「見えないところで世界を支える極小ねじ技術—共栄ファスナーの挑戦(共栄ファスナーインタビュー③)

見えないところで世界を支える極小ねじ技術—共栄ファスナーの挑戦(株式会社共栄ファスナー 川添隆取締役インタビュー③)

精密ねじの世界は、製品設計の変化にもっとも敏感に反応する領域である。ねじが必要とされるかどうか、どのサイズが求められるのかは、スマートフォン・PC・HDD・自動車といった完成品市場の動きに左右される。折りたたみ携帯向けOリング付きねじのように、一時は大量生産されても、設計の変更一つで需要が消えることもある。そんな変化の激しい世界で、共栄ファスナーはどのような未来を描こうとしているのか。
現在の市場動向、課題認識、技術戦略、組織の姿、そして“共栄”という名が象徴する企業としてのあり方について、川添氏にお話を伺った。

打ち合わせでの川添隆取締役

 

新たな需要と環境変化

-今後、事業環境はどのように変化していくと考えていますか?

川添氏:一つは調達の国内回帰です。最近「世界情勢に合わせた前提で見積もりを」という話が一社から来ました。まだ大きな流れとは言い切れませんが、品質リスクや地政学リスク、SDGs的な観点から、国内製造を見直す企業が増える可能性があります。コストだけでは測れない価値が見直される局面が来るかもしれません。

二つ目はリペア文化の変化です。スマホはねじを減らし、接着構造が主流になっていますが、PCやHDDの分野では依然としてねじが必要です。特にHDDはリユース分野が伸びていて、締結品質の厳格化が続くと感じています。

作業に必要な情報をまとめた工程標準書

製品の外からは見えないが、内部機構を支える存在としてのねじ。HDD向けクランプねじひとつが読み取り性能を左右し、わずかな締結力の差でデータの安定性に影響する。スマホ、PC、自動車の軽量化・薄型化が進むほど、微細ねじの役割はむしろ高度化する。技術進化とともに、ねじに求められる“見えない付加価値”は増していく。

技術体制の強化

-今後、技術面では何を強化したいですか?

川添氏:まずは生産管理と品質情報のデジタル化です。現場に残っている手書きの管理票をデータ化し、工程データと検査記録を紐づけたい。大量生産では“気づかぬまま不良をつくり続ける”リスクがありますから、データで兆候をつかめるようにしたいですね。

次に微細加工技術のさらなる高精度化です。HDD向けは今後も要求レベルが上がると思いますし、ノートPC内部の軽量化・薄型化が進めば、ねじに求められる精度も厳しくなります。

 

-量産と短納期を両立させる改善はありますか?

川添氏:現場の段取り能力を“個の技術”で終わらせないことですね。圧造・転造のセット替えは半日かかりますが、どう効率化できるかは職人の経験に頼る部分が大きい。これを標準化・可視化していくことで、よりスピーディーな対応が可能になると思います。

またロット管理もさらに踏み込んで、トレーサビリティをより細かくできる仕組みを整えたい。100万本単位を10ロットに分けていますが、今後は検査データとの紐づけを強め、異常兆候にすぐ気づける体制をつくりたいです。

検査機では様々な角度から製品をチェックする

携帯電話のOリングねじが象徴するように、完成品の設計変更はねじの役割を根本から変えてしまう。近年はスマホでねじが減る一方、HDDやPC内部ではむしろ高精度なねじが求められる。外部環境の変化に敏感でいることは、ねじメーカーにとって大きな“生存戦略”だ。共栄ファスナーはその変化を見据え、技術の方向性を柔軟に見直してきた。

 

営業戦略の方向性

-営業面では、今後どのような方針を考えていますか?

川添氏:展示会やWebを通じた新規開拓は続けていきますが、基本は既存の取引先との関係性を深めることです。私は“御用聞き営業”を続けることが基本方針だと思っていて、それによって何かに困ったときにまず声をかけてもらえる存在でいることが大事だと思っています。

 

-担当者との関係づくりについて、どのように考えていますか?

川添氏:“三方よし”に“取引先の担当者”を加えた”四方よし”ですね。当社が作った部品を使った製品が完成して、使う人たちの役に立つためまでには、とても多くの人が関与しています。その中でも、まず自社と取引してくださる企業の担当者が気持ちよく仕事ができるような関係性をつくりたいと思っているんです。そうすればその先にいる人たちの役にも立てるだろうし、その後も継続的に仕事を任せてくれるようになって、結果として当社にも好影響があると考えています。

自動で読み取った情報を活用して製品を検査する

町工場の成長において、規模の拡大だけが正解ではない。むしろ、長期的に事業を続けるためには「強い小規模企業」であること、技術を途切れさせずに継承すること、そして取引先から信頼され続ける関係を維持することが重要だ。同社の姿勢は、規模に関係なく持続可能な企業を目指す多くの町工場にとって、ひとつのモデルケースと言える。

 

組織づくりと未来への視点

-企業として、理想の姿はどのようなものですか?

川添氏:規模を追うよりも、小さくても強い会社を目指したいですね。社員が働きやすく、お客様に頼られ、取引先にも喜ばれる。そして“共に栄える”という創業の精神を守りながら、地域にも貢献できる会社でありたいと思います。

共栄ファスナーが描く自社の未来像は、非常に堅実で強い。

・精度要求の高まりに応える技術力

・短納期と大量生産を両立する生産体制

・担当者レベルから信頼される関係性

・デジタル化による品質向上

・若手育成と技術継承の仕組みづくり

 

どれも、町工場が持続的に発展するために欠かせない要素だ。

こうした着実な事業運営のもと、同社は“共に栄える”という名の通り、「四方よし」を目指して歩みを進めて行かれることだろう。


会社名 株式会社共栄ファスナー

業種   精密・一般・特殊ねじ、コネクター・カシメピン、電子用接点の製造

設立年月          1996年2月

資本金              1,000万円

従業員数          18人

代表者              川添民男

本社所在地      神奈川県海老名市上郷四丁目4番32号

電話番号          046-236-0010

公式HP           https://kyoei-fastener.com

この記事の著者

沖忠彦

沖忠彦中小企業診断士

東京都中小企業診断士協会城東支部、足立区中小企業診断士会所属。 補助金申請支援や創業支援などを通じて地域の中小事業者支援に取り組む。

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る