ゼロからイチを生み出す「ものづくりのコーディネーター」(有限会社 安久工機(最終回) 田中宙常務インタビュー第3回)

「ベンチャーフレンドリープロジェクト」で大田をリブランディング

ものづくりに挑戦するベンチャー企業と町工場の間には、両者を隔てる大きなミスマッチが存在する。そのミスマッチの解消に本気で取組む安久工機が、ベンチャー企業とのコミュニケーション改善を図るその理由と手段、そして、田中宙(ひろし)常務が進める「ベンチャーフレンドリープロジェクト」の構想について伺った。

有限会社安久工機 常務取締役 田中宙(ひろし)氏

ベンチャー企業と町工場の架け橋となる「モノづくりガイド」

なぜ、ベンチャー企業とのミスマッチを解消しようと考えたのでしょうか。
田中氏:私たちは世の中にないものを作り出す企業をベンチャー企業と呼んでいますが、これまで多くのベンチャー企業が、たくさんの加工会社に問合せをして、何度も製作を断られている経験があり、苦しんでいるということに気が付きました。一方で、私たち町工場側も依頼者の企業概要や試作目的などが分からないような問合せを数多く受けており、依頼に対して積極的なアドバイスをできず、対応可否のみ返答したことや、保守的な見積り提示を余儀なくされた経験があります。そのため、このミスマッチを解消することはお互いにとって非常に大きいメリットになると考えたからです。
また、大田は加工技術に優れ、ベンチャー企業から依頼の多い一品ものの試作開発と相性の良い街だと思います。「仲間まわし」というネットワークもあり、弊社のように設計を得意とし、町工場のハブとなるような会社もあります。そのため、ベンチャー企業には、町工場の考え方やものづくりのステップを知ってもらい、町工場にはベンチャー企業に寄り添ってもらうことで、大田の技術を最大限に活かすことができると考えています。

モノづくりご依頼はじめてガイド

ベンチャー企業と町工場のコミュニケーション活性化に向けて、どのような方法を考えていますか。
田中氏:まずはベンチャー企業の方に町工場の考え方やものづくりのステップを知ってもらう必要があると考え、「モノづくりご依頼はじめてガイド」という資料を作りました。ガイドの中では、「標準的なものづくりの工程」や「一口に“試作”と言っても様々な種類の試作があること」、「なぜ見積りが高くつくのか」や「依頼者のよくある勘違い」など、これまで多くの町工場が抱えていた悩みや依頼者とのミスマッチの原因などをビジュアル化し、分かりやすい資料にしました。
これまでは、依頼者と町工場のミスマッチを取りまとめ、ビジュアル化したガイドはなかったので、特に初めてものづくりに挑戦する方にはぜひ読んでもらいたいですね。
実際に、このガイドの一部である「モノづくり7箇条」をTwitterで掲載したところ、「このガイドを見て相談しました。」というお客様もいらっしゃいましたので、安久工機がオープンなマインドを持つ会社だということが伝わったと同時に、この「モノづくりご依頼はじめてガイド」がお客様の役に立ったのかなと感じています。

「日本一ベンチャー企業にフレンドリーな街」を目指す

町工場側としては、どのようにベンチャー企業にアプローチしていきたいと考えていますか。

田中氏:日本全体を見回すと、積極的にものづくりに取組む企業を支援している団体や企業があります。京都の試作開発の共同体「京都試作ネット」や墨田区の株式会社浜野製作所が有名です。大田は個々の会社の加工技術力が高く、街としてのポテンシャルは高いのに、窓口の統一感がないため、ベンチャー企業からの案件を十分に受けられていないのではないかと感じています。
そのため、弊社を含め大田のいくつかの町工場と共同で「ベンチャーフレンドリープロジェクト」を進めていて、大田を「日本一ベンチャーフレンドリーな街」「革新的なプロダクト開発の聖地」にリブランディングしたいと本気で考えています。

「ベンチャーフレンドリープロジェクト」とはどのようなプロジェクトでしょうか。

ベンチャーフレンドリープロジェクト

田中氏:「ベンチャーフレンドリープロジェクト」の大きな目的は、ベンチャー企業を積極的に支援したい企業が集まり、緩やかなコミュニティとしてベンチャー企業などからの試作依頼の窓口になることです。まずは、大きな窓口を作ることで、ベンチャー企業が把握しにくい大田の町工場の情報を補おうと考えています。そして、町工場同士のつながりとしては、「緩やか」というところがポイントです。共同受注グループではなく、案件ごとに最適なチームを編成し、ベンチャー企業の試作開発をサポートしていきます。

「ベンチャーフレンドリープロジェクト」における安久工機の役割は何でしょうか。また、今後の構想についても教えてください。
田中氏:「ベンチャーフレンドリー」というマインドでつながる緩やかなコミュニティなので、初期段階ではアグレッシブなメンバーシップが必要です。安久工機はその中心を担い、「ベンチャー企業の仕事やりますよ」という会社が簡単に手を挙げられる場所を作りたいと思います。当面は、このマインドに共感してくれる町工場の仲間集めをしていきます。ロゴや旗などを作り、認知してもらえるように取組むところから始めています。その後は、設計エンジニアを増やし、弊社が得意とする機構設計“以外の分野”、特に電気・電子・ソフトウェア・デザインなどを専門とするパートナー企業を集めることで、幅広い相談に対しても対応できるようにしていきます。その次のステージとしては、「大田区産業振興協会」や「六郷BASE(創業支援施設)」とともにセミナーや町工場見学などのイベントを開催し、実際にベンチャー企業へアプローチしていきたいと思います。
最終的には、ベンチャー企業の「これつくりたい」の声を実現できる「モノづくりの可能性が集う挑戦と失敗の開発拠点」を作りたいと考えています。その施設には、弊社の他、電気・ソフトウェア・デザインなどの上流工程を担う企業に入っていただき、ワンストップで試作ができる施設にできればよいですね。個人的には、その隣の建物で、「町工Bar」を開き、ものづくりに挑戦する人と熟練の技術者が集まる場にできたらうれしいです。

最後に、ベンチャー企業と仕事を進める上で大切なことを教えてください。

田中氏:ベンチャー企業と仕事を進める上で最も大切なことは、「信じる力」だと思います。ベンチャー企業がやろうとしていることを信じて、そこに乗っかっていくスタンスです。
一番ダメなのは、ベンチャー企業の依頼に対して「できる・できない」だけを返すような対応です。ベンチャー企業にも町工場の考え方を理解してもらった上で、密なコミュニケーションを取り、一緒に開発者として前のめりに入り込んでいくことが、本当にフレンドリーであることなのではないでしょうか。
そのために必要なことはやはり「相手を信じる」ということだと思います。


【企業情報】
業種   専用機・試験装置・試作開発に関する設計及び製作

設立年月          1969年8月

資本金              10百万円

従業員数          5人

代表者              田中 隆

本社所在地      東京都大田区下丸子2-25-4

電話番号          03-3758-3727

公式HP           http://www.yasuhisa.co.jp/index.html

Twitter     @YASUHISA_KOKI

この記事の著者

玉木涼太郎

玉木涼太郎中小企業診断士 事業承継アドバイザー

1990年生まれ。埼玉県出身。横浜市立大学卒業後、金融機関にて融資業務・審査業務を通じて中小企業の資金繰り支援に従事。現在は海外関係業務を担当し、各国の中小企業向け金融支援策の調査や国際会議主催準備に携わる。週末は小学生向けにサッカーのコーチを行う。

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る