原材料価格上昇の準備をしていますか(日本生産性本部 鍛冶田良)

原材料価格上昇の準備をしていますか

大きな潮流の変化

 最近、モノの値段の上昇が顕著になっている。日経新聞によると、「主要な産業資材10品目の足元の価格を調べると、鉄を延ばした熱延鋼板で、海外の方が1~2割高い逆転現象が起きている。10年前には見られなかった風景だ。」という(『日経新聞』2021.6.22 朝刊)。

 金属加工業に限らず幅広い分野で材料の値上げが顕著になりつつある。これまで日本はデフレの影響で、安定的な納入は当然で、いかに価格を下げるかが重要であった。しかし、世界中でインフレが続く中、日本だけモノが安いという状態に限界がきており、今後は安定的な納入が当然という前提すら成り立たなくなっていくと予想する。

しかし、日本の多くの中小製造業ではこの潮流の変化への対策を講じられているとは言えない。競合よりも安く仕入れて、安く売るというバブル以降続いた商習慣から抜け出せないのである。将来を見据えた価格設定へ移行するため、顧客に対して原材料価格の上昇による製品価格の値上げ交渉をするよう、私が関わる中小製造業の方に提案しても抵抗されることが多い。

しかし、原材料価格の上昇は新興国の中間層の増加に伴う需要の増加によるものであり、今後もこの傾向は続くと考えられ、対応しておくことが重要である。

 

原料価格上昇への対応法

 これまでは価格は下げるものという固定概念に囚われている企業が多く、どのように値上げを交渉したらよいか分からない担当者も多いようだ。

 単に原材料価格が上がったので製品価格も上げてくれという要求だけでは価格交渉は成立しない。仕入れから生産方法に至るまでの背景情報を十分に整理してから交渉することが重要である。

まずは、調達の環境の見通しを把握する。原材料価格が上がるだけなのか、調達リードタイムが長くなるのかなどを仕入先に確認する。

次に原材料価格の上昇による財務上の影響を算出する。顧客によっては、本体価格の値上げ幅をすべて受け入れてくれるとは限らない。そのため、会社として最低でもどの程度の値上げが必要なのかの目安を持っておくことが必要である。

そして、製品別の原価計算を行い製品ごとに値上げ幅を決める。原価計算の方法は、固定費を配賦した全部原価計算が理想だが、もし難しければ原材料費や外注費など変動費を製品別に集計する直接原価計算でもよい。

最後に、原価計算の結果、受入れ可能性なども考慮して、顧客への製品提案書としてまとめる。特に顧客が大企業の場合は先方の社内で決裁を取る必要があるため、決済に必要となる値上げ幅とその根拠などを明示しておくとスムーズに進められる。

提案は単に製品価格を上げるという案の他にも、複数案用意するとよい。例えば、値上げ幅10%の案に加え、まとめ生産など生産の仕方を変えることによって値上げ幅を7%とする案も加えることなどにより、顧客の選択肢の幅が増えるからだ。

 

誰のために交渉を行うか

 これまでは供給過剰気味であり、顧客は製品価格の引き下げを要求することが常で、中小製造業は価格を下げざるを得ない経営環境であったため、製品価格の値上げを含む納入条件に関する交渉をためらうことは理解できる。

 しかし、調達環境が大きく変わろうとしている今、このようなマインドを引きずり、条件交渉を行わないと、いずれ調達が困難になって最終的には供給できない状況に陥ることも考えられる。その結果、顧客の売上減少の引き金にもなりかねない。実際に仕入先から急に原材料価格の大幅値上げの依頼を受ける企業も出てくるようになってきた。顧客のことを大事に考えるのであれば、昨今の調達状況をきちんと伝え、将来的にも迷惑をかけないようにすることが重要ではないだろうか。

 私が関わる中小製造業では、2018年頃より継続的に顧客に対する取引条件の見直しを行っている。始めは顧客から断られることも多かったが、長期的な事業継続を重視し、真摯に向きあった結果、顧客先も理解を示し、価格改定や納入ロットなどを見直されることが増えている。その結果、自社の利益が増加し、設備投資や従業員への還元や投資に充てることができるようになり、最終的には顧客に還元するという好循環となっている企業も多い。

 原材料価格の上昇は一時的なことではなく、これからも上昇が見込まれる。この大きな潮目の変化に対し、自社の努力だけでは遅かれ早かれ限界が来ることが予想される。これを機に長期的に持続可能な循環に入れるよう、顧客や仕入れ先との取引条件を見直してみてはどうだろうか。

この記事の著者

鍛冶田良

鍛冶田良日本生産性本部 主任経営コンサルタント

青山学院大学 理工学部卒業後、中堅建材メーカーにて現場でのモノづくりを実践後、中小企業診断士を取得し、日本生産性本部経営コンサルタントとして、中小中堅企業の事業の収益力向上支援をしている。

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