「組み合わせ」と「マーケティング」で成長を続ける(富士セイラ(株)髙須俊行様 インタビュー①)

「組み合わせ」による製品提供に至るまで

富士セイラ株式会社は、家電やパソコンなどに使用されるねじ部品や精密機械加工部品を製造・販売する企業である。大手企業をはじめエンドユーザーと直接取引をし、多様な要望に応える中で、製品面・営業面のノウハウを蓄積しながら成長を続け、間もなく創業100年を迎える。

本特集では、同社のノウハウ蓄積の過程や今後の展望などについて、代表取締役社長の髙須俊行氏(以下、髙須社長)に話をうかがっていく。第一回は、同社の事業の特徴と現在の製品提供スタイルに至るまでの経緯について取り上げる。

富士セイラ株式会社 代表取締役社長 髙須俊行氏

加工方法と素材の組み合わせでお客さまの多様な要望に応える

御社の主要な事業内容について教えてください。

髙須社長:ねじ部品を中心とした金属加工品の製造・販売を主力事業としています。金属加工には、成形・切削・接合という3つの加工方法がありますが、当社では、国内外合わせて5つの工場で機能を分担しながら、成形と切削を手掛けています。例えば、栃木事業所では冷間圧造(後述)でねじ部品を、東京事業所では切削加工や旋盤加工で精密機械加工部品を主に製造しています。また、フィリピンの子会社では、主に成形の中でもダイカスト(鋳造の一種)によって部品を製造しています。

冷間圧造は、線材を金型に投入して盛り上げて形にする加工方法(成形)です。一方、切削加工や旋盤加工は、棒材を削りながら形にしていく加工方法(切削)です。同じ金属加工でも、加工方法が全く異なります。当社では、このようにさまざまな加工方法を手掛けることで、お客さまの多様なご要望に応えられる点が強みです。量が多い場合は、初期費用として金型代金をかけても元がとれるので冷間圧造をご提案しています。冷間圧造であれば1分間に200~400個程度製造でき、材料を一切削らないため無駄も少なく、環境にも優しいというメリットがあります。ただし、加工交差は0.05mm程度までしかコントロールができません。一方で、量が少ない場合や加工交差の要求が厳しい場合は、NC旋盤加工をご提案しています。加工交差は0.01mm以下までコントロールができます。ただし、1つの部品を製造するのに1~2分と時間がかかるうえに、棒材を削るので材料の無駄が出てしまうというデメリットがあります。当社では、加工方法の違いによるメリットとデメリットを踏まえ、必要量が少ないうちはNC旋盤加工で、需要が増え量産が必要になったら冷間圧造に切り替える、というような提案も可能です。また、複雑な形状であれば、ダイカストも提案しています。

その他、鉄やステンレス、アルミ、チタンなど、さまざまな素材の加工にも対応できます。お客さまが実現したい性能などのご要望を聞きながら、最適な加工方法と素材を当社でうまく組み合わせてご提案しています。

NC旋盤加工で製造した小型部品(左)と細長部品(右)

 

創業時からこのような取り組みをされていらっしゃるのでしょうか?

髙須社長:当社は昭和2年創業で、今年で96年目になります。現在、大手家電メーカーとの取引が多いのですが、これは戦後のことです。元々は品川の本社や、川崎の工場の手狭な場所でねじ製造を行っていましたが、昭和39年に現在の栃木事業所を建設した際に冷間圧造によるねじ製造を発展させました。切削加工の製造が拡大したのは、2012年頃とごく最近のことです。私の叔父が社長を務めていた大田区の切削加工工場が業績悪化で一時は当社工場の一角を間借りして経営を続けていたのですが、リーマンショック後の2012年に倒産し当社がすべてを引き取ることになりました。それがきっかけで、切削加工を拡大していきました。結果的に、さまざまな加工方法を組み合わせて、お客さまの多様なご要望に応えることができるという当社の強みにつながりました。

 

自社製造と商社機能の組み合わせでお客さまの多様な要望に応える

多くの製品を取り扱っていらっしゃいますが、すべて自社工場で製造しているのですか?

髙須社長:当社では、ねじに関するものについては何でも揃います。自社工場で、オリジナルで製造しているものやライセンスを購入し製造しているものもあります。自社工場で製造しているものは全体の3割程度で、残りの7割は協力会社から購入してお客さまに提供しています。つまり、当社は製造するだけでなく、商社機能も備えているのです。このことが、ねじに関するあらゆる品を揃え、組み合わせながらお客さまの多様なご要望に応える当社の強みにつながっています。

私は、基本的にお客さまからのご要望は断らないことにしているので、自社で対応できないものは協力会社と連携して応えるようにしています。当社がこのような取り組みをしていることを聞きつけて、色々な部品メーカーから、当社で製品を取り扱って欲しいという要望が来るようになり、今では協力会社は1,000社にものぼります。

髙須社長が持ち歩いているサンプル品一式

 

現在の製品提供スタイルに至るまで

組み合わせで、さまざまな種類のねじに関する製品を製造・販売し、事業を拡大されていますが、これまでご苦労はなかったのでしょうか?

髙須社長:私は、2004年10月にサラリーマンを辞めて当社に入社した後、2007年に6代目の社長に就任しました。会社の調子も比較的良かったので、2008年に栃木事業所内に物流倉庫を建設し、さらにタイにはハードディスク用のねじ増産要請に備えて2つの工場を建設しました。しかし、リーマンショックに次いで東日本大震災が発生し、栃木の物流倉庫は天井からエアコンが落下するなど大きな被害を受け、修繕も必要となりました。この頃にちょうど叔父の工場を引き取ることも決まりました。ついには、タイで洪水が発生して工場がすべて水に浸かってしまい、出荷もできないような状況になりました。売上が全く立たない中で、設備投資に伴う借入の返済をしなければならなくなりました。今思うと、よく潰れなかったと思います。

 

どのように乗り越えたのでしょうか?

髙須社長:粘りです! ほとんど自力で乗り越えました。取引金融機関からは、リストラを勧められるなど、厳しいこともたくさん言われました。何とか、政府系の金融機関を頼りながら資金支援を受けつつ、経営改善のコンサルタントも紹介していただき、乗り越えました。

この時の経験を踏まえ、同業他社と差別化を図るために、オリジナル製品の開発に力を入れる必要性を痛感しました。そのような中で、防水・防油機能付きねじ「シールアップ®スクリュー」などの製品化につながりました。それから、高性能な設備を充実させるために、補助金・助成金活用にも力を入れ始めました。2013年の公募開始から、7回連続してものづくり補助金の採択を受けましたし、東京都や品川区の助成金制度も活用しました。補助金・助成金を活用することで、手元資金や借入だけではなかなか手が出せないような設備投資もできるようになりました。

この頃から、現在の製品提供スタイルである組み合わせの提案も始めました。

 

補助金で導入したNC旋盤加工機と髙須社長


業種   金属加工品製造販売業

設立年月          1927年3月

資本金              9,216万円

従業員数          101人

代表者              髙須 俊行

本社所在地      東京都品川区東大井1-3-25

電話番号          03-3471-0911

公式HP           http://www.fujiseira.co.jp/

この記事の著者

関谷由佳理 

関谷由佳理 中小企業診断士

大学卒業後、金融機関に勤務。主に法人営業に従事し、大企業から中小企業まで幅広い顧客層を担当。お客さまに寄り添いながら、課題解決につなげていけるコンサルタントを目指している。2021年中小企業診断士登録。

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