極細技術で未来を拓く(株式会社アルファーテック 代表取締役社長 大野和実様 インタビュー③)

世代を超えて価値を提供できる企業へ

株式会社アルファーテックは「マイクロサイズのセンタレス加工」をキーワードに、小径精密部品の外径研削加工を行う会社である。差別化を進めて競合他社が少ない市場に参入したことで、成長につなげた事例企業として、2023年度版中小企業白書にも紹介されている。本特集では同社が有する差別化の源泉や多角化に成功した背景について、代表取締役社長の大野和実氏に話を伺っていく。第三回では、大野社長が会社経営で重視していることや同社の課題、展望について取り上げる。

株式会社アルファーテック 代表取締役社長 大野和実氏

 

本質を見抜く力を養ってほしい

大野社長が会社を経営するにあたり、重視していることを教えてください。

大野氏:私が常に意識していることは、「ものの考え方」についてです。問題が起きたとき、一足飛びに結論を導き出そうとするのではなく、まずはどのような「現象」が起きており、どのような「実体」で構成されているかを探求します。そして、実体の背後にある「本質」を理解することが真の問題解決への鍵だと考えています。この考え方は、物理学者の武谷三男氏が「三段階論」として提唱し、科学技術の進歩はこのような考え方の中で進歩してきたと述べています。「三段階論」は科学の領域だけでなく、製造業の現場でも適用可能だと私は考えています。

 

問題解決のための「三段階論」を具体的な例を挙げて説明していただけますか。

大野氏:当社のセンタレス加工を例に挙げます。この加工法では、素材(ワーク)にスパイラル状の傷が発生することがあるのです。具体的な「現象」としては、深さが1μm以下から数μm程度のスパイラル状の傷が入ることがあり、傷は複数個所にランダムで入る場合もあるということです。センタレス加工のプロセスでは、ワークは薄い板(ブレード)の支えのもと調整車により回転され、砥石で削られます。また、冷却のためにクーラントを使用しています。この中で砥石に焦点を当てて考えてみると、砥石はダイヤモンドの粒子を結合剤で固めたものです。ポイントは、砥石を使い続けることでダイヤモンド粒子が摩耗して次第に露出し、最終的には脱落する点です。この「実体」から、脱落したダイヤモンド粒子が薄い板に突き刺さると、接触しているワークの回転に合わせてスパイラル状の傷が入るという「本質」が見えてきます。

このように、まずは「現象」を観察し、次にそれがどのような「実体」によって起こるのかを解析し、最終的にその背後にある「本質」を理解するというプロセスを経ることで、問題解決の手がかりを見つけることができるのです。

 

この「ものの考え方」はどのように社内に浸透していますか。

大野氏:このような考え方があるということを知っていてほしいと社員に伝えています。もちろん、多くの人はすでにこの考え方を無意識に行っているかもしれません。しかし、この考え方を意識的に活用することで、現場での問題解決に大いに役に立つと私は考えています。問題が起きた際は、現象だけでなく、その背後の実体や本質をしっかりと捉え、その上で適切な対応策を見つける能力を身につけてほしいと願っています。この思考法が社内に浸透していることもあってか、「段付きピンの一発加工技術」のような技術開発において、アイデアや原理は私が提案したものの、それを具体的な方法論や技術に落とし込み、低コストで高い精度を実現してくれたのは現場の社員の力です。

 

100年企業を目指せるように

御社が抱えている課題について教えてください。

大野氏:宣伝力を高めて当社のことを知ってもらうことが課題ですね。ニッチな市場をターゲットとしていることもあり、「日本中探したのに見つからなかった。もっと早く出会いたかった。」とお客様から言われることがあります。ホームページなどを通したWeb上での発信方法は工夫していきたいです。

また、当社の技術が必要とされている場に赴くことも重要だと考えています。具体的には、当社で加工した製品を使用しているお客様が異なる業界の展示会に出展する際に、他の様々な形状の製品を一緒に展示させてもらい、その製品の説明のために、当社の社員が展示ブースでサポートする話も出ています。

展示会出店の様子

 

 

今後、どのような企業にしていきたいとお考えでしょうか。

大野氏:組織と技術の両面で世代交代できる新陳代謝のある会社にしていきたいと考えています。組織面では、事業継承がスムーズに行える体制を整え、息子が後継者として自然とリーダーシップを発揮できるようにしたいと考えています。技術面では、当社の技術は理論的に掘り下げてしっかりと体系がつくられていると言いながらも、ある程度は属人的な部分が存在します。測定器だけでは測れないような技術やノウハウを次世代にもしっかりと伝承していくことが重要だと考えています。

当社創立30年目の節目に「100年企業を目指せるようになろう」と社員に伝えました。会社を存続させることだけを意味するのではなく、何世代にもわたって世の中に価値を提供し続ける企業にしていかなければならないと思っています。そのための仕組みや体制をこれからも継続的に作り上げていきたいです。


業種   金属製品製造業

設立年月          1989年4月10日

資本金              10,000,000円

従業員数          43人

代表者              大野 和実

本社所在地      神奈川県横浜市緑区白山1丁目11番40号

電話番号          045-935-0650

公式HP           https://www.alphatech-yokohama.co.jp/

この記事の著者

則武卓磨

則武卓磨中小企業診断士

2023年中小企業診断士登録。大学院修了後、システムエンジニアとしてIT企業に入社。プロジェクトリーダとして、システムの要件定義から導入までを一貫して行い、高品質なシステム開発を常に心掛けている。お客さまの抱える悩みにじっくりと向き合い、最善の解決策をともに模索する良き相談相手を目指している。IT導入支援、若手起業家の創業支援、執筆活動を行う。

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