経営理念を掲げる効果と作成のポイント(ソウルスウェットカンパニー 仲光和之)

経営理念を掲げる効果と作成のポイント

中小企業が抱える代表的なお困りごと1つに「社員が会社のことを自分ごとに考えてくれない」というものが挙げられます。社員が経営者目線をもって業務にあたってくれれば何よりですが、社長の最優先事項が「会社を存続させること」、社員の最優先事項が「自分の生活・家族を守ること」と考えると、同じ目線で仕事をすることは容易ではないでしょう。ですが、会社が成長していくにはそのギャップを埋め、社員が自ら考えて動く「自立型組織」へ変革していく必要があります。その方法の一つが「成果につながる経営理念の策定・浸透」だと考えます。経営理念とはいったい何で、どのような効果が期待できるのか、策定や浸透を進める際のポイントは何かなど、4つの切り口からお伝えします。

経営理念とは

「経営理念」とは一体どういうものを指すのでしょうか。もちろん「会社が大切にしていること」を言葉にしたものですが、額縁に収めて社長室に飾ったままの経営理念に意味があるのでしょうか。意味のある経営理念とは「本当に伝えたいことを伝わるレベルで言語化したもの」です。「社員に経営理念を何度説明してもなかなか分かってくれない」という社長の声をよく耳にします。もし同様のお悩みをお持ちでしたら、その経営理念が「伝わるレベル」で言葉になっているか、今一度ご確認ください。「伝える」ではなく「伝わる」です。
ではどのような形で言葉にするのかですが、ここでは「ミッション」「バリュー」「ビジョン」の3つの観点で考えていきます。経営理念はこの3つに分解されると定義します。(経営理念の定義や解釈には様々な形がありますが、本記事内では上記のように定義します。)その3つの言葉の意味や関係性は以下の表のとおりです。

経営理念
ミッション バリュー ビジョン
使命、仕事をする理由 価値観、行動指針 目標、目指す方向性
Why How What
過去 現在 未来

【ミッション】
「仕事をする理由(Why)や使命感」を言葉にしたもの。経営者、創業者の過去の経験等をベースに策定されることが多い。

【バリュー】
ミッションを胸に秘め、ビジョンを実現させるために、日々どのように(How)行動をすべきかといった「行動指針、価値観」を言葉にしたもの。
【ビジョン】
会社が目指す方向性や成し遂げたいこと(What)を言葉にしたもの。

経営理念の効果

一般的に経営理念は、会社一丸となって前に進んでいくためのスローガン的な意味合いが強く、社員教育の材料としても使われます(下記図表の①部分)が、意外な効果としてマーケティング効果も十分に期待できます。
戦後のように品物が十分になかった時代は「作れば売れる」時代だったと言えます。その後品物がある程度行き渡ると「品質が良ければ売れる」時代になり、そして「新しい機能があるものが売れる」時代へと変化してきました。しかし、インターネットが普及し情報収集や比較対照が簡単に行えるようになると、特殊な技術や特徴があるもの以外の多くが互いに差別化しづらく、似た製品が世の中に増えていきます。このような環境ではお客様はどういう基準で製品を選ぶのでしょうか。それは「応援したい」製品やサービス、つまり「誰から買うか」を判断基準にするようになります。
この「誰から買うか」を考えるときに、経営理念が大きな効果を発揮します。なぜこの仕事をしているのか、お客様や世の中にどんな影響を与えたいのか、そのためにどんな行動をとるのか、こういったことが明文化されていることで、自社のファンが増えることが期待できます。(下記図表の②部分)
さらに経営理念の浸透が進み、社員一人一人の行動変革が進んでくると、お客様との折衝や営業の場面でも良い変化が起き始めます。(下記図表の③部分)現場レベルでもファンが増え、業績という目に見える成果につながっていきます。

経営理念策定のポイント

では経営理念(ミッション、バリュー、ビジョン)とはどのように策定していくのでしょうか。大事なポイントは「社員が会社のことを自分ごとに感じる工夫を盛り込む」ことです。ミッションやビジョンは、創業時の想いや目標を言葉にするので、社長や幹部で作成する場合が多いです。一方、社員全員が意識すべき行動指針(バリュー)は、社員と共に作成することで、策定後の浸透の進み方が格段に変わります。

ただし、いきなりバリューを考えるように社員に伝えたところで、良いものが出来上がるとは思えません。社員研修等を通じて丁寧に進めていくことが重要です。例えば、社員のプライベートシーンや仕事の場で高いパフォーマンスを発揮するために、「何をやるか」だけでなく「どのような気持ち」でやるかが重要ということを、研修の場で体感してもらいます。この「どのような気持ちでやるのか」がバリューとなるわけです。こういった研修や、場合によっては個人面談も行い、行動の基礎となる「思考・感情」がいかに大切で、成果に大きく影響することを理解してもらうプロセスが必要です。そして、社員各自からバリュー案を募ります。その後、社長が考えたバリュー案を社員のバリュー案、キーワードで肉付けするようにして完成に近づけていきます。この作業を経ることで、社員は自分たちの言葉がバリューに反映されていることになり、経営理念をより自分ごとと感じるでしょう。

経営理念浸透のポイント

経営理念は策定がゴールではなく、あくまでスタートです。社員全体に浸透し、理念が行動の判断基準となり、自立的な組織となることがゴールです。そのためには、日常の仕事と理念がどのように関連しているかを振り返る取り組みが欠かせません。
例えば、掲げたバリューに基づいた行動をとったことでどんな良いことが起きたのか、またクレームが発生したとしたら、どのバリューをより意識すべきだったのかなど、朝礼や定例ミーティングの場で、バリューを絡めたディスカッションを行うのもよいでしょう。日報等を作成している会社では、バリューに基づいた行動を記載する欄を設けている場合もあります。このように日常業務の中に理念を織り込んでいくことが大切です。

経営理念は「伝わる」形で言語化され、社員が自分ごとと感じることで、確実に成果に表れます。比較的時間のかかる取り組みであり、社長自身の覚悟も問われることになりますが、この不確実な時代だからこそ、価値のある取り組みです。ぜひ一度自社の「あり方」を見直す時間を持って頂きたいと思います。
(※本記事で記載している内容の一部は、(一社)リネジツ代表理事、生岡直人氏から学んだ内容を基にしています
。)

この記事の著者

仲光 和之

仲光 和之(株)ソウルスウェットカンパニー代表取締役 キャッシュフローコーチ® 理念実現パートナー®  中小企業診断士

会社員時代に、主力級社員が続々と「同業他社」に転職する姿を目の当たりにした経験から、「働く人がまた明日も行きたいと思える会社を増やす」ため、経営コンサルタントとして独立。“答えを教えるコンサルタント”ではなく、“ビジョンを共に実現する仲間”として、率先垂範をモットーにクライアントと接している。 社員個人と会社のビジョンが、仕事を通じて共に実現するための仕組みづくりと、その実現を絵に描いた餅に終わらせないキャッシュフロー経営導入を専門に活動中。 一部上場企業や全国の商工会議所、商工会など、全国34都道府県で登壇。記憶にしっかりと残り、翌日からの行動変化につながるワーク主体のセミナーが好評。

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