一本のシャフトに世界を描く ~確かな技術と思い~ (岩城フィルム化工株式会社 インタビュー②)

新たな表現手法を追い求めるのが最高の喜び

カシャカシャ、カシャン。塗装前のシャフトを運ぶ音、シューっと塗料を吹き付ける音。張りつめた雰囲気の工場内から、たえず作業の音が聞こえてきます。そんな岩城フィルム化工株式会社が得意とするのは、スチールやカーボンのシャフトへの特殊塗装です。日々淡々と出荷されるこの美しいシャフトは、実は幾多の困難を乗り越えて開発された独自技術の賜物でした。

第二回目の今回は、当社が独自技術を開発したことについて、代表取締役の岩城大輔氏に話をうかがいました。

岩城フィルム化工株式会社 代表取締役 岩城大輔氏

 

人間は空だって飛べる。だから何でもできるはず。

御社の技術力の証しとして、葛飾ブランドである「葛飾町工場物語」に認定されていますね。

岩城氏:はい、「葛飾町工場物語」とは、この葛飾の町の中で卓越した技術により造られる製品・部品や技術などを葛飾ブランドとして毎年認定するものです。2007年にスタートして2023年で17回目を数え、これまでに約100社の企業が認定されています。認定されるとストーリー集や「葛飾町工場物語」のホームページ、広報誌へ掲載など、対外的な露出の機会をいただけるので高いPR効果があります。当社も新たな技術開発に取り組む姿を漫画にしていただきました。そしてこの制度により、葛飾区全体で町工場を盛り上げていけるのがいいですね。

当社が応募したのは第3回、私が入社して3年目の頃でした。当初は今以上に応募者が多く、競争率が高かったのですが、幸運にも認定されることができました。先代が「やってみろ」と背中を押してくれたのも大きかったです。その頃は仕事に余裕があり、さまざまな塗装技術にチャレンジしていた時期でした。それまでできていなかったことができるようになったり、特許を取得したりしていたので、応募するにはいいタイミングだったと思います。

葛飾ブランド「葛飾町工場物語」認定ポスター

 

御社の代表的な技術はどのようなものでしょうか。

岩城氏:当社は金属への塗装とカーボンへの塗装の二本柱で事業を営んでいます。ある時、お客様からカーボンを金属のように見せたい、逆に金属をカーボンのように見せたいと二つのご要望をいただきました。

まずカーボンを金属調に見せる技術です。これは完成までに3年掛かりました。金属調に見せるもっとも簡単な方法は、クロームメッキを施すことです。しかしこれではカーボンの特長の一つである軽さが失われてしまう。シャフトなどは1gの増加も許されない世界です。そういった制約を考慮しながらアイデアを練り、ただひたすらトライしては失敗するという結果の連続でした。それだけやってもどうしてもカーボンに密着しないので、最後の頼みの綱として産業技術センターにも駆け込みました。その際に返ってきた言葉は、「そこに手を出すのは大変だよ、やめた方がいいのでは」でした。もうがっかりです(笑)

 

それでも諦めなかったのはなぜでしょうか。

 岩城氏:人間は空だって飛べるのだから何とかなる、との思いだけでした。成功の決め手になったのは、固定観念に捉われない発想です。私自身、塗装以外の領域からこの業界に飛び込んでまだ日が浅く、専門家からするとあり得ない方法を試すことに疑問を持たなかったことが大きいです。そこから解決策が見えてきて、粘り強い試行錯誤の結果、詳細はお伝えできませんが完成させることができました。しかし、今からすると訳のわからない方法をよく試したと自分でも思います。こちらの技術はRMP(Real Metal Plating)と名付け、当社で特許を保持しています。

 

大変な苦労の末、実現されたのですね。それでは、金属をカーボン調に見せる技術の方はいかがでしょうか。

岩城氏:金属とは一般的にクロームメッキを施されており、クロームメッキ上には塗料が乗らないと言われています。もちろん、クロームメッキを研磨してしまえば塗料を密着させることができるのですが、そうするとクロームメッキ特有の質感や光沢が失われてしまいます。何とか光沢を残したまま塗装表現をしてみたい、そう思い技術開発に取り組みました。もちろん、その時点で実現手段はありませんでした。しかし私にとっては、その方がかえってワクワクするのです。塗料業者さんを仲間に引き入れて、いろいろなアイデアを出し合い、下処理にはプラズマ処理がいいのか、他の方法がいいのかなど話し合いながらありとあらゆる方法を試し、ついに製品化に耐えうる方法を見出しました。この技術はVSP(Various Steel Plating)と名付け、同じく当社が特許を保有しています。

苦労して生み出した技術の証である特許の数々

 

社長は新しいものを生み出すのがお好きなのですね。

 岩城氏:そうですね。常に新しい何かを探しているところはあります。例えば御影石塗装もその一つです。まさにアイデアと色選びの勝負でした。また、研ぎ出しによって漆の伝統工芸である津軽塗のような表現を出したりする手法も編み出しました。これらはお客様からの注文ではなく、普段の作業の合間に自分のアイデアをコツコツ試しながら仕上げていきました。そして出来上がったものを「こんなものができました」と言ってお客様にお見せするのです。もちろん採用されるものばかりではなく、商品にならなかったものも存在します。

 

たとえ商品にならなくとも、通常の注文も増えるのではないでしょうか。

 岩城氏:新たに提案したものが採用されなくても、その技術に感銘を受けてくださるお客様がいます。その結果、通常の塗装品だけどお願いできないかと言って注文を下さるお客様も多いです。とりわけ大手のお客様は品質保証の観点から、どうしても最初から新たな技術を採用することは少ないです。しかし当社の技術を用いた商品の販売が増え品質の高さが確かめられると、やがて大手取引先からのまとまった数の注文につながるようになります。そうやって研究開発と売上アップのいい循環を生み出していければと考えています。

 

ユニークな技術やアイデアのサンプルを見せることで、お客さんが新たな気づきを得られることもあるのではないでしょうか。

岩城氏:そうなのです。お客さんから変わったリクエストをいただくこともあります。以前であれば、図面やサンプルがあって、この通り作ってくださいという注文が主流でしたが、最近は南国の海のイメージにしてほしいとか、失恋した悲しい気持ちを表現してほしいといったリクエストをいただくことも増えてきました。その際にはデザイナーさんと話をしながらデザインのアイデアを出し、自分たちの持てる技術を駆使してサンプルを製作し、お客様へ提案します。いろいろと考えながらあれこれ試している時間が、私にとって一番の楽しみですね。そして採用されると、楽しくなくなってしまう。ですから、ついまた次の新しいものを追い求めてしまいます。

色見本サンプル:多彩な表現で顧客の想像力をかき立てる


会社名:岩城フィルム化工株式会社

業種   ゴルフシャフト・釣り竿などへの装飾塗装

設立年月          昭和31年12月25日

資本金              10,000,000円

従業員数          16人

代表者              岩城大輔

本社所在地      東京都葛飾区東四つ木2丁目8-2

電話番号          03-3691-2397

公式HP           https://www.iwakifilm.co.jp

この記事の著者

湯山聡

湯山聡

中小企業診断士 埼玉県出身。1973年生まれ。早稲田大学卒業。ITコンサルティング、マーケティングに従事後、電機メーカーに転身し商品企画、新規事業開発に携わる。地域活性化を貢献したいとの思いから中小企業診断士を目指し、2021年11月に登録。現在は、中小企業の新規事業立ち上げや経営革新計画の支援を中心に活動中。東京都中小企業診断士協会 城南支部所属。

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