- 2021-11-16
- 取材・インタビュー
ベンチャー企業との連携で「ものづくりの民主化」を目指す
2021年9月より社長に就任した鈴木亮介氏は、3Dプリンターを用いた新事業で第二創業を目指している。その根底には、「ものづくりの民主化」を進めたいという想いがあるという。「ものづくりの民主化」とは何なのか、具体的にどのように取り組まれているのか、鈴木社長にお伺いした。
ものづくりの民主化とは、ものづくりのハードルを下げること
2021年9月に社長に就任されましたが、今後はどのような経営をされる予定ですか。
鈴木氏:第二創業のような形で、基盤となる技術は確保したまま新製品・新事業の開発に注力したいと考えています。既に社内スペースの一部を3Dプリンター関連のベンチャー企業である株式会社グーテンベルクに間貸しして、新たな事業をスタートさせています。
私たちが目指しているのは「ものづくりの民主化」です。ものづくりというものを、いろんな人にもっと簡単にわかりやすく考えてもらいたいんです。
機械加工とかCADだとか、皆さん勝手に難しく考え過ぎてしまっています。そういったイメージを根底から変えたいと思っています。図面を見ることが出来なくても、実際にものづくりが出来ることを広く知ってもらいたいのです。
ものづくりの民主化を実現するためのキーワードとして、「3DX」という造語を作りました。これは三次元を表現する3Dと、DX(デジタルトランスフォーメーション)を掛けたものです。活版印刷が考案された時は、文字や知識、宗教などが広まっていきましたよね。それを3Dで実現したらどうなるんだろうという発想です。つまり、ものづくりのデジタル化に繋がり、結果的に民主化に繋がると考えています。
ものづくりの民主化、3DXとワクワクするお話ですが、その計画はどのようなところからスタートされるのでしょうか。
鈴木氏:アカデミックな部分への導入から進めていこうと思っています。インターン生を受け入れている六郷工科高校の先生が、私たちの開発中の3Dプリンターを見に来てくれて、是非学校でも導入したいと言っていただいています。
六郷工科高校の授業には、どのようかたちで3Dプリンターが導入されるのでしょうか。
鈴木氏:実は3Dプリンターは既に授業に取り入れられていて、3D-CADデータを作って自分達で考えた部品を造形しています。ただ、従来の3Dプリンターは出力がすごく遅いんです。データを入力して次の日になったら部品が完成、という時間間隔でした。
今我々が作ろうとしているのは、通常の5倍から10倍速く動くプリンターです。データを入れてから30分程度でしっかりした造形物が完成しますので、これまで何コマも使って教えていた授業の内容を一コマで終わらせることができます。しかも、この授業はオンラインとの相性もピッタリです。Webカメラや遠隔操作機能も搭載されているので、自宅からCADを描いてデータを送るだけで、学校にある3Dプリンターが動いて授業が完結します。
もし小学生のうちから3Dプリンターを授業で触っていたら、ものづくりに対する考え方って今と大きく変わると思うんですよね。3Dプリンターをはじめとした様々な機械に親しみを持った子たちが成長して、工作機械メーカーや半導体メーカー、ものづくり関連の研究職などに就く人が増えていくことを願っています。
日本はこれまでものづくりや工業の発展で成長してきた国です。今後はものづくりとデジタルと掛け合わせていくことによって、ものづくりに関わる産業が息を吹き返し、その職業が画期的でかっこいい、憧れられるものになって欲しいと思っています。
町工場は単なるビジネスモデルのひとつ
金属加工に留まらず、多角的に事業を展開されるなどチャレンジされています。大田区の他の町工場が取り入れるべき取組みは何かありますか。
鈴木氏:まずはWebをはじめとした、デジタル・IT面を強化することだと思います。前述の通り、当社は自社HPに注力をしており、定期的にブログを更新しています。ある時期から、旋盤加工の基礎的な情報を解説する投稿を始めました。これを初めてから、旋盤加工の理解度が深まったという声を多くいただいています。
過去に、某大手IT企業からオリジナルの金属加工品を作って欲しいと問い合わせをいただいたことがありました。当社に声をかけた理由を聞いたところ、「ブログが非常にわかりやすかったんです。」と言っていただきました。
ものづくりを発注する側って不安だと思うんです。私はものづくりのわかりやすさを「解像度」と呼んでいるのですが、このブログは解像度を高めるのに役立っているようです。
その他には、職人気質であることから脱却する必要があると考えています。町工場というのは単にひとつのビジネスモデルに過ぎず、仕事の仕方はサービス業や接客業と何も変わりません。余計なプライドは捨てて、もっと柔軟にいろいろ取り入れないとお客様に選ばれにくくなります。当社の若い従業員は、非常に柔軟で何でも取り入れていきます。一見、難削材のようにみえる未知の材料も躊躇なく削ってしまいます。
極東精機は転換点を迎えていますね。今後目指すべきところを教えてください。
鈴木氏:将来的に上場できるくらいの力をつけたいと考えています。ただし、目先の売上だけにとらわれずに、ベンチャー企業と連携して、彼らから新しい技術を取り入れながらブルーオーシャンを攻めていきます。