独自のものづくり技術を軸に、地域とともに未来を創る(株式会社玉川パイプ 玉川大輔社長インタビュー①)

老舗町工場を引き継いで

玉川パイプは、一般にはあまり知られていない引抜(ひきぬき)鋼管という技術を持ち、小ロット、短納期において日本でも他に類を見ない卓越企業である。4代目となる玉川大輔社長は、当初は跡を継ぐつもりはなく大手メーカーに就職していたが、大田区の優れたものづくりが外の地域から見ても称賛されていることを再認識し、実家の老舗町工場に戻ったという。3回シリーズの第1回は、自社の技術と地域の強みを活用して経営の進化に取り組む玉川社長に、現在の手応えを伺った。

株式会社玉川パイプ 代表取締役 玉川大輔氏

 

 

日本で最小規模のロット対応ができる引抜鋼管メーカー

引き抜いて作るという工法が特徴的ですね。

玉川氏:弊社は「引抜鋼管」という加工で、世の中に存在しないサイズのパイプを作るのが仕事です。ベースになる金属パイプに熱を加える「焼なまし」の処理をして、金型を通して引っ張って形状を変えます。こうして、お客様の必要とする特別な太さや厚さのパイプを作ることができます。

まず、材料となる金属パイプの先端を熱して機械でつぶします。次に、炉でパイプ全体に熱を通して「焼なまし」を行う。熱処理によってスラッジというススのようなものがつくので、酸を使って洗浄した後、金型の中を通して変形します。最後に、パイプの曲がりをなくして真っすぐに矯正するという工程です。
金型はプラグとダイスという2つを組み合わせ、その中を通してパイプを引っ張ることで、プラグが内径を、ダイスが外径を定めます。先端をつぶすのは、太いパイプから細いパイプを作るので、小さい先端から金型に通して引っ張るためです。

引き抜いたサイズを決めるプラグ(手にした金型)とダイス(右下)

 

一般にはあまり知られていない工法なのでしょうか。

玉川氏:引抜鋼管メーカーは国内で40~50社くらいありますが、市場全体で需要は決して拡大しているわけではありません。大手は自動車関係の製品を扱っていますが、弊社は基本的に自動車業界はやっていない。うちの得意なところは、高い精度で小ロット対応できることと短納期ということです。それにプラスアルファの付加価値をつけていくことを狙っています。

展示会に出展していて、認知度が低いということを痛感します。「引き抜き」という言葉は聞いたことがあるが利用したことはない方が大多数で、説明すると「なんだ、引抜パイプを使えば切削しなくていいのか」といった反応になります。小ロットから対応するので、コストダウンによってお客様にメリットを与えられることが多いのです。

提案すれば需要は広がる手応えがあるので、我々としては、引抜鋼管を認知してもらう機会をいかに作っていくかということが、今の課題と考えています。

 

大田区ものづくりの価値

家業を継がれて4代目となりますね。

玉川氏:玉川パイプの創設は1959年で、私の祖父がこの場所で始めました。起源としては、曾祖父が大田区の大鳥居駅あたりで、引抜加工ではなくパイプのメーカーをやっていました。祖父も曾祖父と一緒にパイプ作りをしていたのですが、戦後の混乱の中で廃業を余儀なくされ、その後、祖父が引抜加工の会社を立ち上げたわけです。

当時の詳細な経緯は分かりませんが、以前から営んでいた造管は価格競争が激しく、将来性を考えて引抜鋼管に転換したと聞いています。余った鋼管に引抜加工を加えることで再利用できるというメリットもあります。

祖父の後は、祖母、父、そして私が4代目です。私は初め跡を継ぐつもりはなく、愛知県に本社のある大手の住宅設備機器メーカーに就職しました。配属先は四国で、12年ほど勤務したのですが、会社が販売面の強い会社と合併し、企業文化の違いを感じたこともあって、10年前に家業に戻ってきました。父の闘病中に事業を承継したのが4年前です。
長男ということもあって、家業のことはずっと頭の中にありました。四国でも「ものづくりのまち」大田区は有名で、取引先の人から「もったいないぞ」と言われて大田区の価値を再認識したのも大きく影響しました。

炎の燃えさかる炉(本社工場中央)

 

 

「仲間まわし」と自社技術

昨年は第2工場を開設されました。現在の体制を教えてください。

玉川氏:弊社の生産技術は2つあって、ひとつは本社工場で行う引抜鋼管の加工、もうひとつは第2工場で行っているパイプにレーザー加工する技術です。第2工場は本社から近いところに2021年2月に開設して、レーザー加工ができるようになったので内製化の範囲が広がりました。引き抜きしたパイプに付加価値をつけるのに貢献し、売上を増やすことができています。

人員は、従業員が10人、私を入れると全部で11人です。事務系が3人、製造が5人、営業が私を含めて3人という組織体制です。昨年、第2工場を作ったこともあって、製造部に新入社員を2人採用しました。技術を伝えていかないといけないので、地元の高校新卒者を採用して、本社工場と第2工場で1人ずつレクチャーを受けながら働いています。

 

製品種別には変化がありますか。

玉川氏:売上高は5つのカテゴリーに分けて見ています。1つ目が内製オンリーの製品。本社工場と第2工場の社内で製造が完結しているものです。2つ目がそこに「仲間まわし」(*)を一部加えた製品。3つ目が仲間まわしオンリーの仕事。4つ目が材料販売で商社的な機能。5つ目はエンドユーザー向けのBtoC商材で、デザイナーとの協業など含みます。

(*仲間まわし=町工場の集まる大田区では、自社にはない技術を近隣の専門加工業者に2次発注して補い合い、製品受注するという独自の文化が育まれている)

現在、売上高の比率が最も高いのは、3つ目の仲間まわしオンリーです。ただし、複数社をコーディネートして製品を納めると、売上高は大きくてもどうしても利益率は低くなります。そこで、内製化をいかに増やすかというのが課題となります。この3カ月くらいを見ると、第2工場の効果があって、内製カテゴリーの方が上回るようになってきました。

仲間まわしは強力な武器です。残しておく必要はあるのですが、自社の技術を広く知ってもらうことを重視しながら、将来を見据えて活用していく必要があります。


<会社概要>

業務内容  引抜鋼管製造および各種鋼管販売・金属加工

設立年月  1959年11月

資本金   1000万円

従業員数  10人

代表者      代表取締役 玉川 大輔

本社所在地  東京都大田区南六郷2-21-11

電話番号    03-3738-3538

公式HP     http://tamagawa-pipe.com/

この記事の著者

宮田昌尚

宮田昌尚中小企業診断士

熊本県出身。早稲田大学政経学部卒業後、メディア企業に入社。出版部門の広告営業や企画運営等を長年担当し、CSR推進部門で各種事業の推進に携わった。現在はグループ会社に勤務。中小企業診断士として、信念をもった経営者の取材・執筆を多く行っている。

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