誰を幸せにするBusiness Continuity Planか?
~社内取り組み促進とそのための情報整理~
2022年1月21日、経済産業大臣が経済団体幹部とのテレビ会議で「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を策定した上で、これを公表することは、取引先、金融機関、投資家など、その事業者を取り巻く様々なステークホルダーにとっても有意義であることに加え、その事業者自身の信頼性の向上にも繋がる」として、BCPへの取組みの強化を呼びかけました。BCPは、自社の経済的効用もさることながら、誰のための施策かを起点に取り組むことを意識づける一つの機会にもなります。
2001年9月、米国同時多発テロで米国メリルリンチは、旅客機がワールドトレードセンターに激突した7分後に災害対策本部を立ち上げ、翌日には業務再開のメッセージを顧客に配信しました。BCPの効用が広く認知された出来事でした。日本では、その後も、東日本大震災、西日本豪雨災害と甚大な影響を及ぼす天災の度に、BCPの重要性が問われてきました。しかし、BCPを整えられている企業はまだ一部でした。2020年になり新型コロナウイルス感染症の蔓延でも、。なかなか予測できないリスクへの準備は、つい優先順位が下がってしまいます。
しかし、実際には社内で無意識に取り組まれていることもあります。例えば、コピー用紙・トナーの補充、取引先リストの作成、現金の銀行預け入れなどです。これらを怠ると、大事な資料を印刷できず会議を遅らせてしまったり、担当者の休暇で取引先の連絡先がわからなかったり、現金が盗まれてしまうなど、作業停滞が起こります。つまり、これらを回避するための行動は、立派な事業(作業)継続のための措置といえます。このように日常的に起こりえる作業停止への備えは「計画せずとも」自然に対応がなされていますが、事案の大小に関わらず、事業停止に備えあらかじめ「計画的」に措置を講じることが、BCPなのです。
後段で示すように、東日本大震災の後には、中小企業庁や都など多くの組織でBCPの取り組みが推奨され、中小企業に関連する行政機関やそれに準ずる組織で、BCP情報を提供しています。取り組み方に関する情報も業種別などにわかりやすく整理され、コロナ禍においてその情報発信はより活発になりました。
さて、冒頭の経済産業大臣の言葉に出た「様々なステークホルダー」とは、従業員、株主、仕入先、販売先、業務委託先、消費者などと、その企業の活動に関わる全ての組織や人を指します。事業が止まれば、ステークホルダーの活動を止めてしまうなど便益を損ねることに繋がり、自社だけの被害にとどまりません。今後の災害時に、「BCPを用意していなかったのか?」、「いつになったら事業が再開できるのか」などと、ステークホルダーからの「信頼を損ねないよう」、早めの取り組みを推奨します。
社内での取り組み方
販路拡大や仕入交渉とは異なり、BCPは直接利益を生み出す業務ではありません。このような間接業務の推進は努力成果が見えづらく、日頃忙しい従業員の関心を高めることはなかなか難しいため、経営トップのリーダーシップが重要になります。経営トップは、BCPの意義や効用を自身の言葉でわかりやすく説明し、積極的に取り組んだ従業員を評価することなどでBCPの優先度が高いことを示す必要があります。下図のようにBCPのテーマを大きなブロックに分け整理するところから始めるとよいでしょう。
BCPの情報整理
東日本大震災や新型コロナウイルス感染症の蔓延などにより、日本でも一層BCPが望まれ、ホームページを見れば多くの情報が入手できるようになりました。その一方で「どの情報を参考に取り組めばいいのか迷ってしまう」といった声も聞かれます。以下に、公的あるいはそれに準ずる組織のBCPサイトをまとめました。最初は、各ページを読み流して全体像を把握したところで、従業員と話を始めたり第三者に相談することをお勧めします。その中で疑問点が生じれば、「あのページを参考に調べてみよう」といった確認がしやすくなるからです。
BCP関連情報 (2022年3月日時点)
■内閣府
・防災情報のページ
http://www.bousai.go.jp/index.html
・防災白書
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/
・他省庁の災害情報等
http://www.bousai.go.jp/kankeihushouchou.html
■経済産業省
・萩生田大臣は、経済団体に対し、コロナ禍における事業継続に向けた取組強化を要請
https://www.meti.go.jp/speeches/dosei/2022/1/20220128001/20220128001.html
・コロナ禍における事業継続に向けたBCP(事業継続計画)の公表・登録
https://www.meti.go.jp/covid-19/bcp/index.html
■経済産業省 関東経済産業局
・災害・防災関連情報
https://www.kanto.meti.go.jp/saigai_kanren/index.html
■中小企業庁
・経営サポート「経営安定支援」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/index.html
・中小企業庁BCP策定運用指針
