次世代へ繋ぐ「どこにもできない」技術とチャレンジする文化~有限会社岸本工業インタビュー【第3回(最終回)】

第3回 社員社員一体での成長により次世代へ

現在の岸本工業の中核を担う須藤さん、岸本さんの二人が入社したことで、親子二代・三位一体での経営が実現し会社の雰囲気も変わったという。将来を背負っていくお二人に、今後の将来展望や経営マネジメント上の課題について伺った。

有限会社岸本工業 取締役:須藤 祐子さん(写真右) 工場長:岸本 豊寿さん(写真左)

親子二代・三位一体体制での経営

現在、須藤様は取締役として人事や営業に、岸本様は工場長として生産・加工に責任ある立場で携わっていらっしゃいますが、元々岸本工業を背負っていくことは意識されていたのですか。

須藤さん:特に強く意識したことはありませんでしたね。子供の頃は、とある理系最高峰大学の前を通りがかった時に母から「あなたは将来ここを目指すのよ」なんて言われたこともありました(笑)。ただ、その後 は就職の際にも特に両親からは何も言われず、大学卒業後はIT企業でプログラマーとして働いていました。しかし、20年ほど前に結婚退職して専業主婦をしていた際に、家業で人員不足になったことを機にまずはパートタイマーの形で手伝うことになり、現在に至ります。

岸本さん:私も特に意識したことはありませんでしたね。子供の頃から見ていた父の姿から、会社を背負うことの大変さはわかっていたので、自身で背負うことができるのかという不安も正直ありました。大学卒業後は、サービス業での営業といった家業とは全く異なる業界でも働きました。ただ、前職がたまたま製造業でして、CAD/CAMを使用した設計・製造に携わる中でものづくりの面白さを知る機会となりました。ちょうどそんなタイミングに、姉と同じシチュエーションですが、家業の方で人員不足になったため手伝うようになり、入社する運びとなりました。

お二人が入社したことで会社の雰囲気や状況は何か変わりましたか。

岸本さん:私たちが入社したことで会社の雰囲気は良くなったと周りからは聞きますね。会社として継続していくことの安心感と、二人とも各自の問題意識で色々やりたいことをやり進め、任せてもらえたことも大きかったと思います。

須藤さん:私が入社した最初の頃は、実は両親はいつ事業を畳むかどうかを考えていたらしいんですよね。職人気質の町工場でしたので、利益の出し方を十分に意識した経営とはいえなかったようで。そこで、「人が見てくれるところに見せに行かないといけない」と、私も営業経験はないながらも両親を説得し、展示会出展など新たなチャレンジに取り組んできたことなどは良かったと思います。

社員一体で未来へ歩むための指針作り

創業当初から社員も増えて現在13名とのことですが、経営やマネジメント面での苦労はありますか。

須藤さん:入社当初は職人と事務スタッフを合わせても数名程度でやり取りもスムーズでしたが、所帯が増えると、仕事の偏りが気になるようになりました。社長自身が誰かの指示に依らず仕事をしたいという想いで起業した経緯もあり、これまで当社ではあまり育成に力を入れてこなかったんですよね。そこで営業部や事務内でのミーティング回数を増やして、お客様への提案、交渉、図面の確認といった一連のやり取りを共有するようにしました。また、社内で生産管理部を立上げ、社内の工程の見える化を図ったことにより、営業と現場のやり取りがスムーズになり悩みだった仕事の偏りが軽減され社内の雰囲気がより良くなりました。 

岸本さん:当社では、実は公式に掲げている「経営理念」というものがなく、社員皆が何を目指して仕事をしていくのか明示されていない状況でした。そこで、将来も見据えた指針となる「経営理念」を須藤と二人で中小企業診断士のコンサルタントの方を交えて作っているところです。現在、ベテランから若手まで多様な社員がいるので、皆が一体となって会社の成長を目指すためには、次の世代である我々が指針を示さないといけません。コンサルタントの方が社長からの信頼も厚いので、仲介役となっていただきながら社長の意志も汲んで作成しています。今はやっと方向性が見えてきたところです。

プラスチック可視化加工で岸本工業の初期ロゴのモチーフにもなっている十二面体を表現

チャレンジを通じた持続的成長へ

社長が積み上げた技術や文化を継承しながらも、お二人主導で将来に向けた改革も進めてこられてきました。今後は岸本工業をどんな会社にしていきたいですか。

岸本さん:これまでにない、大きな仕事にもチャレンジしていけるような体制を作っていきたいですね。加工だけでなく、プロジェクトスタートからデザイン設計、加工、組立と総合的に引き受けできるようにしていきたいです。加工や部品製作だけだと仕事の全体像がわからず、自社の価値を上げていくのにも限界があります。設計からトータルでお引き受けできれば会社としての付加価値も上がり、スキルも蓄積できます。そのために、設備など環境を整備しながら、営業も増員して強化しているところです。まずは既存のお客様の掘り起こしをしていきながら、展示会で情報交換だけで終わったお客様へのフォローによる新規開拓もしようとしています。今、中途採用の多様なバックグラウンドを持つ人材がいるので、元々当社にある「失敗しても良いからチャレンジする文化」を生かし、これまでとは異なる可能性を広げるような仕事もしたいです。それにより、お客様が喜ぶことに繋げながら10年20年かけてメーカーとして持続的に成長できる体質にしていきたいです。

「大田のお土産100選」に選定されたアクセサリー


会社名 有限会社岸本工業

業種   プラスチック精密加工、アクリル等透明性樹脂の可視化加工等

設立年月          1980年1月創業

資本金              15,000千円

従業員数          13人

代表者              岸本 哲三

本社所在地      東京都大田区西六郷4-18-8

電話番号          03-5703-8171

公式HP           https://kishimotokogyo.co.jp

この記事の著者

地引智美

地引智美中小企業診断士

神奈川県出身。一橋大学卒業後、IT企業に入社。入社後は大手企業様向け法人営業に従事し、現在は自社の部門経営スタッフとして事業戦略策定や施策実行に携わる。 社外の活動として、中小企業診断士としての研究会活動、取材・執筆及び中小企業の事業計画書作成支援や、幸せ視点の事業・組織づくりを志す「hintゼミ」の運営サポーターにも携わっている。

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