次世代へ繋ぐ「どこにもできない」技術とチャレンジする文化~有限会社岸本工業インタビュー【第2回】

第2回 変わらず継承するもの 新たに変えていくこと

岸本工業は、創業以来高度なプラスチック加工技術を強みに成長してきたが、従来からのコア技術を守るだけでなく会社の体質改善やデジタル技術の活用への挑戦もしてきた。本記事では強みの源泉ともいえる、技術の蓄積と継承について伺った。

有限会社岸本工業 取締役:須藤 祐子さん(写真右) 工場長:岸本 豊寿さん(写真左)

高度な多能工集団による「駆け込み寺」

他社がさじを投げた難易度の高い加工も引き受けられていますが、高い技術を蓄積する強みの源泉はどこにあると思いますか。

須藤さん:失敗してもうるさく言わない文化が一番大きいと思います。当社はセル生産方式としていて、流れ作業ではなく一人の職人が材料の切り出しから完成まで全てを行います。図面を手にしてから想像力を働かせて一から作ることが楽しく、職人のやりがいになっているようです。加工するための治具をどうするか、刃物や機械の選定をどうするか、最終形状にいたるまでの段取りを頭に入れて工夫するので、毎日頭をフル回転させながら働いていると思います。一人一人がスキルの幅が広い多能工ですね。

岸本さん:生産現場で図面を一から描くことはあまりないですが、加工者のほとんどがCAD/CAMを扱えるので、頭の中で加工する段取りを設計しながら加工を行うことができる点も強みだと思います。

その技術力の高さから数多くの賞も受賞

 

難易度が高い依頼を引き受ける苦労も大きいのではないでしょうか。

岸本さん:「どこにもできない」ことも引き受け、挑戦するのは当社創業時からのマインドではありますが、やはり苦しむことは多く、徹夜続きなんてこともあります。「え、こんなのできるの?」という仕事が舞い込んできて、通常業務をしながらなんとか形にして。毎年そういった依頼が何回もありますね。技術の生みの辛さではありますが、達成できるとお客様には本当に喜ばれますし、会社としてできることが広がる点で差別化になっているのだと思います。

 

新たなチャレンジができる体質・環境への進化

現在、生産現場に社長含め5名社員がいらっしゃるそうですが、ベテランの方が多いのでしょうか。

岸本さん:現場では社長の他にベテランスタッフが1名で、40代のスタッフが多いです。私は何度かの転職を経て入社していることもあり、客観的に当社を見たときに、今後成長していくためには同じことを続けるだけではいけないと強く思いました。社長とあるべき姿について議論をし、新しいことへのチャレンジ、例えば先に述べたCAD/CAMといったデジタル技術を使いこなすことなど取り入れていきました。採用は、あえて加工未経験者を採用しています。当社のような他社ではできないような加工を請け負う会社だと、経験者の方だと始めから「できない」と判断してしまうケースが多い為です。3年前に入社した社員も未経験者でしたが、CADが使える人材ということもあり、当社の一から自分の頭で考える環境が合ったのか、デジタルとアナログを使いこなし今や第一線で活躍しています。

新たな技術を取り入れるとなると設備面の充実も必要ですよね。

須藤さん:はい、全体的にみて当社は設備が遅れていると感じ、7、8年前から補助金などの助成制度も活用しながら設備を充実させてきました。当社はフルフラット加工の強みに特化していたこともあり、立体形状の加工に関して他社と比較して遅れていたんですよね。品質管理についても、加工の依頼を頂いても自社で検査ができず、外注をしていました。そこで、三次元測定機を購入しようとものづくり補助金に初チャレンジし、無事採択されて導入することができました。当時、大手自動車メーカーからの受注で三次元測定機による検査が必要だったのですが、検査を内製化できたことで納期の短縮と利益率の改善が実現しました。検査のノウハウが自社に蓄積できるようになった点も良かったですね。その後も継続的に旋盤、フライス盤、3DCAD/CAMなど導入しています。直近はターニングセンタを、補助金を活用して導入しましたね。

岸本さん:他社ではできないと言われたような難易度の高い加工も、自社のノウハウもありますが、やはり最新設備を導入することで受注できるようになりましたね。

須藤さん:実は社長は、汎用技術はピカイチですがマシニングは非常に苦手でして、デジタル技術の部分は二人から都度社長に必要なものを相談して導入しています。特にお客様からの検査要望はデジタル技術がないと引き受けることができないので必須ですね。

2020年10月に導入したターニングセンタ

 

貴社の強みであるコア技術の継承も重要だと思いますが、どのように進められていますか。

岸本さん:技術の継承のためには、やはり汎用機を扱えるようになることが重要と考えています。汎用機の扱いには五感が必要になるので。目で見て、耳で聞き、匂いを感じ、触って確かめる。そして直感で危険を察知する力も必要になります。それらの感覚を研ぎ澄ませていくことで技術が身についていきます。社長は「背中を見ろ」「とりあえず一度やって見てから聞け」といういわゆる職人気質のタイプですが、積極的に質問していくうちに今は少しずつ教えてもらえるようになりました。デジタル技術の部分も含め、それら学んだことを少しずつ資料化し、勉強会を開くことを私の方で進めています。会社が新たな技術や取組にチャレンジして成長していくためには、私一人だけが頑張るのではなくみんなで成長していかないといけないと思っています。なので、従来型の教え方で長期間かけて個々のノウハウを溜めていくだけではなく、共有化も大事だと考えています。


会社名 有限会社岸本工業

業種   プラスチック精密加工、アクリル等透明性樹脂の可視化加工等

設立年月          1980年1月創業

資本金              15,000千円

従業員数          13人

代表者              岸本 哲三

本社所在地      東京都大田区西六郷4-18-8

電話番号          03-5703-8171

公式HP           https://kishimotokogyo.co.jp

この記事の著者

地引智美

地引智美中小企業診断士

神奈川県出身。一橋大学卒業後、IT企業に入社。入社後は大手企業様向け法人営業に従事し、現在は自社の部門経営スタッフとして事業戦略策定や施策実行に携わる。 社外の活動として、中小企業診断士としての研究会活動、取材・執筆及び中小企業の事業計画書作成支援や、幸せ視点の事業・組織づくりを志す「hintゼミ」の運営サポーターにも携わっている。

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