次世代へ繋ぐ「どこにもできない」技術とチャレンジする文化~有限会社岸本工業インタビュー【第1回】

第1回 「どこにもできない」技術の蓄積と外への発信

岸本工業は、樹脂を±0.1mm以下の精度で加工できる事業者はいないことに目をつけ、プラスチック精密加工を生業に1980年に創業。他社ではさじを投げられた高難易度の加工も「駆け込み寺」として請け負ってきた。そのあゆみについて、創業者である父を支え、次世代を担っていく姉弟に話を伺った。

有限会社岸本工業 取締役:須藤 祐子さん(写真右)工場長:岸本 豊寿さん(写真左)

「どこにもできないこと」に目をつけて創業

プラスチック精密加工技術を武器に大手メーカーから研究機関まで幅広く取引先がいらっしゃいますが、現在の事業についてお聞かせください。

 須藤さん:当社はプラスチックの独自加工技術であるフルフラット加工や、アクリル等の透明素材を高透明切削する可視化加工技術を強みに、携帯電話等の治具の設計製作や透明度が求められる展示ケース等の生産、プラスチック板のフルフラット加工などを請け負っています。装置の中身の可視性と、フルフラット加工により精度の高い組立が可能になることが評価され、研究機関の実験装置の製作にも携わっています。

岸本工業のコア技術:プラスチックのフルフラット加工

精密さが求められる携帯電話や電子機器の治具

 

昨年2020年で創業40年。現在は切削加工のコンテストで大企業と肩を並べて受賞するほどの加工技術を保有されていますが、これまでのあゆみについてお聞かせください。

須藤さん:当社は私の父であり現社長の岸本哲三が東京都品川区で創業しました。社長は当時、大手家電メーカーの生産技術部門へ出入りしていたのですが、金属加工はどこの事業者も精度を出すが、樹脂加工を±0.1mm以下の精度で加工できる事業者はいないことに目を付け、創業しました。

当時問題となっていた「組立誤差」をなくすために、当社のコア技術であるプラスチック板のフルフラット加工方法を考案して特許を取得しました。コア技術を強みに、高い精度が求められる携帯電話の検査治具の生産等へ携わる一方、お客様から最後の「駆け込み寺」として他社がさじを投げた高難易度の加工を依頼されることが増えました。これらの依頼を引き受け、なんとか苦労しながら対応してきたことも「どこにもできない」新たな技術を自社に蓄積できた結果に繋がっていると思います。

岸本さん:2020年に銅賞を受賞したDMG森精機の第15回切削加工ドリームコンテストへの出品作品は、当社のフルフラット加工や可視化加工といった切削技術を詰め込んだものとなっています。当社の技術をアピールする作品として試作したものをたまたま知り合いに見せたところ、コンテストへの応募を勧められまして。まさか受賞するとは思っていなかったため驚きましたね。

第15回切削加工ドリームコンテスト出品作品:transparent sommelier(トランスペアレント ソムリエ)

 

高い技術があっても誰かに見てもらわないと評価されない

幅広い取引先がいらっしゃいますが、顧客の獲得はどのようにされていますか。

須藤さん:展示会への出展やホームページが主な手段です。特にホームページ経由の問合せが多く、月に平均10件ほど引き合いがあります。実は、どちらもここ10年くらいで取り組み始めたことです。それまでは既存のお客様からの引き合いや口コミのみで営業活動はほとんど行っていませんでした。その結果、既存のお客様の売上のみだと月々の売上変動が大きかったことが悩みでした。そんな中、大田区産業振興協会から展示会への出展の話を打診されました。社長は元々職人気質ということもあり、「営業なんてしなくても見る人が見れば高い技術だと分かるはず」と展示会での営業にピンと来なかったようでした。しかし、「誰かに見てもらわないと評価されない」と当時入社3年目の私の方で説得し、展示会出展を決めました。

 

これまでほぼ実施して来なかった営業活動へのチャレンジは大変だったのではないでしょうか。

須藤さん:初出展は国際プラスチックフェアという5日間に渡る大規模展示会だったので大変でした。産業振興協会からの指南を受け、「PiOデザイン工房」という大田区の販促物作成支援制度も利用しながらなんとか準備・本番を乗り切りました。おかげで、この展示会で引き合いがあった5社くらいのお客様とは現在まで10年以上の継続取引がありますね。その後も当社の知名度を広めるために継続的に出展活動をしています。ホームページも最初は自社製作から始まりましたが、展示会出展する中でホームページを見られる機会が増えたのでプロの方にお願いするようになりました。SEO対策といった基本対策はしながら、アピールしたい商品などに合わせてリニューアルを重ねています。現在のホームページは2020年11月にリニューアルしたばかりです。

岸本さん:当時の父母はピンとは来ないながらも、「やりたいことはどんどんやれ」と考えていたらしいです。

須藤さん:当時の私はそんな後押しがあったと知りませんでしたが(笑)、おかげで現在は既存のお客様からの売上が概ね6割で、残りを新規のお客様からの引き合いを占めるようになりました。売上変動の波は以前より安定しましたね。

現在は何名くらいで営業活動をされていますか。

須藤さん:専任は1名で、私もマネジメント業務の傍らで対応しています。専任の者は主に既存のお客様向けの対応をしています。ただ図面を頂いて見積もりを提示するのではなく、素材の提案やコストを下げる加工方法の提案などコンサルティングの要素も必要となります。話を伺いながらその場で図面を描くこともあり、そのような提案力も評価いただいていると思います。ただ、展示会にいらしたお客様のフォローなど新規顧客獲得に向けた活動が今の人員では十分実施できていないので、今後の課題として対応強化していく予定です。


会社名 有限会社岸本工業

業種   プラスチック精密加工、アクリル等透明性樹脂の可視化加工等

設立年月          1980年1月創業

資本金              15,000千円

従業員数          13人

代表者              岸本 哲三

本社所在地      東京都大田区西六郷4-18-8

電話番号          03-5703-8171

公式HP           https://kishimotokogyo.co.jp

この記事の著者

地引智美

地引智美中小企業診断士

神奈川県出身。一橋大学卒業後、IT企業に入社。入社後は大手企業様向け法人営業に従事し、現在は自社の部門経営スタッフとして事業戦略策定や施策実行に携わる。 社外の活動として、中小企業診断士としての研究会活動、取材・執筆及び中小企業の事業計画書作成支援や、幸せ視点の事業・組織づくりを志す「hintゼミ」の運営サポーターにも携わっている。

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