顧客志向を徹底し、切削加工の常識を覆す製品を手掛けることで「製造業の可能性」を切り開く 株式会社志村精機製作所 志村哲央 社長インタビュー①

ひとつの技術を生かして多くの顧客要望に応える。

新型コロナウイルス感染症の影響により、国内製造業の7割以上もの企業で売上が低下したと言われる中、志村精機製作所では売上の向上が見られている。しかし、そこに至る経緯も決して平坦な道のりではなかった。志村精機製作所が現在の事業体制を構築するにあたり、どのような手法で顧客開拓に取り組んできたのか、2019年に社長に就任された志村哲央氏にお話を伺った。

事業内容をわかりやすく語る代表 志村哲央 氏

様々な顧客要望に対応するための生産体制

御社の主力事業について教えてください。

志村氏:当社では、切削加工を得意としており、その技術力を活用して、医療機器部品や半導体関連部品を多く手掛けています。具体的に言いますと、医療機器部品では、外科手術に使用される器具の部品を量産品として製造、人体内に入るような器材部品を試作品として製造しています。また、半導体関連部品では、ウエハ洗浄装置(※)の樹脂部品を量産品として製造しています。当社の大きな特徴は、金属や樹脂などの材料、試作品や量産品などの品種に関わらず、切削加工で可能なものは何でも手掛けることです。当社を一言で表すと、「切削加工しかできないが、切削加工であれば何でもできる製造業」ということになるでしょうか。

(※ 半導体製造プロセスにおいて全プロセス時間の40%を占める洗浄工程で使用される装置)

 

多くの原材料を取扱い、試作品開発も量産品生産も手掛けるとなると、製造現場は混乱するのではないでしょうか。どのように対応されているのですか。

志村氏:当社は、東京に本社工場(東京都大田区)と第二工場(東京都品川区)、千葉県に千葉工場(千葉県茂原市)という3つの工場を保有しています。これらの各工場に異なる生産体制を構築することで、幅広い顧客要望に対応してきました。本社工場は試作品開発の機能を持ち、個別受注生産で微細加工を中心とした高難度の加工に取り組んでいます。第二工場も同じく個別受注形態ですが、こちらは試作品の射出成型金型を製造しています。そして千葉工場では、繰返受注生産で医療機器部品や半導体関連部品などの量産品の製造を行なっています。切削加工設備は、各工場の機能にマッチしている機械を導入しており、その台数は、本社工場、第二工場、千葉工場の順に、3台、3台、36台となっています。人員構成は、本社工場、第二工場、千葉工場の順に、5名、5名、30名という体制です。営業部門、検査部門、品質管理部門、プログラム開発部門、経理部門などの間接部門はすべて本社に集約しており、13名という人員構成となります。このように、求められる技術や工程などによって、工場のレイアウト、人員構成、設備などが全然違いますので、混乱などはなく、住み分けはうまくできています。

36台のマシニングセンタで医療機器部品と半導体関連部品の量産品を生産している 

 

現在の医療機器部品や半導体関連部品を手掛けることになった契機を教えてください。

志村氏:8年程前に試作品での製造依頼があったことがきっかけですね。当時は、業界が手探りだったこともあり、半導体関連部品などの部品加工を受ける企業は少なかったのですが、当社には、試作開発の部門があったので受注することにしました。当社が製造した試作品は取引先から評価され、量産品も引き続き受注でき、少しずつ拡大して現在に至っています。ただ、今でこそ笑い話にできますが、当時は本当に大変でした。当社で扱っている半導体関連部品の原材料は、テフロン(フッ素樹脂)や(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)という高機能樹脂がほとんどなのですが、これらの樹脂は機能が優れている反面、加工難易度が高く、利益もそれほど見込めなかったのです。当社でも半導体関連部品の製造については、何度もやめようという声が挙がりましたが、経営陣が先頭に立ち、もう少し頑張ってみようと諦めずにコツコツと続けました。その結果、現在では当社の主力事業となるまでに成長したのです。

 

志村精機製作所が新規顧客を獲得するための源泉となる試作品開発事業

御社の売上構成比を教えてください。

志村氏:現在の製品別の売上構成比は、医療機器部品が3割、半導体関連部品が6割、事務機器・光学機器・精密機器の部品が1割となっています。また、顧客層別の売上構成比は、新規顧客が2割、固定顧客が8割で、製品分類別の売上構成比は、試作品が1割、量産品が9割という状況です。つまり、現在当社で最も受注している案件は、リピーターによる半導体関連部品の量産品ということになります。

 

量産品の売上が大部分を占める中で、試作品開発にはどのような目的があるのでしょうか。

志村氏:試作品開発は、売上としては1割に留まっていますが、当社では技術面・営業面で大切な事業だと考えています。当社では、インコネル、コバール、ハステロイといった難削材の加工、1~2000mmでといった幅広いサイズでの加工、加工精度5ミクロン(㎛)が求められる高精度な微細加工、硬度60~70HRCの高硬度材の加工も請け負っています。これらの案件は、加工難度が高くてやりたがらない企業が多いことから、引き受けると感謝されますし、技術力のアピールにもなります。売上の大多数を占める医療機器部品や半導体関連部品の量産品も同様の経緯から始まっているので、営業面でも必要性を感じています。また、難度の高い加工には、が必要となりますが、このは現場でしか鍛えることができません。したがって、試作品開発は当社にとって技術力を維持するためにも必要な事業だと位置付けています。

研磨を実施せずに、切削加工だけで仕上げた鏡面仕上げ

 

営業体制はどのようになっているのでしょうか。

志村氏:営業体制は、責任者の専務を入れて5名(従業員数53名に対して9%)です。取引先ごとに担当を分けており、元技術者はその内2名になります。営業部隊は、当社の技術や取引に必要な情報の説明はできるのですが、加工に関する詳細なことまでは説明できません。しかし、見込顧客の多くがこの詳細部分が気になるのです。当社は多くの切削加工技術を持っていますが、それを営業部隊だけで説明しきれないことが、当社の抱える大きな課題ですね。そのため、顧客に技術的な説明が必要な場合は、私が同行しています。

 

新規顧客の獲得方法を教えてください。

当社では、新規顧客の開拓は、展示会からの受注が9割を占めています。当社の戦略は、市場や製品を1つに絞ることで規模を拡大していくのではなく、「切削加工」という技術で「様々な市場の顧客ニーズに何でも応える」というスタンスの戦略です。この「何でも応える」という言葉を信頼していただくには、技術力の可視化と伝える力が必要だと考えています。展示会では、来訪者と円滑にお話しするために、当社の技術力を訴求できる製品を数多く展示しておきます。あらゆる種類の金属や樹脂製品、様々なサイズや硬度のものを用意することで、当社に興味を持ってくださる方が増えます。平均すると20種類くらいはいつも展示しています。展示会は当社では年に10回は出展しており、私が同行することによって、技術に基づく説明や納期・コストの見積もりが迅速にでき、その場で商談に入っていくことも少なくありません。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会等に向けて開発された革新的で、将来性のある製品・技術、サービスを表彰するプロジェクトにて撮影


業種   各種金属製品製造業

設立年月          1967年2月

資本金              10,000千円

従業員数          53名(役員除く)

代表者              志村哲央

本社所在地      東京都大田区東馬込1-49-6

電話番号          03-3771-6794

公式HP           https://shimuraseiki.co.jp/

この記事の著者

松永俊樹

松永俊樹中小企業診断士

システム開発会社にて、システムアーキテクトとして経験を積む。 現在は、中小企業と接する機会を求めて、事業再構築補助金やものづくり補助金を中心とした事業計画書作成支援に注力している。

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