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/index.html
・資料04 BCPの有無による緊急時対応シナリオ例(1) 製造業(地震災害)
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_a/bcpgl_08_04_1.html
・事業継続力強化計画
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm
■独立行政法人 中小企業基盤整備機構
・事業継続力強化支援事業
https://www.smrj.go.jp/sme/enhancement/kyoujinnka/index.html
■J-NET21(中小企業基盤整備機構が運営する中小企業やその支援者等のためのポータルサイト)
・中小企業BCP(事業継続計画)の普及促進
https://j-net21.smrj.go.jp/support/publicsupport/2019020401.html
■東京都
・東京都業務継続計画(都政のBCP)
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000061/1000395.html
・東京都防災ホームページ
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/bousai/1000027/1000296.html
■東京都産業労働局
・BCP策定支援
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/shoko/keiei/bcp/
■公益財団法人 東京都中小企業振興公社
・BCP策定支援事業
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/bcp/sakutei.html
■一般社団法人 日本経済団体連合会
・お知らせ 事業継続計画(BCP)の実行について
https://www.keidanren.or.jp/announce/2022/0126.html
https://www.city.ota.tokyo.jp/sangyo/topics/bcp_sheet.html
■日本商工会議所
・BCP(=事業継続計画)
・「商工会議所を核とした地域の防災・減災対策の推進に関する中間報告書 ~レジリエントで豊かな地域経済社会の実現へ~」(地域BCM研究会)を公表
https://www.jcci.or.jp/news/2022/0218140000.html
■東京商工会議所
・BCPなど企業の防災対策支援
https://www.tokyo-cci.or.jp/survey/bcp/
■東京都中小企業団体中央会
・BCP(事業継続計画)の再点検等について(要請)(東京都)
https://www.tokyochuokai.or.jp/hotnews/hot-2021/2306-2021-08-24-23-44-32.html
■一般社団法人 中小企業診断士協会
・中小企業のBCP(事業継続計画)策定支援業務と知識体系
https://www.j-smeca.jp/contents/001_c_kyokainitsuite/010_c_jigyonaiyou/008_bcp_chishikitaikei.html
誰の幸せを継続するBCPか?
BCPで従業員の安全確保に努めることは、そのご家族の生活の糧を守ることにもつながり、そのように従業員に配慮する企業姿勢は、能力の高い社員の採用にも効果があります。また、取引先との業務も安定して確保でき、雇用を継続し、地域経済への貢献へとつながります。このように、BCPにより事業の継続可能な環境を整えることが、誰の幸せにつながるのか、従業員の皆さんで話し合うこともBCPの本質を理解するために重要な作業になります。どのようにBCPの取り組みを始めたらよいか迷われる方は、まず前述の各所ホームページ一覧からいくつかのページを流し読みし、BCPの概要を把握されたうえで取り組まれてみてはいかがでしょうか。
Tips (補記)
十数年ほど前、筆者は、従業員が数百名超の会社で従業員用のパソコンをデスクトップ型からノート型に置き換えた経験があります。その時、約8割の従業員から反対をされました。理由は「キーボードが小さくなり生産性が劣る」、「盗難・情報漏洩のリスクが高まる」、「うつ向きがちな仕事で体に負荷がかかる」などです。しかし、もし今、デスクトップ型しか導入しないと言えばどのような反応になるでしょうか?当時、従業員の方の意見もわからなくもありませんでした。しかし、無線ネットワーク技術の進展や米国の働き方の変化を見据えると、近い将来ノート型に取って変わられることは容易に想像ができました。ヒトの脳は、安定を望む習性があるため、リスクとなる将来の環境変化が自分の身に降りかかるまで、積極的な行動は取りづらく、先行取り組みが遅れる要因となります。しかし、BCPの対応の遅れが自社の社会的評価の低下を招くリスクがあると考えればいかがでしょう?近年、SDGsの言葉で表されるように、多くの企業が社会的利益、社会貢献に目を向ける潮流が生まれてきました。個社個社が自発的に考えられた部分もあれば、時代の潮流で考えを合わせた部分もあるかもしれませんが、なぜ大きな潮流が生じたのかを考え、本質的な取り組みを心掛ければ自社の価値低下を招くリスクを避けられます。