相手の目線で考えることで自社の強みを発揮する(大森精密工業株式会社 土方徹之助代表インタビュー②)

顧客へ売り込むのではなく、顧客を引き寄せていく

大森精密工業株式会社は、ローレット加工をはじめとした精密複合加工を手掛ける企業だ。本特集では同社の好調な売上の秘訣や今後の展望について、代表取締役である土方徹之助氏へお話を伺っていく。第二回では営業活動や顧客対応に関する話を取り上げる。

同社代表取締役 土方徹之助氏

 

あの人誰だ?と思われていたとしても

創業当初はどのように顧客開拓をしましたか。

 土方徹之助代表取締役(以下、代表):とにかく必死にイベントに参加しました。創業当初、前職で知り合った方から発注をいただくことはありましたが、事業を安定させるためにも新しい顧客からの受注は必要だと感じました。しかし何に出ればいいか分からなかったので、顔を出せる場所には全部出席していました。思いつくもので言うと、当社が所属する蒲田工業協会のイベントだけではなく大田区工業連合会のイベントにも参加しましたし、下町ボブスレーの説明会にも出席しましたね。大田区は長年続く企業が多いので、新参者だった私のことを「あの人誰だ?」と怪訝に思われた部分はあったでしょうが、気に留めませんでした。また現在はコロナ禍なので実施されませんが、当時はイベントが終わると参加者との飲み会があって、そこで知り合いから紹介をしてもらって名刺交換をして…というかたちで人脈を作っていきました。この名刺交換がきっかけで後日見積もり依頼が来ることもあり、あらゆる場が受注につながる機会であることを思い知らされました。

 

顧客開拓というよりは、“人脈形成”という印象が強いですね。

人脈形成という面でいえば、過去に参加した製造設備に関する研修での人脈も大きい気がします。その研修は泊まり込みで行われ、私と年代の近い後継者候補が多く参加していました。研修後にお酒を酌み交わすこともよくあり、自社の悩みから他愛もないことまで様々な話をしたのでとても仲が深まりました。研修が終わってからも「これってどうやって操作すればいいんだっけ?」と電話などで相談しあうことも多く、今でも仲間として支え合えています。

 

顧客を引き寄せる工夫

顧客対応に関して心がけていることはありますか。

代表:まず見積り依頼が来た時にはスピードを大事にしています。私自身、業務時間の多くは机に向かって見積もりを作成しているので、世間一般と比較してとても早い方だと思います。仕事を溜めて忘れてしまうのが怖いので、片っ端から対応していきたいという性分もあるかなと。

当社の見積もりが早ければ、その先につながる顧客への回答も早くなりますよね。これは私の経験でもあるのですが、見積り依頼をして1週間くらい返答がなかったり忘れられたりすると、その企業へは段々と注文しなくなります。反対に見積もりが早ければ、金額面が他社と比べて1~2割ほど高かったとしても受注できると感じているので、スピードはとても大事にしています。ただ、時折出張などで回答が2、3日かかると「まだ頂けませんか?」と催促が入る点は、いつも早いがゆえのちょっとした弊害かもしれません(笑)。

 

営業活動の一環として展示会にも出展していると伺いました。

代表:顧客対応で忙しい部分はあるものの、1日単位の展示会などを中心に出展しています。正直なところ、最初は当社の製品は展示会に出せるような製品ではないと感じていて、乗り気ではありませんでした。しかし、大田区産業振興協会から直々にお声がけいただいたので、出せそうな製品をかき集めて出展したところ、ブースに訪問いただいた企業から見積もりの依頼を受けました。その後も何回か出展しましたが、いずれの展示会でも成果が出ています。

展示会に出展するにあたり、見本用としてカラフルな製品をいくつか作ってみました。これも私の経験によるのですが、多くの企業のブースにはアルミやステンレスなどの金属色のものが並んでいるので、同じようなものは目に止まりづらいんですよね。それならばカラフルにして、少し形も変えてみれば興味を持ってもらえるかもしれない、と思いつきました。展示会では通常、目当ての企業に一直線に向かわれる方が多いのですが、このカラフルな展示品が目を引いたのか、当社のブースに寄る予定のなかった方も足を止めてくださり、人だかりができたんです。結果として期待以上の集客につながり成果を出せたので、この戦略は間違っていなかったと確信しました。

出展ブースに並べられたカラフルな製品群

 

売り込みではなく顧客が引き寄せられている印象を受けますが、その秘訣は何でしょうか。

代表:セールスの電話ではいきなり先方から「これいりませんか?」と言われますが、今は忙しいからいらないとしか言えないですよね。これは当社も同様で、顧客が忙しい状況にある場合に「綺麗にローレット加工できますけど…」と積極的な売り込みをするのは、かえって効果が出ず得策ではないと感じています。

また私の感覚として、マイナーチェンジが続く場合や継続して取引ができる場合は別として、案件が終わる2~3年後には一つの企業との取引が終わってしまうと思っています。終わってしまったからどうしようとならないよう先手を打ちながら顧客を開拓するためにも、顧客からの急な問い合わせに対する柔軟な対応を心がけています。当社は第二京浜国道と環状八号線のどちらからのアクセスも良く、電車でも東急池上線 千鳥町駅から約5分で着く場所にあります。午前中に「ちょっと今日の帰りがけに寄っても大丈夫ですか」という電話が来て、夕方にその方がいらっしゃり商談スペースで会話する、というのが日課のようになっています。時には電話なしで図面を持ってこられて「ちょっと図面見てもらえませんか」と相談されることもあります。顧客が当社に来社いただけて受注を獲得できるというのは、当社の強みの一つかもしれませんね。

商談スペースには同社の様々な技術を活かした見本品が用意されている

 


社名 大森精密工業株式会社

業種   金属製品製造業

設立年月          2015年7月10日

資本金              5,000,000円

従業員数          5人

代表者              代表取締役 土方 徹之助

本社所在地      東京都大田区千鳥2-1-15

電話番号          03-6423-9155

公式HP           https://omori-seimitsu.com/

この記事の著者

依田 彩那

依田 彩那中小企業診断士

2022年中小企業診断士登録。大学卒業後、自動車部品メーカーにて人事・営業を経験後、ソフトウェアベンダーへ転職。現在は人事部門にて採用・教育・評価を担当。組織開発で企業を成長させられる人材になることが目標。

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