戦略的な事業承継により持続的な成長を図る (五洋工業株式会社 代表取締役社長 酒村 幸男様 インタビュー①)

半世紀近いステンレス板金加工で培った「強み」

五洋工業株式会社は、ステンレスやアルミを中心に精密板金加工一般を行うメーカーである。1974年の創業当時より、ステンレス・アルミの需要拡大の機会を見据えて設備投資や製品開発を積み重ね、技術力に磨きをかけてきた。半世紀近くにわたりステンレスを中心とする板金加工を行う中で培った技術による高品質な製品は顧客の高い信頼を得ている。
本特集では同社が取り組んできたことと今後の展望について、代表取締役社長の酒村幸男氏(以下、酒村社長)に話を伺っていく。第一回は、同社の沿革と事業内容について取り上げる。

五洋工業株式会社 酒村幸男氏

 

ステンレス素材の板金加工で培った「美観」という強み

2024年に創業50周年を迎えます。これまでの沿革を教えてください。

酒村社長:当社の創業者の古谷準二は、ステンレス・アルミの需要が拡大することを予測し、それに特化した設備投資を進めました。特に創業してしばらく経ったころから、食器の洗浄機を取扱うお客様との付き合いが始まったことで、受注を受ける加工の大部分がステンレス加工となり、現在はステンレスやアルミ素材の精密板金を中心に板金加工を行っています。

 

酒村社長が考える五洋工業の強みについてお聞かせください。

酒村社長:「美観」へのこだわりが当社の強みであると考えています。ステンレス素材の製品は無垢で使うため、綺麗に仕上げないといけません。例えば車の表面をステンレスで作ったとして傷が一つでもあったら買ってもらえないですよね。綺麗な品物を届けるというところに当社の職人はこだわりが強く、技術や技能を磨き続けて今に至っています。美観へのこだわりは五洋工業の組織文化として浸透しており、お客様からも高く評価されています。

展示会に出展されたステンレス製の「鎧兜」。きめ細やかな加工の美しさに目を奪われる。

 

酒村社長は2016年に代表取締役社長に就任されています。就任に至るまでの経緯を教えてください。

酒村社長:先代社長の古谷準二は妻の父で義父にあたります。私はもともと大手総合電機メーカーに勤務しており、妻とはそこで出会い結婚しました。サラリーマンとして定年まで勤め上げるつもりでしたが、先代社長が体調を崩し、実質2年程会社に来られなくなってしまったのです。妻は取締役として経営に携わってはいたものの、経営に詳しいわけではありません。社長不在では経営判断ができず、廃業も選択肢として考えなければなりません。先代社長から懇願され、悩んだ挙句、後継者として社長に就任いたしました。もし廃業という選択肢を選んでしまうことになると、約20名の従業員はおろか、その家族も路頭に迷いかねないことになります。そのことが頭をよぎり決断しました。先代社長は既に闘病中だったため、引継ぎや準備期間はまったくありませんでした。

 

そのような経緯だったのですね。大手メーカーと中小企業では、組織文化などの違いがあり、苦労されたのではないでしょうか。

酒村社長:もともとメーカーに勤めていましたし、ものづくりの現場も見ていたので、事業内容は理解していたつもりでした。しかし、町工場と大企業ではやはり生産管理のシステムも違いますし、一人一人の役割も違い、全く違うところに飛び込んだ形でしたね。

一番苦労したのは組織人事の面です。私は板金加工について知識が乏しく、OJTで実習を4ヶ月程度経験したのですが、製造現場を表面的にかじった程度で実質的な理解には及びません。そんな状態で熟練の職人に対し技術論を交わすこともままなりませんでした。一般的に、中小企業では社長をはじめとしたマネジメント層は「経営から現場の作業もすべてできて当たり前」という考えを持つ従業員が多い傾向にあるのかもしれません。財務面については、先代社長がしっかりとした経営基盤を残してくれていたため苦労は少ないですが、融資を受ける場合の経営者保証については、万が一のことがあったら個人の財産を処分してでも返済する義務が生じてしまうため、サラリーマンだった立場からすると非常に怖かったですね。

 

事業承継の難しさを改めて認識するお話ですね。製造現場についてお話がありましたが、大手メーカーと中小企業の製造現場の具体的な違いはどこにあるのでしょうか。

酒村社長:一般的に、大手メーカーの場合は役割が細分化されて、現場の作業者が持つ範囲は狭いと思います。その細分化された範囲でスペシャリストになることが求められ、「ここの工程を任せておけ」みたいな人がたくさんいます。また製造現場には管理者がいて、プロセスそのものを構築し作業手順書を作成するなどの役割があり、現場でその手順に沿って作業をすすめ、不便な点があれば管理者にフィードバックされて、手順書を改善していくという流れだと思います。

一方で当社のような規模の製造現場の場合、大手メーカーのやり方だと欠員が出た場合工程が回らないので、職人に言わせると「すべての工程をできなければいけない」。まさにその通りだと思うんですね。「自分がここだけは負けない」部分と、「いかにマルチでやれるか」「プラス周りの仕事ができる」という部分と、いわゆる多能工としての役割が必須だと思います。

当社も、量産品の生産がたくさんあり、同じものを一日中製造している時代が長らくあった様です。そうすると特定の技能は必然的に向上します。しかし、現在は事業環境も変わり、取引先も多種多様になると、製造現場で毎日同じモノが流れてくることはほぼありません。そうすると技術力に加え、製造工程の知見や応用力で対応できる技能が必要となります。実際に当社の職人は、前後の工程や流れを理解しつつ作業を行っていますし、ある工程が忙しくボトルネックになっている場合でも、そこを助ける風土が出来上がっています。

 

各工程の技術力の「深さ」と、多能工として全体像を見渡す「広さ」が、五洋工業にはあるのですね。
酒村社長:はい。一方で、例えば20年後、高い技術力を持ちつつ、広く工程を見渡せる能力を、今後若い社員に伝承できるのかというと、おそらく難しいと思います。属人化を解消していく一方、五洋工業のコアとして残すべき職人の技術力をどう両立させていくのかが、今後の課題ですね。

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業種   精密板金加工一般(ステンレス精密板金、アルミ精密板金、その他各種鋼板精密板金)

設立年月          1974年5月

資本金              12,000,000円

従業員数          23人

代表者              酒村 幸男

本社所在地      神奈川県秦野市菩提170-5

電話番号          0463-75-2281

公式HP           https://www.goyou.co.jp/

この記事の著者

小川浩司

小川浩司中小企業診断士

大学卒業後、不動産会社、製薬会社を経て、現在は生命保険会社に勤務。年間10,000名を超える保険営業パーソンから商品・相続・税務・会計など多方面のセールスサポート業務を行っている。2022年中小企業診断士登録。

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