戦略的な事業承継により持続的な成長を図る (五洋工業株式会社 代表取締役社長 酒村 幸男様 インタビュー②)

販路開拓への取り組み
五洋工業株式会社は、ステンレスやアルミを中心に精密板金加工一般を行うメーカーである。1974年の創業当時より、ステンレス・アルミの需要拡大の機会を見据えて、設備投資や製品開発を積み重ね、技術力に磨きをかけてきた。半世紀近くにわたりステンレスを中心とする板金加工を行う中で培った技術による高品質な製品は顧客の高い信頼を得ている。本特集では同社が取り組んできたことと今後の展望について、代表取締役社長の酒村幸男氏(以下、酒村社長)に話を伺っていく。第二回は酒村社長就任後の販路開拓を中心に取り上げる。

代表取締役社長 酒村幸男氏

展示会出展や異業種交流など積極的な販路開拓

現在の取引先構成についてお聞かせください。

酒村社長:現在、約半数が既存取引先、半数が新規取引先、という構成です。一番のメイン取引先は食品検査機器メーカー様で、続いて半導体の製造設備関連の企業様、介護系の企業様が続きます。2022年の集計では約150社とのお付き合いがあります。個人のお客様から大手企業の取引先まで多岐にわたりますが、大半は中小企業や小規模企業で占められています。

 

多種多様な業界と取引きされていますね。ターゲットとする業界はあるのでしょうか。

酒村社長:ステンレス素材は様々な業界で用いられています。よってターゲットとしている業界は特にありません。逆に当社の技術が活かせるお客様だったら、業界は関係なくお付き合いしたいと思っているます。産業機器メーカ様が主ですが、変わった所では看板製作の会社様など、本当に様々な取引先様がいらっしゃいます。

 

多種多様な業界との取引を行う利点についてお聞かせください。

酒村社長:まず既存取引先があることで、安定した受注が確保されることが挙げられます。また取引先構成が幅広いことで、受注や生産工程の平準化が図れていることが挙げられます。例えば半導体業界や自動車業界などに業界を集中させてしまうと、景気や経済動向などの外部要因に大きく左右されてしまいます。

しかし、幅広い業界の企業と取引きするおかげで、全体的にはどこかが悪くてもどこかがいいというような受注や生産の平準化が図れており、年間でならすと極端な繁閑がほとんどありません。たくさんのお客様に恵まれ幸運です。

 

新規取引先の販路開拓はどのように行っているのでしょうか。

酒村社長:展示会や商談会が中心ですね。神奈川だと「公益財団法人 神奈川産業振興センター」が、年に数回開催する商談会にほぼ欠かさず参加させていただいています。また、保険会社主催の異業種交流会や、商工会議所主催のコミュニティなど、様々な会合に積極的に参加して、商談につなげていただいています。異業種交流では隠れたニーズも発見できます。例えば、当社は基本的に建築業との取引は少ないのですが、建築業でもちょっとした小物をステンレスで作りたいという意外なニーズがあったり、防水業者さんにつないでいただき仕事をいただいたりという機会がありました。

設計をゼロから行わなければならないこともあり大変ですが、新しい出会いは面白く、また事業領域も広がるので、このような動きをしています。

ステンレス加工の「祝い鶴」。加工の技術力を視覚的に訴求することで、新規商談につながっている。

 

行動指針でも地域社会の活性化を掲げられています。営業エリアは神奈川県の西部エリアが多いのでしょうか。

酒村社長:やはりお客様は神奈川県の西部エリアが多いです。しかし営業エリアとしては、当然神奈川県は全域だと思っていますし、静岡県も東部エリアは商圏として考えています。また埼玉県や千葉県、さらに遠いエリアでは奈良県や新潟県にも取引先があります。

もともとは、神奈川県西部エリア近辺にいたお客様が、移転されても引き続き購入いただけている状況です。ロジスティックコストなども負担いただいているので、非常にありがたいと考えています。

 

展示会は同業他社との競合も考えられますが、どのような工夫をされていらっしゃいますか?

酒村社長:展示品などで「美観」と「技術力」を視覚的に訴求できる工夫を行っています。ステンレスの板金加工は差別化が難しく、価格競争になりかねませんし、当社の規模では工程の工夫でコストを下げたとしても価格勝負では太刀打ちできないケースもあります。当社の強みは「美観」と「技術力」にあります。よって、当社の強みを評価いただけるお客様をどんどん探していこう、というイメージで訴求をしています。視覚的に訴求できる形にすると、仕上げの美しさを見て、頼んでみようというお客様もいらっしゃるのでありがたいですね。また展示会では私も出来る限りブースに立ち積極的に新規開拓を行っています。

 

多品種少量生産への対応力

酒村社長が就任されて新規販路を積極的に増やされている印象があります。

酒村社長:先代の社長の頃は既存顧客や固定客からのリピート需要も比較的高く、また受注量も多いという「少品種大量生産」のモデルでした。しかし、日本企業の大半は「多品種少量生産」の傾向にあり、それに対応していかなければならないと思います。

 

そうなると新規提案への対応も件数が増えていますか。

酒村社長:お陰さまで日々見積りを行っています。特に食品関係は作るものの種類が極めて多くそれら一つ一つの作成方法や、お客様の工場のレイアウトに合わせた特注の対応などで新規の部品製作が多く、見積依頼が日々舞い込んできます。

非定型的な相談も多いですが、日々対応を重ねてきたことにより、必然的に対応力が培われた部分もあると思います。展示会や商談会でお会いするお客様は飛躍的に増えましたが、当社のメインのお客様に匹敵する取引先がすぐに見つかるわけではないため、新規取引先の数を増やして積み上げていくしかありません。商談会で蓄積した対応能力は、取引先とのマッチングという観点からも非常に役に立っていると思います。

 

五洋工業の強みを適正に評価していただける得意先とのマッチングがとても重要ですね。

酒村社長:そうですね。例えば板金加工について、板と板を接合させる「溶接加工」がコスト低減の観点でみれば望ましい場合でも、耐久性やメンテナンスの観点から、コスト面で分が悪くても一枚の板を曲げる「曲げ加工」を提案するケースもあります。購入品としてのコストよりも、お客様での後工程も含めたコストメリットを訴求して納得いただき、それで五洋工業を使おうと思っていただけるお客さんに出会うまで商談する考え方でやっています。製品の出来栄えが良く後工程での手直しが減ったから五洋工業の製品を採用し続けている、とおっしゃっていただけるお客様もいらっしゃり本当にうれしいですね。

また、良い評価も悪い評価も含め得意先の声を聞き製品に生かす、という取り組みも行っています。やはりいい評価をいただければ現場のモチベーションも向上しますし、得意先のお褒めの言葉は嬉しいですよね。

 

溶接加工されたステンレス製サイコロ。角の丸みや穴の切り口の処理、光沢など美しさが際立つ。


業種   精密板金加工一般(ステンレス精密板金、アルミ精密板金、その他各種鋼板精密板金)

設立年月          1974年5月

資本金              12,000,000円

従業員数          23人

代表者              酒村 幸男

本社所在地      神奈川県秦野市菩提170-5

電話番号          0463-75-2281

公式HP           https://www.goyou.co.jp/

この記事の著者

小川浩司

小川浩司中小企業診断士

大学卒業後、不動産会社、製薬会社を経て、現在は生命保険会社に勤務。年間10,000名を超える保険営業パーソンから商品・相続・税務・会計など多方面のセールスサポート業務を行っている。2022年中小企業診断士登録。

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