新たなる成長を目指して(株式会社富士テクノマシン 代表取締役 飯室肇様 インタビュー③)

アイディアを探して新たな成長へ

株式会社富士テクノマシンは、大型薄物加工をはじめとした金属加工を行うメーカーである。これまで同社は思い切った投資やノウハウの蓄積でさまざまな事業環境の変化に対応してきた。また、近年ではコロナ禍を契機に自社開発製品の販売を行うなど、新たな取り組みを展開している。
本特集では時代の流れに適応してきた同社の歴史と今後の展望などについて、代表取締役の飯室肇氏(以下、飯室社長)に話をうかがっていく。第三回は、同社におけるコロナ禍の影響と人材育成について取り上げる

株式会社富士テクノマシン代表取締役 飯室肇氏(右)と従業員のグエン・ティ・ハイ・アンさん(左)

 

コロナ禍がきっかけとなった自社製品開発
コロナ禍の影響はありましたか?

飯室社長:コロナ禍の影響は本当にひどかったです。お客様のところに行けませんし、お客様の多くが中国へ組み立てに行けないような事情があり、仕事自体がなくなっていました。一方で、コロナ禍を契機に、自社製品を作って楽天市場に開設したECサイトでの販売に取り組みました。
販売したのは、非接触タッチツールです。ハワイ好きの妻のアドバイスで、ハワイで神聖な生き物としてあがめられているウミガメをモチーフにしました。最初は同じ形のドアオープナーを企画したのですが、そんな大きなものを誰が買うのかという話になり、最終的に小さな非接触タッチツールにしました。当時はATMなどでも手で触るのが嫌だ、と言う人が多くいましたから。
この製品が他の会社の製品と共に、読売新聞地方版の小さな記事として掲載されたのですが、その日にはどっと注文が入りました。注文を受けたらできるだけ早く発送をすることにはこだわっていましたので、妻や妹と一緒に、仕分けや宛名作りなどの対応に追われました。

ウミガメをモチーフとした非接触タッチツール


近年は、BtoBの仕事ではお客様の設計の現場も変わってきていて、以前はさほど要件にこだわらなかった会社でも今は厳しすぎるぐらいの要件が出てくることも多いです。しかし、消費者向けの製品であれば、寸法交差などはそこまで厳密ではありません。アイディア次第で売上になる消費者向けの製品に新たな可能性を感じました。現在は、コロナ関連製品はさすがにもう売れないので、楽天市場のECは閉じていますが、とても勉強になりました。それ以降、社会のニーズにアンテナを張っていく必要を感じています。
世の中には、自分一人で考えていたのではとても思いつかないような需要があるのだと思います。ちょっとしたことで、例えば家事の発明品ができれば大きなニーズにつながります。最近、取引銀行の紹介で、小売店の人と金属加工で作ることができる製品について、相談する機会もありました。そうして、消費者ニーズの発掘に取り組んでいきたいと思います。


将来に向けた人材育成

長期的に脅威と思われる点はありますか?

飯室社長:将来的に懸念しているのは、既存社員の年齢が上がってきて、新しい人が入ってきてもおじさんと子供みたいになってしまうことです。年齢が上がってくると若い人の扱いが雑になる傾向があります。新しい人が入っても1年ぐらいで辞めてしまうことが2回ほどありました。
そうした中で、1年ほど前にベトナム人の従業員を2名採用しました。2人とも23歳で、日本のCAD・CAMの専門学校を卒業しています。日本には3年住んでいて、特定技能の在留資格を持っています。漢字などは不安なところもありますが日本語も上手です。
外国人ということに加え2人とも女性で、当社としては初めて女性従業員を雇う経験になりました。そのため更衣室をどうしようかなど、とても悩みました。しかしながら、とりあえずはカーテンがあればよいか、と言うのでそうしてみたところ、それで特に問題ありませんでした。案ずるより産むがやすしです。とてもよく働いてくれますし、片づけもよくしてくれるため、食堂などもきれいになりました。検査も、自分たちは数が揃ってからやればいいか、と後回しにしてしまうようなところでも根気よく全部やってくれますので、とても安心できます。
女性が製造業というと意外ですが、検査もありますし軽作業であれば女性でも問題がない程度のものです。当社は大型製品を得意にしていますが、そればかりではなく、手のひらサイズの製品も多いです。

当社では、人材育成にも力を入れています。ベトナム人の2人を含め、全員がCADを使えるようにしています。エンドミル工具メーカーをよんで工具情報の勉強会をしたり、若手社員は大田区で開催している図面の読み方の講習会に参加をしたり、専門業者にお願いをして5Sなどの教育も行っています。

将来の事業承継などは考えられていますか?

飯室社長:私の家系は59歳で亡くなる方が多く、父も59歳で亡くなったので、今55歳の私は少し心配ではありますが、何とか年金をもらえるまでは、と思っています(笑)。私には2人の息子がいますが、会社の手伝いはあまりさせませんでした。自分は、気がついたら跡を継いでいたようなところがありますので、息子たちには自由に将来を考えてほしいなと思っています。そのため、将来的には従業員なども含めて、承継先は幅広く考えたいと思っています。父からは、自分で会社を経営する方がよいと言われていましたが、私も息子達にはそのようにアドバイスしたいと思っています。息子の一人はもともと銀行に勤めていたのですが、今では銀行をやめて、コーチングを本業として行うかたわら、ジムのトレーナーとして活動するという新しい働き方をしています。自分のトレーニングもしたいということで、朝5時半に家を出て、帰ってくるのは夜の12時ぐらいです。それを土日も続けているのですが、それが楽しいのだそうです。
当社はこれまで時代の流れに順応してきましたから、そうした変遷を見て育った息子たちはいい方向に進んでくれていると思います。

将来は息子の会社のグループに入れてもらうなんてこともあるかもしれませんね(笑)。


会社名 株式会社富士テクノマシン

業種   精密機械部品加工及び組立て

設立年月          1977年5月

資本金              10,000,000円

従業員数          8人

代表者              飯室 肇

本社所在地      東京都大田区南蒲田2-19-6

電話番号          03-5703-3566

公式HP           https://www.fuji-tm.co.jp/index.html

この記事の著者

齊藤慶太

齊藤慶太中小企業診断士

2020年5月中小企業診断士登録 東京大学大学院卒業後、ITコンサルタント、メーカー海外工場駐在・経営企画を経て現在はIT企業で新規事業開発に携わる

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