設備投資系補助金・助成金を専門家と取組む場合の3つの心得(中小企業診断士 園田晋平)

設備投資系補助金・助成金を専門家と取組む場合の3つの心得

中小ものづくり事業者にとって資金調達の有力手段である国の補助金や東京都の助成金について、すでに多くの事業者は実際に活用あるいは検討されたことがあるかと思います。数ある補助金や助成金の中でも、ものづくり事業者にとって関心が高いのは国のものづくり補助金に代表される設備投資系の補助金かと思います。今年度からはコロナ禍の経済情勢を鑑み事業再構築補助金も開始され、今まさに申請に取り組まれている方もおられるでしょう。

これらの補助金を申請するにあたっては、大きく分けてご自身で申請書を作成する場合と専門家に作成の支援をお願いする場合の2通りになるかと思います。どちらが正しいか、あるいはどちらにすべきかという議論はここでは置いておいて、多忙である経営者にとって、不慣れかつルールも煩雑な補助金申請を期日までに仕上げることは困難であり、費用は生じても専門家に依頼するケースが多くあるかと思います。

それでは専門家に支援をお願いする場合、事業者の方にとっては、当然ですが信頼ができ採択率が高い専門家を選びたいでしょう。中小企業診断士である私はこれまで100社を超える事業者の申請書作成支援に携わってきました。その多くの経験を通じて、当コラムでは専門家の立場から見て、事業者にとって補助金申請の採択プラスアルファの成果をあげるためにぜひとも心得てほしいと思うことを3つの点から述べたいと思います。

当事者意識を持つ

一つ目に、最も重要なことですが申請するのはあくまで事業者であり当事者意識を持つことです。支援を希望する事業者に初めて訪問したところ、公募要項は見たこともなく、内容もよく分からないからすべて専門家にお任せしたい、というケースが時々あります。確かに公募要項はちょっと読んだだけでは分かりづらくお気持ちはよく理解できますが、事業者の方は補助金を通じて成し遂げたい計画をお持ちのはずで、それを客観的な立場から全力でサポートするのが専門家です。そのため公募要項を事前にご覧になって以下の点を把握しておくことを推奨します。

①申請する補助金を出す国(あるいは東京都)の目的は何なのか。

②どのような観点で審査されるのか。

③提出する書類はいつまでに何が必要か。

最近では分かりやすい説明動画も充実してきましたね。大事なのは事業者と専門家が協力しながら共通目標である採択を目指す、この姿勢です。

できるだけ自社の情報を伝える

 第二の心得として、自社に関する情報、今回の補助金申請に至った経緯などをできるだけ多く専門家に示すことです。補助金申請までは大体の場合、1か月程度の限られた期間内で事業者も専門家もお互い忙しい中で行うことが多いのですが、私が初回の打合せの際に必ず経営者にお伝えするのは「社長とのコミュニケーションの頻度・密度の量に比例して申請書の内容も濃くなりますよ。」ということです。なお、これまで申請書と書きましたが、多くの補助金の場合、作成する書類の正式名称は「申請書」ではなく「事業計画書」と呼ばれるものです。文字通り、自社の特色や強み、これまでの事業を通じて得たノウハウ、さらに事業実施後の姿までのストーリーを描く壮大なもので、まさに経営者の総合力というべき内容になります。それを10ページ程度の文書にまとめ、それを通じて見ず知らずの審査員に訴求するのです。アピールにつながる多くの強みや特色といった情報を専門家に伝えれば伝えるほど充実した事業計画書を作成することが可能になります。御社が得意先より普段から評価されていることは何でしょうか。それが強みであり特色である場合が多いです。さらによくあるのが、例えば品質向上のため現場では日々当然のこととして実践していることが、他と比較すると類まれなこと(=他社との大きな差別化要素)というケースです。事業計画書が仕上がった後にそのようなエピソードを聞き「もっと早くお伺いできていれば事業計画書に追加できたのに…」ということもありました。なお、私は支援のため事業者を訪問した際、応接室などに掲げられている「感謝状」「認定証・資格証」「品質宣言」のようなものをチェックして、気になったものは必ず詳しい内容を聞きます。なぜならばこのようなものは自社の品質の高さ、顧客からの信頼の度合い、あるいは従業員への教育の徹底といったことを裏付けるもので、強みにつながるエピソードを伺えることが多々あるからです。

採択後も事業遂行に努める

第三の心得としては採択後の事業を責任を持って遂行することです。補助金や助成金は採択されたらゴールではありません。その後も採択された事業者としての役割や義務が生じます。代表的な補助金であるものづくり補助金の場合、事業実施報告書の作成・提出を行う必要があり、さらに実施後5年間は年に一度、事業化状況の報告が求められます。確かに面倒に感じられる方、苦労された方も多いかと思いますが、決して難しい業務ではありません。これらの業務に対して事業者としてきちんと対応すること、そして何よりも事業計画書に記載した将来像を実現するため一所懸命に尽力することが重要です。

 以上、専門家の立場から事業者の方にお持ちいただきたい心得について述べましたが、この心得を持って専門家とともに事業計画書を作成すれば自社を見つめなおす良い機会になり、さらに将来のあるべき姿が明確になるといった、採択とは別の大きな成果が得られるかと思います。そのような副次的な成果の観点でも、期待できる専門家と共に補助金助成金に挑戦して輝かしい未来を描いてみてはいかがでしょうか。

この記事の著者

園田晋平

園田晋平中小企業診断士

大学卒業後、合成樹脂と繊維の複合素材メーカーの営業職に従事。在職中の2006年に中小企業診断士に登録。2007年より中小企業支援機関にて製造業の取引あっせん業務に従事後、2011年、経営コンサルタントとして独立。2013年より株式会社コンサラート取締役に就任、現在は主に製造業、卸売業全般の経営課題の解決に関するコンサルティングを中心に活動している。 取引あっせん業務で培った豊富な経験を生かした設備投資系の補助金助成金の支援も得意としており、これまで約200件の支援実績があり毎年高い採択率をあげている。

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