戦略的な事業承継により持続的な成長を図る (五洋工業株式会社 代表取締役社長 酒村 幸男様 インタビュー③)

次世代に向けたグループ会社化と成長戦略

五洋工業株式会社は、ステンレスやアルミを中心に精密板金加工一般を行うメーカーである。1974年の創業当時より、ステンレス・アルミの需要拡大の機会を見据えて、設備投資や製品開発を積み重ね、技術力に磨きをかけてきた。半世紀近くにわたりステンレスを中心とする板金加工を行う中で培った技術による高品質な製品は顧客の高い信頼を得ている。本特集では同社が取り組んできたことと今後の展望について、代表取締役社長の酒村幸男氏(以下、酒村社長)に話を伺っていく。第三回は次世代に向けたグループ会社化と成長戦略について取り上げる。

同社代表取締役社長 酒村幸男氏

 

設備投資への取り組み

酒村社長就任後は積極的に設備投資にも取り組まれている印象を受けます。

酒村社長:板金加工業は大規模な設備投資が非常に難しい業態です。抜本的に生産性が向上する大規模な投資は、製品の価格や収益性は投資回収まで期間を要するので、費用対効果の観点でなかなか行えていません。

一方で、小規模の設備投資を行い、細かい作業だけど工数が多く人手がかかる作業をできるだけ機械に置き換えて省力化しています。そうすることで属人的だった部分が解消でき、新人社員や他部署の従業員が作業を手伝えるようになりました。

 

売上向上というより、コスト削減や効率性向上という観点での設備投資ですね。

酒村社長:これまでは現場の定型的な業務の効率向上を主眼に設備投資をしてきたという感じですが、最新設備は先進化も進んでいるので定期的に設備投資を行わないと設備は陳腐化しますし、競合企業に負けないという意味と、生産性向上や属人性の解消の意味でも、設備投資したいと思っています。また今年は生産管理システムを更新しようと考え、補助金を活用して導入したところです。

 

熟慮の末、大三鋼機株式会社の完全子会社となる

2021年に愛知県名古屋市に本社がある大三鋼機株式会社の完全子会社となりました。先代から培われてきた財務的な経営基盤もしっかりされている中、なぜこのような経営判断をされたのでしょうか。

酒村社長:確かに財務的な経営基盤は全く問題がないため、取引先からも「五洋工業が買収する側では?」と言われました。しかし、実は入社した時から、私は将来的には事業承継やM&Aも検討する必要があると考えていました。M&Aは、企業を存続させるための「コンティンジェンシープラン」と捉えていたためです。先代社長の健康上の理由で私が代表取締役社長に就いたように、私がいつ倒れてしまうのか、それは分からないことです。不測の事態が起こった時にできる限り迅速に対応する必要があると考えたのです。

 

M&Aはどのようなプロセスですすめていかれたのでしょうか。

酒村社長:社長に就任してまもなくM&Aの仲介会社へ相談したのですが、当社の事情を詳しく確認することなく売却を一方的に勧められ、嫌気がさしてしまいました。五洋工業の強みを活かしつつ持続させることが目的であるため、現在の営業方針に沿ったM&Aであること、従業員の雇用を守ること、そのような基本条件をもとに、取引きしている信用金庫の力も借りながら候補を絞り込みました。業績悪化による売却ではなく、戦略的に成長するための一手段としてのM&Aだったので、利益が出ている状態での実行を考えていました。そして当社の方針を理解してくれた大三鋼機へ売却を決断しました。

 

大三鋼機のグループ会社になることを決断した「決め手」を教えてください。

酒村社長:大三鋼機はもともと鋼材販売からスタートして、現在は板金加工事業を行っており当社と同じ事業領域です。当社の業績や強みを活かしつつ成長させていきたいという考えを理解いただけたという点もありますが、最終的には社長と専務の人柄でしょうか。当社の技術力も高く評価していただいていることに加え、愛知県に本社があることから、商圏や技術交流などに、シナジー効果が図れる期待感もありました。ただ従業員は不安だったと思います。私は売却が完了するまで秘密裏に話をすすめなければならず、従業員はある日いきなり大三鋼機のグループ会社になることを告げられるわけですから当然です。今後中小企業が単体で生き延びていくには非常に困難な時代であるという背景を丁寧に説明したとはいえ、先代社長と会社を作りあげてきた従業員や職人さんたちにとっては複雑な気持ちがあると思っています。しかし、従業員に安心を与えるための一手段としてのM&Aなので、ある程度理解してくれているのかなと思います。

 

グループ会社になって、実際にどのような影響や効果が見られているでしょうか。

酒村社長:大三鋼機の専務取締役であり当社の取締役でもある若原が名古屋から神奈川県秦野へ毎週一回来て、当社の部長会議にも参加しています。私とは異なる視点で様々な面で意見を述べてくれるので新鮮です。また若原は非常に合理的な思考の持ち主ですが、一方で小規模な鋼材屋を大きな会社に成長させた経験があり、自分自身も現場で必死に仕事をした経験など、職人の感情も理解できる人物で、当社の従業員とのコミュニケーションも上手にとっています。

また、大三鋼機の愛知県の工場へは、ほぼ全社員が見学に行っていますが、合理化が進んだ製造現場にはかなりカルチャーショックを受けているようです。見学したからすぐ現場が変わるというわけではありませんが、気づきや参考になっているのではないかと思います。

 

今後のビジョンについてお聞かせください。

酒村社長:今後のビジョンとしては、まず大三鋼機との関係において、今の五洋工業の技術の強みをどう活かしていくかという点でしょうか。また、事業展望という点では、ここは一回ゼロベースで考え直したらいいなと感じる部分があります。特に設備投資に関してはマクロな視点で考えていましたが、大三鋼機の知見や考え方を聞くと、目から鱗の部分がたくさんありました。ビジョンそのものを再考し、作り直していくことも必要な段階だと思うのです。

ただ今後のマクロ的な成長戦略においては、これまで培ってきたステンレスやアルミをベースにした「美観」という強みは、絶対に変えないつもりです。また当社の技術力を必要としていただけるお客様をとにかく探して続けるということも変えません。その結果として成長できればと考えていますので、この軸となる部分は変えないようにしたいと思っています。

大三鋼機のグループには、当社の他に大阪の入谷電気という会社があります。グループ会社で板金加工のネットワークができたのですが、それぞれの強みはやっぱり違うんですね。そのお互いの強みをうまく活かして、また商圏も関西・中部・関東といい塩梅で分かれたので、ゆくゆくはシナジーが発揮できるようにしていきたいと考えています。

同社の工場には幅広い業界から注文を受け製作した様々な製品が並ぶ


業種   精密板金加工一般(ステンレス精密板金、アルミ精密板金、その他各種鋼板精密板金)

設立年月          1974年5月

資本金              12,000,000円

従業員数          23人

代表者              酒村 幸男

本社所在地      神奈川県秦野市菩提170-5

電話番号          0463-75-2281

公式HP           https://www.goyou.co.jp/

この記事の著者

小川浩司

小川浩司中小企業診断士

大学卒業後、不動産会社、製薬会社を経て、現在は生命保険会社に勤務。年間10,000名を超える保険営業パーソンから商品・相続・税務・会計など多方面のセールスサポート業務を行っている。2022年中小企業診断士登録。

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