向上に取り組みました。そして、この方針に同意してくれる社員だけに残ってもらいました。その結果、リーマンショック前は60名弱いた社員は25名まで減少し、20名超いた材料課員は4名になりました。次に、社長を中心に展示会への出展に力を入れ、そこから新規顧客開拓をはかりました。さらに、ISO 9001やJIS Q 9100といった品質マネジメントの認証を取得し、航空宇宙・防衛産業へ進出しました。加工設備や検査機を中心に、設備投資も積極的に行いました。その甲斐あって、加工事業の拡大に成功し、現在は、展示会をきっかけに取引を開始した上場企業を主要顧客として、売上の大半を加工事業で稼ぎ出せるようになりました。そして、一昨年には過去最高、昨年は過去2番目の売上を計上しています。

高い品質マネジメントを要求される航空宇宙・防衛産業に進出するためにJISQ9100規格を取得した

 

コロナ禍で過去最高売上というのはすごいですね。理由はどう分析していますか。

細貝氏:特需があったのが大きかったです。その顧客はスマートフォンのカメラ用検査治具を製造しています。レンズの衝撃試験を行うためのもので、当社はその検査治具用の筒状部品と、レンズを入れるために多数の穴を開けたプレートを製造しています。これをセットで販売しているのですが、近年スマートフォンのカメラ機能が進化してレンズ数が3個に増加したおかげで、販売数量が3倍になりました。

 

営業体制と課題

現在の営業体制について教えてください。

細貝氏:営業体制は、私も一部サポートしていますが、営業部員は3名です。営業部長がおり、その配下に担当者が2名という体制です。営業担当者は、顧客企業の研究開発部門に毎日のように通って、試作品のニーズを探っています。そして、試作品のニーズがあれば、受注後、最短半日で納品できるようにしています。そのため、工場側でも、あえて一定の材料在庫を保有するようにしています。試作品は発注量が少なく、大きな売上は見込めませんが、試作品が量産品に切り替わった際には、大きな受注を見込むことができます。当社は、量産品の生産が可能な設備を保有しているため、試作から量産まで一気通貫で対応することができ、それにより顧客の信頼を勝ち得ています。

 

営業面での課題はありますか。

細貝氏:営業面の課題は3点あります。1点目は情報共有です。現状、営業会議がほとんど実施できておらず、情報共有は、自席にいる時に会話するだけになってしまっています。2点目は、主要顧客以外の顧客への対応です。営業1名と私で担当していますが、少額で数が多いので、効率化が課題です。

3点目は、新規顧客開拓です。これが一番大きな課題です。実は最近、主要顧客の1社が内製化を始めたため、売上が徐々に減少しています。そのため、次の柱となる取引先を開拓していかなければならないと考えています。そこがまさに今、創業30周年の施策として、取り組んでいるところです。


業種   金属の精密加工、材料販売、CAD設計、ITソリューションサービスなど

設立年月          1992年7月

資本金              2001万円

従業員数          30人

代表者              細貝 淳一 氏

本社所在地      東京都大田区南六郷3-22-11

電話番号          03-3733-3915

公式HP           https://www.material-web.net/

この記事の著者

吉田樹生

吉田樹生中小企業診断士

1975年愛知県豊田市出身。東京都在住。神戸大学経営学部国際経営環境学科修了。日系ITベンダーにて海外営業を担当した後,米IT調査会社を経て,現在は米ITベンダーの日本法人に勤務。インド駐在経験をもつ。2021年中小企業診断士登録。ITとファイナンスを武器に中小企業のグローバル戦略を支援することが目標。

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